ザ・マミ

第五章 イッツ・ショウ・タイム(3)


 「もーしもし、ヒステリーの魔女さん。 聞こえますか」

 ”ヒステリーとは何よ!”

 「やっと通じた……こちらは『MkU』と対峙中。 急ぎ合流されたし。 場所はマジステール大通り」

 ”判ったわよ……あー、タクシー代がない!”

 「走ってこい!」 エミは乱暴に携帯を切って、ビルの上の『MkU』に目をやる。 「切り札が来るまで大人して……いないか!」


 『MkU』が動いた。 下に飛び降りると同時にビルの屋上に『魔包帯』を絡め、ス○イダーマンの様にターザン移動で迫ってくる。

 『それ、スーチャン!バァァァァルカン!』

 「すーちゃん、ウツゾォォォォ!」

 サンタ人形に扮したスーチャンが、手にした『トイテック M134バルカン』を振り回すと、光るBB弾の束が、イブの夜空に流星雨を作り出

した。

 「ワー!?目ガ回ルゥ」

 しかし、体の小さいスーチャンが、宙吊りのまま電動BBバルカン砲に振り回される為、無駄に弾をばら撒くだけ……ところが

 キキキッ!? 『MkU』が悲鳴を上げた。 どういうわけか、四方八方からBB弾が雨あられと降り注いで来る。 『魔包帯』を回転させ

てBB弾を振り払いつつ、一旦手近のビルの屋上に着地した。

 「どうなってるの?」 ミスティの方を見てエミは納得した。 左頬のイエロータトゥーが輝いてる。 (なるほど運……かなぁ?)

 宙に撒かれたBB弾は、物理法則に反した軌道を描いて『MkU』にオールレンジ攻撃を仕掛け続ける。

 「まぁ、時間稼ぎにはなるか」


 その頃、山谷川トリオはやっと大通りに到着した。

 「原君、応援は!?」

 ”すみません、マンションの火事騒ぎと、そこから『ザ・マミ』が飛び出したとの情報であちこちに……”

 川上刑事は渋い顔で無線を戻し、マジステール大通りにパトカーを乗り入れた。

 「ずいぶんな人出だな」

 「イブですからねぇ……あ、あれですか!?」 谷鑑識課員が巨大ツリーことスライムタンを指差した。

 「あれが歩いてきたって? 何かの間違いだろうよ」

 「山さん、上! 奴です、『ザ・マミ』です!」

 「なに!?」

 見上げれば、ビルの縁で白い人影が激しく動き回っており、無数のBB弾が降り注いでいる……が、それがパタリと止んだ。


 「スーチャン、打チ止メー」

 「それを言うなら弾切れ!……わっ、奴がまた動き出した」

 キーッ! 邪魔が無くなり、再び宙に飛び出す『MkU』。 サーチライトの光芒が『MkU』を追うが、捕らえきれない。

 『なんの、スライムタン! 中距離攻撃に切り替え! それ、ゴールド、シルバー、モール・アタッッッッック!』

 ミャーーー!! 今度はスライムタンが叫び、クリスマスツリーを彩っていた金銀のモールが解け、すさまじい勢いでムチの様に繰り出さ

れた。

 キーッ!! 仰天してモールを避ける『MkU』。 軌道を変えながら、『魔包帯』でスライムタンを攻撃するが、モールの方が圧倒的に長

い為届かない。

 『素人め!間合いが遠いわ!』

 「モールが長すぎる!」 エミが顔を覆う。


 「どわーっ!」

 モールの先が、山谷川トリオのパトカー目掛け飛んできた。

 「バック、いや前だ!」

 川上刑事は慌ててパトカーを前に出してモールの先をかいくぐった。

 うわー! キャー! 振り回されるモールが、野次馬達の方にも向かってきて、大変な騒ぎになっている。

 「なんだ!あれは!」

 「何だと言われても……神の奇跡とかいう奴では」

 「あんな乱暴な神の奇跡があっってたまるか!」 山之辺刑事はスピーカのスイッチを入れた。

 『市民の皆様、クリススツリーから離れてください。 危険です!!』


 「さすが山之辺さん、市民の安全第一よね……あら?」 エミは異変に気づいた。 隣のベツレヘムの星こと、スライムタン・リーダの息

が上がってきている。

 ミューハー……ミューハー 

 「ミスティ、スライムタンが疲れてきているわ」

 『あー、それはまずいかな……ありゃ?』

 『MkU』がモールの射程外に着地し、こちらをじっと見ている。

 『ここがクリスマスツリーの操縦席とばれたかなぁ』

 「拡声機で怒鳴り続けりゃ、どんな馬鹿でも気がつくわい!」


 『MKU』は両手の『魔包帯』を前方二つのビルに絡めた。 上から見れば白いVの字が見え、その頂点に『MkU』がいる様に見えるだ

ろう、巨大なパチンコの様に。 その弾は『MKU』そのものだ。


 「あいつ、突っ込んでくるつもり!」 エミが言うのと、『MKU』が唸りを上げて飛び出すのが同時だった。

 白い弾丸と化す『MKU』! 目標はベツレヘムの星!!

 『スーチャン、スライムタン、クラッカーだぁぁ!』

 ミスティが叫ぶと、巨大クリスマスツリーが太い枝を伸ばして『折り返し点』を逆さまに構え、スーチャンがバルカン砲を背に飛び降り、『

折り返し点』の先から出ているロープを引っ張った。

 ズーン! 天を向いた『折り返し点』の底から白煙が吹き上がり、『MKU』の行く手を遮る。

 キー!? バババババッ!

 白煙に突っ込んだ『MKU』は、カーテンかスダレの様なものが全身に絡みつくのを感じた。 自由が利かない。 『魔包帯』を飛ばそう

としても、手すら動かない。 何が起きているのか、彼女には判らなかった。


 「な……なんなの?」

 エミの眼前に白い煙が吹き上がり、続いてそそりたった茶色い壁、それが大きく膨れて鈍い音がした。

 「ガ……ガムテープ!?」

 『そーのとおり! みたか、対『MKU』用決戦兵器・巨大ガムテープ・クラッカーの威力を』


 モゴモゴ……モゴゴゴゴ……茶色いガムテープの塊となった『MKU』は、巨大クリスマスツリーの枝に受け止められ、それから地面に

下ろされた。

 ズムッ! 塊が揺れた。 『魔包帯』が『依代』から分離したらしい。 しかし、ガムテープでぐるぐるに巻かれているのだ、糸くず一本たり

とて逃れられるはずは無かった。

 クリスマスの酔天宮町を震撼させた『ザ・マミ』は、ついに捕獲された。 完璧に。

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