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10.ようやく来ました犠牲者の方々


エミは、荷造りされたまま恨めしげに自分をみているピンク色の物体をまじまじと見つめ、大きなため息をついた。

「はぁ…」(泣きたいのはこっちよ…まあ、こうなったらこの子も紐を解くしかないでしょう。)


エミは無理やり落ち着くと、優しい口調で話し掛ける。

「ね、ミスティちゃん。 この紐の解き方を教えて」

「…」

「お互いに紐を解きましょう。 そうするしかないでしょう?」諭すよう言う。

「…」黙っているミスティ。

「意地を張っても仕方ないでしょう? 怒らないから解き方を教えて」

「本当に怒らない?」恐る恐るミスティが言う。

「怒らないから」にっこり笑うエミ。

「あのね…あの…」ミスティは一度言葉を切った。 そして続きを口にする。

「縛られていない人が解こうとすればあっさり解けるんだけど…」最後は口ごもる。

エミの背中を汗が伝い落ちる…いやな予感が…非常に嫌な予感がする。

「…へぇ…面白い仕掛けねぇ…それならお互いに解きあえばいいのよね?…」望みを込めて言う。

ミスティが首を横に振った。

「この『紐』は全部同じなの。 …コウモリ女ちゃんもミスティも縛られているわけだから…あたし達はどっちも解けないの…」

ミスティは、エヘヘッと誤魔化すように笑った。

エミは大きく息を吸い込んだ。 そして、肺の中身を怒声に変える。

「どーすんのょ!!このボケ娘!!」

「ふぇーん。怒んないって言ったのにぃ」

「怒ってないわょ!!怒鳴ってるだけょ!!」

不毛な口げんか(一方的にエミが怒鳴っているだけだが)をする二人の上を、一羽のカラスが通り過ぎながら一声鳴く。

あほー…

「じゃっかましぃ!!」

「コウモリ女ちゃん、下品…」


…そして日が落ちた…


「…」

「コウモリ女ちゃん?」

「…」

「ねぇ?」

「…」

「死んじゃった?」

「…生きてるわよ…」

「良かった」

「どこが」

日が暮れて2,3時間は立ったろうか。 事態はまったく進展していない。

エミは首をぐるりと回し、肩をほぐす。

「…?」

エミは目を凝らした。 木々の間に光が見えたのだ。

(あれは…自動車の…)

今度ははっきりと見えた。 車のヘッドライトだ。 林道を車がやって来るのだ。

「助かったぁ」

「えっ!? なになに!?」エミ以上にがっちり縛られているミスティは姿勢を変えられないので、まだライトに気が付いていない。

「誰か来るのよ。 こんな所に今時分来るなんて、誰でもいいけど…」

「?」途中から小声になったエミに、ミスティが怪訝な表情をした。

(誰でも…他にいないじゃない…まずいことになったわ…)


