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19.Round 4−2:エミ VS …あれ?


英一郎はゆっくりと立ち上がり、厳しい顔でエミ、ミスティ、美囲の順に視線を移す。

そして隙のない足取りでエミに歩み寄る。 エミは英に押されるように僅かに身を引いた。

英はエミから二歩の位置で立ち止まり、二人の間に張り詰めた空気が流れる。

英は表情を変えないまま身をかがめ、美囲の様子を確かめた。 その口元がかすかに動く。

「…」

英は何か呟き、美囲の口に耳を寄せる。 そしてニ三度頷くと、すっと立ち上がってエミを睨む。

エミは両手をかすかに動かして身構えかけた。 しかし、英はエミに構わず部屋をぐるりと見回した。


「…」英の視線が一点で止まる。 英は視線の方向に歩いていくと、身をかがめて黒いスピーカのスイッチを入れ

金色のマイクを手に戻ってきた。

(?)怪訝な表情になるエミとミスティ。 

英はつかつかとエミ歩み寄り、エミの右手を左手で掴む。

意表を突かれたエミが彼の手を振り解くより先に、英はエミの右手を高々と差し上げ、マイクを手に宣言した。


「判定:エミ姐さんが美囲を軽く手玉に取りました!!」

エミとミスティがあきれ返る。

「おい…」

「いやー姐さん対したもんです!『女殺しの美囲』を軽く手玉に取ったその技!」

「いや、ちょっと…」

「僅かの間に男5人を悶絶!並みの女性に出来る事ではありません!」

「だから…」「あー、一人はミスティが…」
「おお、こちらのお嬢さんも只者ではない!しかも二人とも見るものを惑わすこの美しさ!この英、感服いたしました」

「美しい?…」「そうかな〜♪」わずかに照れる二人。

「知らぬ事とはいえ大変なご無礼を。まことにすみません。ではこれで…」英はそう言って、お辞儀をしながら玄関に

向かう。 


「待てぃ」振り向いて逃げ出そうとする英の襟首をエミがむんずと捕まえ、思い切り引っ張った。

「ああっ、ご無体な」背中からひっくり返る英。

「あなた…どういうつもり?」エミが眉を寄せる。

「は?」キョトンとする英。

「さっきまで私やこの子を手篭めにしようとしていたでしょう!それがどうしていきなり態度を変えるの!?」妙な所に

文句をつけるエミ。

「へへ俺は『日和見の英』と申しまして。強い相手には媚びへつらう主義でして」そういって愛想笑いをする英。

「ぐわーっ!」一声吼えて頭を抱えるエミ。

英はニタニタ笑ってもみ手をし、ミスティは事態が把握できなくてキョトンとしている。


少ししてエミは立ち直った。

「あなた…よくそれでヤクザなんかやってられるわね」英の態度が気に入らないエミは言いがかりを付け出した。

「へへ、何をおっしゃいます。あの…」そう言って窓を指した。 鶴組長が馬鹿笑いをしながら通り過ぎる。 「親分や

そこらに転がっている連中に、カメラや偽カードが扱えると思いますか?」

「…そうか、貴方カードの偽造屋なのね…」エミは半分納得した。「じゃあ、そのモノは?」そう言って英のズボンを

指差す。 彼のイチモツにも真珠が入れてあった。

「まあ…この世界での付き合いみたいなものでして」そう言って腕を曲げ、貧相な力こぶを作ってみせる。「この通り

体に自身があるわけでもありませんので」

「ふーん」エミの背後で気のない相槌を打つミスティ。

「つまり貴方は頭脳労働担当って訳なんだ」とエミ。

「まぁそうで。覗きカメラ、スキミング…等々…まぁ他の奴には真似できませんね」と半分自慢げに言う英。

「でも腕っ節は大したことがない。 だから自分より強い相手に会ったときは、口八丁で逃げを打つと…」と引き取る

エミ。
