月光蝶

15:羽化


−次の満月−
ルウがゆっくり目を覚ます。
目を開けようとするが、突っ張る感じがあり、まぶたが開かない。
『く…ボク、何かひどい格好になったような。…」
相変わらず目は見えないが、皮膚感覚が戻っているので、自分の肌がガサガサ言うのがわかる。
なにかに包まれている。
女王『…さあ、人の姿にお別れしなさい…』
自分を取り巻いている触手がサワサワ動き出した。
ルウ『?』
触手がトロリとした液体を分泌しながら自分をなですさる。
ガサッとした感じが、皮膚の上に張りついているものから来ていることに気づく。
それは、かってルウの皮膚だったもの、人の形を作っていたものであった。
触手はやさしくルウをなで、古い皮膚を湿らせ、その下の新しい皮膚を傷つけないよう剥がしていく。

触手がなければ、茶色の人型のさなぎが崩れ、その下から蒼い、なまめかしい肌が現れてくるのが見えるだろう。

ルウ『ひゃう!?』
新しい肌が剥き出しになった部分に、ヌラリと触手が触れる。
その個所がどんどん増えていく。
できたばかりの肌に加えられる、濡れた触手の愛撫。
最初の時とは違う、とてもやさしい、すべるような愛撫。今度は、外側から暖かいものが染み込んでくる。
ルウ『はぁ…あはん…お母様…ルウの全ては…あなたのものです…』
撫でられる度、女王に対して思慕の情が強くなる。
女王への忠誠心が心に染み込む。
魔性の母性に捕らえられていく。
ルウはそれがとても良くなっていた。

額には二本の触角が、巻き込まれている。
それが、すっと伸びる。
触角が伸びきると、外の月光蝶の会話、いや心の声が聞こえるようになる。
それに合わせて、女王とルウを繋いでいた首の触手が離れていく。

月光蝶たちが、女王の前に集まっている。
月光蝶1『そろそろかしら』
月光蝶2『どんな子になったのかしら』
女王『娘達、…お聞きなさい』
女王の声が響き思わず、月光蝶達が返事する。
月光蝶達『はい、お母様』
そして、ルウも夢うつつで答える…
『はぁい、お母様…』
その声は月光蝶達にも聞こえた。
女王『新しい妹の誕生よ…大事にしてあげて…』
ルウの心に月光蝶・女王の声が響く、心地よい、…
『ボクは月光蝶…』ルウはうっとりと呟く。
もうルウは人ではなかった。

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