月光蝶

3:女王


2人の眼前には奇妙なものが在った。
裸の女性の上半身が木に寄りかかっている、人の背丈の倍ほどのところだ。
但し、木と同じ色の皮膚のそれを、女と呼べればだが。
そして、下半身は、色こそ上半身と同じだが、巨大な芋虫のようになっていて、地面にまで達している。
芋虫状の部分は、太いところでは熊でも入りそうなほど太い。
芋虫部分の真中には筋が走っていて、開くような気配がある。
女は目を閉じてじっとしている。
よく見ると、芋虫の部分と木の幹が糸で結ばれている。それで体を支えているようだ

ガイ「こいつは。月光蝶の女王に違いない…」
ルウ「なぜ、そう思うの?」
「見ろ、こいつの頭を、触角がある。あれは、月光蝶の触角だ」

月光蝶は全て人間の女性型だが、体格の良い戦闘種と人間なみの普通種が知られていることが知られていた。
蜂に似た行動をとることから、女王の存在が噂されていたが、確認されていなかった。

ガイは、それに近づく。
「ガイ?」
「腹の中は子袋だろう。月光蝶の子供でも入っていたらしめたもんだが…」
そのとき、女は目を開いて、ガイを見た。
ガイは、ギョッとするが、相手に羽がないのを見て取ると用心しながら近づいていく。
「ヘッ、羽さえなきゃたいしたことはねえ」
月光蝶の最大の武器は、人の心を奪う魔力を秘めた羽だった。
その羽の輝きを目にしたものは、心奪われ、言いなりになるという。

ガイは剣をかまえる。
その時、芋虫部分が縦に開き、中から数十本の触手が吐き出される。
剣でなぎ払う間もなく、手足にからみつく。
「ぐわっ?…うわっ」
ガイの手が痺れ、剣を取り落とす。
あっという間に芋虫の中に引き込まれる。
「うあっあ・あ・あああ」
ぬちゃぬちゃうごめく触手の群れの中でガイがもがく。
逃げ出そうとするが、力が抜ける。
手をルウの方に突き出し、助けを請うが、また引き込まれ手を出しを繰り返す。

ルウは、ガイを助けようと近づくが、ルウにも触手が伸びてくる
あわてて飛び下がる。
さらに、芋虫の寄りかかっている木の向こう側に、月光蝶の羽が見え隠れしだした。

後ずさりして、くるりと振り返り、逃げ出そうとする。
が、目の中に輝く極彩色の模様が飛び込んでくる。
ルウ「!」
足が止まる。
月光蝶の羽の模様が妖しく動く。
それを目にすると、ルウの目から意思の光が消えた。
もう、考える事もできない。
そして、ルウは眼前に立つ月光蝶の戦士の虜となった。

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