VS
8.Round 1−1:エミ VS ミスティ
ミスティは水中眼鏡をむしりとり、シュノーケルを外してリュックサックにしまう。(そんなものを持ち歩くな…と誰かの突っ込み。)
目と口の周り、擦ったのか鼻の頭だけ花粉がはげて白地にピンクのパンダ顔…
だが当人は気づいていないのか、満面の笑顔で「ぬっふっふっ。やたっ。捕まえた!」と嬉しそうに言う。
一方のエミは、ピンクの花粉怪人女と態度とセリフで自分が『捕獲』された事に気がついた。
理不尽な扱いに、ふつふつと怒りが湧き起こる。
(この!!…まって落ち着くのよエミ。 感情的になっても事態は好転しない。)
「ねえ…こっちを見て…」そう言いながら両眼に『力』を集める。 学校の屋上で少年にしたように、この花粉娘を欲情させようと言うのだが…
(あれ?)『力』が発揮される気配が無い。
「なーにぃ?…ぷっ!目を剥いて何をしてるの、お・ね・え・さ・ま♪」
(変ねぇ…しょうがない…癪に障るけど)
今度は下手に出てみる。
「ねえお嬢さん。 何か誤解があるようなんですけど。 この縄(?)を解いていただけません」と言ってニッコリ微笑む。
ミスティがぶんぶんと首を横に振った。
「駄目だよーん♪」
むっとするエミ。 ならば威嚇して…と思ったが、この花粉娘をどう脅せばいいか見当が着かない。
考えてみると、エミは初対面の相手に敵対的な態度を取られた事も、交渉した経験も無かった。
(最近は初対面の相手には『魔眼』を使うか、さもなければお花代の交渉ばっかりだったし…)
そこで「幾ら欲しいの」と聞いてみたがニコニコ笑って首を振るだけだ。
エミはそこでこの娘にも角がある事に、そして先程感じた『何か』の正体がこの娘であった事にようやく気がついた。
(この娘まともじゃ…いいえこの娘も人じゃないの?)
エミの中で警戒心のレベルが急上昇する。
(何者?)
黙ってしまったエミをミスティは楽しそうに見ている。
(うふ…うふふ…まさか実験しようと思ってた『緊縛!悪魔のハンモック』に捕まってくれるなんて。 なーんてお馬鹿なコウモリ女なんでしょう♪)
とエミが聞いたら激怒しそうな事を考えていた。 そして、この女をどうしようかと考えて、じろじろと遠慮の無い視線をエミに注ぐ。
「素敵な体よねぇ、飛べるなんて。 胸も立派だし…むぅ…何よちょっとぐらい大きいからって…」
いつのまにか考えている事を口に出している。
この態度にエミは身をすくめた。 花粉娘が何を考えているのか全く判らないが、よくない気配だ。
(まず…この花粉娘の正体を探らないと。 幸い口は軽そうだし、話をしてみましょうか…)
「ねぇ」
「うーん…魂…でも人じゃないみたいだし…日本住吸血コウモリ女…」
「ねぇ貴方、聞きたい事があるんだけど」
「…何よぉ。 何が聞きたいの?」
エミは聞き返されて言葉に詰まった。 間の抜けた話だが、彼女は初対面の相手から情報を引き出すような会話の経験がなかった。
「えーと」(落ち着いて、こういう場合は過去の経験で似た状況を設定して…そう、ここは会社の面接所…私は面接官であれは入社試験を受けにきた
アホな女学生と…)
勝手に頭の中で役回りを振る。
(ブルーのスーツを着て眼鏡をかけた知的な私が、机の向こうに座ってニコニコしているアホ女学生に声をかける。)
「貴方のお名前は?」
澄ました声で聞かれ、ミスティはキョトンとした。(「当然の質問にすぐに答えられない」減点1。)
「貴方のお名前は?」もう一度聞くエミ。
「うふ…聞いて驚け。電脳小悪魔ミスティちゃんとはあたしの事よ♪」(…「自意識過剰」減点1。)
「えーミスティさん。当社…じゃなかった此処で何をしていましたか?」
「ぬっふっふっ新薬や魔道具の研究よぉ」
「ほう、新薬…」(…ふむ研究テーマが一致と追加点1…)「でどのような?」
「媚薬よ媚薬…男が欲情するような媚薬、女が欲情するような媚薬、足腰が立たなくなるような…」
「ああ、なるほど」(…「口が軽い」減点1…)
「それでミレーヌちゃんにお願いしてボンバーちゃん達に連れてきてもらって…」
「…」
ミスティは聞かれていないことまで嬉しそうにしゃべる。 エミに判るはずの無い個人名や自分のアパートの住所まで交えているのだから溜まらない。
(…「論理性なし」減点1…「話の組み立てが悪い」減点1…)げっそりしながらミスティを減点しまくるエミ。
(…不採用…じゃなかった。)
「えーと、ミスティ」(こんなアホに『さん』づけできますか)
「なーにぃ♪」
「私は別に貴方の血を吸いにきたわけでも、地獄に連れて行こうってわけでもないの。だから解いてくださらない?」
「いや♪」
「…」
「その『緊縛!悪魔のハンモック』に捕まったんだから…コウモリ女ちゃんはミスティのだもん♪」
理屈になっていないが、ここは逆らわない事にして相槌を打つエミ。
「へぇ…悪魔のハンモック?」(だれがコウモリ女よ!)
「そう♪ ミスティが作ったのよ。 『技術の無い方でも簡単に緊縛プレイ』『特殊魔道生体触手を使用しているためお肌に傷はつきません』『一家に
一台如何です』なんちって♪」
楽しそうに言うミスティ。
「…でもハンモックとしては使えないわね」エミはボソッと言った。
ピシッ…鋭い音がしてミスティが固まった。
(あれ?)
ぶるぶる震えだし、エミを睨みつける。「むぅ〜〜」
(怒った? ひょっとして…自分の作品にケチをつけられたから?)
ミスティは一歩一歩踏みしめるようにして地面に転がるエミに近づいてくる。
「役に立つもん!ミスティが一生懸命作ったんだもん!」
そう言ってエミをの体に手を伸ばす。
「コウモリ女にお仕置きするもん」
「あら、いや。 やめてぇ♪」
言いながらエミはほくそえむ。
(うふ、それなら好都合…お相手してあげるわよ…ミスティちゃん♪)
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