「へぇ…または…」ニタリと笑う英。「…時間稼ぎを」言うと同時に飛び下がり、二人と距離をとる英。


「!」エミはようやく気がついた。 馬鹿笑いが聞こえなくなっている。

ズシッ… 重々しい足音がして、リビングのテラス側からがっしりした人影が入ってきた。

「へっ…へへっ…なかなかいい味の女だったぜ」

鶴組長は下卑た笑いを浮かべ、そそりたったままのイチモツを隠そうともしていない。

「しかし、一発ぶち込んだらぱっと消えちまったぞ? へへっ、お前らもいっちまうとあんな風に消えるのか?」エミ達に

余裕の口調で言う。

英は、鶴組長の背中に隠れるようにして「親分…こいつら『人間』じゃ…」と言った。

「ほう?」感心したように言う「『外人娘』とかいう奴か?」

「それを言うなら『人外娘』です」訂正する英。

「大して違わん。第一…」じろじろとエミの裸身を鑑賞しながら 「わしとて昔は血も涙もない『人非人』と言われた男だ

」と胸を張る鶴組長。

「流石、親分!」と背後で扇子を広げてヨイショする英。

「…」エミは無言で鶴組長と対峙する。 一人が二人になったところで今更恐れるには足らない…素手ならば…


「英!」「へっ」「アレをよこせ!」

鶴組長が言うと、英は彼の手に黒い金属の塊を握らせた…拳銃のようだ。 「!」エミが目に見えて緊張する。 しか

し…

「違う!相手は女だろうが!」「へっ?でも…」英が躊躇った。

「ぐすぐす抜かすな!」鶴組長に怒鳴られ、英は慌てて拳銃を受け取り、代わりに透明なビンを渡す。

「?」エミはほっとすると同時に、組長が手にしている液体のを見定めようと目を凝らす。

「エミ」鶴組長の呼びかけに一瞬送れてエミが応える。「何よ」

「どうだ?そのねーちゃん共々俺の手下にならねぇか?」ビンのふたを捻って開けながら鶴組長が言う。

「何を言いだすのよ」

「なに、どうやらお前達も大っぴらに表を歩ける身の上じゃなさそうなんでな」ニタリと笑う鶴組長。

「それならお前らの口を塞ぐ必要はねぇ。 そうなると、わしの手下どもをのしたこの手際に加えてその体…」今度は

欲情した目つきでエミの裸身を無遠慮に眺める。

「ぜひ欲しい」

「…断るわ」エミはそう言ってからちらりとミスティを見る「…私は」

ミスティもこくこくと首を振って否定の意思をあらわにする。

「…そうか…」ちょっと手を止めて「ならば腕ずく、いや寝技で言うことをきかせるとしようか」 ぐふふっと笑う鶴組長。

「寝技?…くくっ」応えるように喉を鳴らして笑うエミ「忘れたの?私の体の味を…うふっ…もう一度念入りに可愛がっ

て欲しいの?…ふふっ…」

エミの体がしなやかに動き、男を狙うメスの獣の本性をわずかに見せる。

二人の間の空気が張り詰めた。


「ぐふっ…いくぞエミ!」鶴組長はビンの中身を頭からかぶった。 トロリとした液体が毛のない頭を光らせつつ流れ

落ちる。

ふんっ!! 気合とともに鶴組長は両手で顔をはたき、両手を交差させつつ自分の肩を掴む。 

とりゃあ!! 英が背後から投げた手ぬぐいをはっしと掴み、ぶんぶん回して一瞬のうちに全身に液体を塗りつけた。

チョーン!! 右手、右足を前に突き出して見得をきる。 「秘儀、油親父!」


…全身にベビーオイルを塗りたくった鶴組長を前にして、ポカンと口をあけるエミとミスティ…

エミはなんともいえない表情をすると、ミスティに声をかける。

「ミスティ…ちゃん…」

「…なーに…」

「…今までに私が4人、貴方が1人だったわよね…」

「…だから?…」

「…行け」

エミはミスティを前に押し出した。

ひぃぇぇぇぇ…

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