ジャリジャリジャリ…未舗装の林道をベンツがバンを従えてゆっくり登って来る。 言わずと知れた、逃亡中の鶴組長と子分達だ。

「親分。 今度こそこの道で間違いないでしょうね」運転している若いチンピラ…英一郎がうんざりしたように言う。

「英。 手前誰に向って口きいてるつもりだ」後部シートにふんぞり返った鶴組長が、ドスの聞いた声で応える。

「だって、これで五回目ですぜ。 本当なら日が落ちる前に着くはずだって…」

「やかましい!」

背後から怒鳴られ、運転席の英は首を竦める。 

ヘッドライトが、無愛想に立ち並ぶ杉林を無意味に照らす…

「?」英が身を乗り出し、首をひねった。

「どうした?」と助手席のチンピラ…美囲次郎が尋ねた。

「いや…何か白い物が見えたような気が…あれ? 親分、分かれ道ですぜ」

英の言うとおり、杉林の中で緩い左へのカーブを描いている道に、右手に車が入れるほどの小道が連なっている。

「ん? 右の方は…先で林が切れてるぜ。 道も細い…空き地か駐車場じゃねぇか」と美囲。

「そのようだ…?」英が急に言葉を切り、身を乗り出すようにした。 眼を凝らす。「親分、誰かいるみたいですぜ」

「あぁ?」缶ビールを開けていた鶴組長が、めんどくさそうに返事をする。

「ここはただの杉山だ。 こんな時間に人がいるはずかあるか」

「へぇ、ですが何かいるようです」言いよどむ英。

「ふん、そうか」英に向って手を振る。「お前らでちょっくら見て来い」

英と美囲はベンツから降り、ヘッドライトの明かりを頼りに空き地に踏み込んだ。


…女だ!裸のスケがいる!… 英の叫びが響いた。

「…なにぃ!!」 ベンツから鶴組長が飛び出し、空き地に走りこんで来た。

その背後でバンの扉が開き、乗っていたチンピラがわれ先に飛び出して…ドアに詰まってもがいている。

ドタドタドタ。 革靴を鳴らし、厚く降り積もった杉の葉とスギ花粉を巻き上げつつ、鶴組長は英と美囲の所に駆け寄る。

食い入るように『裸の女』(主にエミ)を見つめる二人を押しのけた。

「…」

英の叫びでスケベ心丸出しで駆けつけてきたが、縛られた裸の女が転がっている光景にさすがに戸惑う。

そして、まぶしそうに目を細める女の顔を見てもう一度驚いた。

「…ん?お前ぇはエミ?」

そこに残りのチンピラが駆け寄って来た。 足元が良く見えないのに全速力で走ってきたので、止まるに止まれず組長に体当たりする格好となった。

「ぐはっ!!」鶴組長は背後から4人のチンピラ突き飛ばされた。 エミを飛び越えてミスティの隠れていたスギ花粉の小山に頭から突っ込む。

「わっ!?」「親分!!」「大丈夫ですか!?」

チンピラたちは慌ててスギ花粉の山から鶴組長を引っ張り出した。

タップリとスギ花粉を食らわされ、怒り狂った組長がチンピラたちを叩きのめす一幕があり…そして…


「…と言うわけなの」

「ふん? 客に車で連れまわされ、縛られた挙句に此処にほうり出された…」

鶴組長はエミの『事情説明』を聞いて唸っている。 もちろん口からでまかせだが『事実』よりはまだありそうな話をとっさに作ったのだ。

ちなみにミスティは、皆エミの方ばかりに集まるのでむくれてしまい、今は先程飛んできたスポーツ新聞を眺めている。

「そりゃ災難だったな。 まぁ、無事だっただけでも喜ぶべきだ。 で、そっちのいかれた格好の娘はなんだ?お前の友達か?」

とミスティを指す。

「知らないわ。 先に車に乗せられてたのよ。 ねぇ?」そう言ってエミはミスティに目配せする。

「…」ところがミスティは、スポーツ新聞を見ていて、エミの合図も気がつかない。

(このアホ!!)腹の中で毒づいてから、エミはしなを作って組長に媚びる。

「ね、組長さん。助けてくださらない?」

「あ?…ああ、そりゃかまわんが…」組長は口篭もる。 自由にすればエミは当然警察を呼ぶ…と考えているようだ。

 エミは組長の心配に気が付いていた。

「こんな恥ずかしい目に合ったなんて…他の人に言えないわ…」と目を伏せる。 その言葉に組長はほっとしたようだ。

「そ、そうか… しかしこの後はどうする気だ? もう夜だし車のとおる道まで軽く5kmはあるぞ?」

「組長さんたちは行くあてがあるんでしょ? 今夜はご一緒させてくださらない? お礼もしたいし…」そう言って組長に情熱的な流し目を送る。

「お…おおそうか。 お礼をねぇ…ヘへ」やに下がる鶴組長。 組長の背後に控えたチンピラ達も下卑た笑いを隠そうともしない。

エミはその豊満な体を晒しまくっている。 その女が紐を解くだけで相手をしてくれると言うのだから断る理由は何処にも無い。

鶴組長も期待にズボンを…いや胸をふくらませてエミを拘束している紐に手をかけようとした。


「あー、おじちゃんたちは有名人なんだ♪」

突然ミスティが素っ頓狂な声を上げた。

「え?」鶴組長、チンピラ達、そしてエミがきょとんとする。

エミはミスティに、そして彼女が読んでいたスポーツ新聞に眼を落とす…その顔が一気に青ざめる。

ミスティが見ていたのは社会欄…そこにはこう書いてあった。

『鶴亀組 構成員が逮捕! 組長以下が逃亡配!!』

そして、鶴組長の写真が大きく載せられていた…

