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5.ウォーミングアップ1:まじめ君 VS 『悪いお姉さん』


最初は何が起こったのかわからなかった。 

一瞬きょとんとした後、少年はその柔らかくて暖かいものの正体に気がつき、大慌てで手を引っ込めた。

「あら」「な…な…」

真っ赤になって口をパクパクさせる少年にエミが擦りよってくる。

少年は両手を差し出してエミの胸を…軌道修正して肩を押さえる。


「何をするん…」「大声だすと人が来るわよ」エミに言われ、慌てて声を落とす少年。

エミはともかく少年は人が来てもかまわないはずなのだが、なんとなく今他人に見られる間はまずい気がした。

「何をするんですか!(と小声で)」「ナニをするの」

言われてゆでダコの様に真っ赤になる少年。

(ひょっとして…天然記念物の絶滅危惧種並みの純粋培養君…)

最近の子は色気づくと同時に、豊富な情報に接するので少々の事ではうろたえない。

そして、こんなおいしい話がある訳がないと警戒するか、考え無しに鼻の下を伸ばして飛びついてくるかのどちらかだろう。

しかしこの少年は、エミの真意を疑うこともなく、それでいてエミの誘いに乗るでもなく、だだひたすらに恥ずかしがっていた。

(うふ…うふ…ウフフフフフフフッ…)

とーってもうれしくなったエミだった。


黙ってしまった少年にエミが熱っぽく囁く。

「ねえ…」

「だ、駄目ですぅ」

「どうしてぇ」言いながら手で股間を…

「そそこは…いえこれは、その親しい人ーぉっとするもので。いきなりーぃと言うのわーるぃと…」

話の合間にエミが息を吹きかけたり、変なところを撫でるので少年の息が上がったり下がったりして妙な節回しになっている。

(楽器みたい…面白い子。)エミがくすくす笑う。

「ふーん、悪いことなんだ」

「あ、いや。はい、知らない人とやお金でするのは良くないと思います」教科書のような陳腐な答えだが、エミにはその反応が新鮮でも合った。

「そう…」そう言ってサングラスを外す。

「…」エミの整った顔立ちに思わず息を呑む少年。

「じゃあ…悪い事…しよう」

エミの両目が金色の光を宿した。

えっ…驚く少年。 そして彼の体に衝撃が走る。

「何…体が…変…」

妙に肌がピリピリする。 風が頬をなでる感触すら心地よい。 それでいてからだの中に妙なだるさがある。

「はぁ…」少年はやや潤んだ目で熱っぽい息を吐いた。


フッ…軽く笑ったエミは左手で少年の頬を撫でる。

少し冷たい手の感触が心地よい。

人差し指が耳の後ろを軽く引っかき、手のひらが顎を捕らえる。 

するりと滑り込無用に動き、ぼんのくぼに張り付く。

そのまま、ゆっくりと赤い唇が迫ってくる。

少年は僅かに震えた。(逃げられない…)観念したかのように瞼が下りる。

甘い匂いの柔らかな貝が唇に触れ、押し包むように広がる。

濡れた何かが唇をなぞると、自分の口が求められるままに開いてしまう。

(ああ…入ってきちゃう…)

自分と違う…女の唾液の味…それを滴らせたエミの舌が蛇のように口の中に滑り込み、縮こまって震える少年の舌に巻きついた。

思わず目を開く。そしてまともに見てしまう、金色の光る魔性の瞳…

(…)

その瞳が命じる…体の欲するままに私を求めなさいと…

語りかけてくる・・・教えてあげる・・・あなたの知らない世界を…

エミの肩に置かれていた少年の手から力が抜け、だらりと下がる。

少年はエミのものとなる事を承諾した。


エミの瞳を凝視しながら、少年はエミの舌の感触に酔いしれる。

歯茎の形をうつしとられ、上あごの皺をなぞられ、舌を絡めとられる。

口の中身を存分に弄ばれ、無抵抗になっていく。


エミが口をはなすと、銀の糸が二人の間に橋をかける。

その糸を手繰るようにエミの顔が再びよってきて…今度は顎に口付ける。

はぁ…ため息が漏らし、おとがいを持ち上げて喉をさらす。

エミが望むままに体が動く。


エミの右手が詰襟の首筋を撫ぜると、パチリと音がして首輪のようなカラーが外れる。

しなやかな指が、撫で回すように学生服を這い回ると、金ボタンがはずれてワイシャツがむき出しになり、それもすぐに口をあけて、瑞々しい少年の

素肌を魔性の女にさらけ出していく。


「うっ…」

ひやりとした手が胸に吸い付く感触に、思わずうめき声が漏れた。

だが、滑るような感触が胸を這い回るにつれ、少年は女のように喘ぎ始める。

「あ…ああ…」

エミの両手は淫らな動きで少年を翻弄しつつ、学生服を巧みにはだけさせて行く。


「あ…」

エミの手が止まったとき、少年は上半身を裸にされ、ペタンと屋上に座り込んでいた。

ぼうっとした目でエミを見る少年。 彼女は後ろ向きになり、コートをするりと脱ぎ捨てた。

白と黒の裸身…一瞬そう見えた。 が、よく見ると何か肌にぴったりとした黒いものを纏っている。

(レオタード?…)ボーっとした頭で考える。


エミは腰につけていたポシェットを外し、靴(なぜか黒いスニーカー)を脱いだ。

最後に胸の前で両手を交差させ、ゆっくりと下ろす…まるで水が流れ落ちるようにレオタードが滑り落ちていき…お尻で引っかかった。

フルン…お尻で黒い布が一度揺れ、滑り落ちた。

(尻尾…ああ…あれに引っかかったんだ…)

少年はエミに尻尾があるのを見て、何故か納得した。

(やっぱり悪い人…人なの?…)

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