エミはおそるおそる組長を見る。 鶴組長は無表情になってその新聞を見ている。

「…ミスティちゃん…あなたそれ読めないの…」地獄から響くような声でエミがミスティを咎める。

「オゥ♪ワタシィニホンゴヨッメマセン♪」と楽しげに応えるミスティ。

「…」脱力して突っ伏すエミ。


「…組長、どうします…」英が声をかけた。

「…このままにはしておけねぇ…取りあえず今夜は付き合ってもらおうかい」固い声で鶴組長は言い、エミをじろりと睨む。

「そっちの桃色アーパー娘は?」

「『お持ち帰り』と書いてあるんだ、その通りにしようじゃねぇか」

「へぃ」

そしてエミとミスティは緊縛状態のまま車に乗せられてしまった。


ジャリジャリジャリ…

一行は空き地からさらに10分ほど進んだ所で車を止めた。

エミもミスティも車から降ろされる。

「へぇ…」「おぉ…」エミやチンピラの口から感嘆の呟きが漏れる。

一行が着いたのは、太い杉材を組み合わせてある洒落た作りのログハウスだった。

二階建てで、一階が地面から1mほど浮かしてある為かかなり大きい印象があり、一階を一周できる形でテラスが作られている。


「ウ…ウ…」

「?」

ミスティが苦しそうな声を出し、ミスティを抱えているチンピラ…恵布六郎が不審そうに覗き込んだ。

「どうした?」と鶴組長。

「へぇ。この娘が」と恵布。

「ふん。裸で腹でも冷えたか。 すぐ暖めてやる。 へっへっ」といやらしい笑いを浮かべる。

「…ここ…おじ様のお屋敷?…」ミスティが搾り出す様に言う。

「ほぅ、『お屋敷』とは言ってくれる。 そうよ、この俺様の『お屋敷』よ」と自慢げな鶴組長。

「ミスティを招待してくれるの…」ミスティは油汗を浮かべながらも笑顔で言う。

「へっへっ、そうとも。ミスティちゃんをご招待してやるよ」

そう言った途端、ミスティの様子が変わった。

たった今まで苦しそうだったのが、けろりとした様子で、「わぁい♪」と歓声を上げる。

組長はちょっと面食らったが、さして気にするでもなく先頭にたってログハウスに入った。


大きさの割に玄関は小さかった。 代わりにリビングが大きく取ってあり、二階まで吹き抜けで16畳半もあった。

エミとミスティ以外はリビングのソファに座り込んで一息入れた。

「いやー、広いっすねぇ」「二階は寝室ですか?」

「おう、そっちの…」そう言って鶴組長は、玄関の反対側に壁面に作られた階段を指差す。

「階段を上がった所が寝室だ。 ニ間の続き部屋になっている。二階の奥はAVルームと書斎だ」

「へー、二階の廊下からリビングが見下ろせるんですねぇ…民宿が開けますぜ」

「それを言うならペンションと言え」

思いの他立派なログハウスに始めて来たチンピラ達は嬉しそうに辺りを見回し、鶴組長も満更でもない様子だ。


「さてと…」ひとしきりログハウスの検分が終わると、組長はエミ達を見下ろす。

「そろそろ…へっへっ…」英が嬉しそうに笑い手を伸ばす…

「待て」と組長が英を止めた。「へ?」

「どうする気だ?」組長が英を睨む。

「どうすっるって…いえもう剥いてありますし、このまま荷解きすれば…」

「そうじゃねぇ。俺達は7人。女は二人だろうが!」

「はぁ…でも乱交ってのも…」英の言葉に組長が眦を吊り上げる。

「馬鹿か手前は! 男のほうが多いんだぞ! それで乱交なんぞやったらどうなるか考えてみろ」

組長に言われるまま、チンピラ達は凹凸の組み合わせを考えてみる…


<自主規制>


「よくわかりやした」顔を青くした英が応えた。

「うむ、ここはやはり一人ずつだな。まず俺がエミと…」

「げっ!」「そりゃありませんぜ!」「不公平です!!」

チンピラが一斉に文句を言う。 

鶴組長が親分の権威を振りかざすが、チンピラ達も『おやじの使用後』はごめんこうむりたいので譲らない。

エミとミスティを無視したまま、勝手な順番争いは続き、最後は公平にくじ引きとなった。


(勝手な奴ら…まぁ好都合だけど…)エミは冷たい怒りを覚え、同時にほくそえむ。

組長を含め、全員武器を持っている。 体の勝負ならば望むところだが…

(せめて二人まで…三人以上になると惑わしきれない…)

そしてもう一つ…

(あの桃色小悪魔…何をやるか判らないし…)

考えにふけっている間にくじ引きが終わったようだ。

「ちっ」「へへっ、悪いですね」

「くっそ、小娘の方かよ」「なんなら、代わろうか?」「いや、まぁ××には違いない」

ひどい事を言いながら、井伊五郎がエミを連れ、恵布六郎がミスティをぶら下げて二階に上がろうとする。

「あーん、あたしのリュック」「ねぇ、身だしなみの道具ぐらい持たせていただけません事?」

エミとミスティが同じ様な文句を言った。

チンピラ二人が、エミとミスティの荷物を持っていこうとすると、鶴組長がそれを止め荷物を探らせる。

そして二人の携帯電話を取り上げてテーブルに放り出した。


二階の寝室のそれぞれに、チンピラ二人に連れられてミスティ、エミが同時に入る。

期せずして二人の視線が交差する。

(…どっちが速いか)

(…勝負!)

第2Roundのゴングが鳴った。

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