携帯

2.小悪魔


「な、何よあんた、キモイメイクね、自分の自慢のメイクッて、バッカじゃない…」
”ま、そう言わずよーくみて…よーく…”
言葉に惹かれ、つい画面に映る女の子のを見てしまう。
すると、画面の女の子の瞳に光る渦巻きが現れくるくる回り始める、目が離せなくなる。
”あ、それ、目玉がぐ〜る、ぐ〜る…脳みそく〜る、く〜る…"
怪しい言葉が脳に染み込んでいく…思考力が停止する。

女の顔が呆けている、表情が無い。
”では始めま〜す、化粧セットを持って鏡の前に座ってください。
女は言われるままに化粧セットを持ち上げ、ドレッサーの前に座る。

”服をお脱ぎくださ〜い” 脱ぎ脱ぎ。
”化粧水でよ〜く体を拭いてくださ〜い。全身くまな〜く” 拭き拭き。
”ボディペイントを全身に塗ってくださ〜い。” 塗り塗り。
”ネイルケアセットで手足の爪を赤く塗ってくださ〜い。” 描き描き、伸び伸び…?。
”カラーヘアスプレーで、髪を染めてくださ〜い。” シューシュー。
”ではタトゥーシールを貼ってください、まず、お尻にバット・シールを…” ペタ、ニョロニョロ…?。
”左眼の下にスター・シールを…” ペタ、ピクピク?。
”両足の外側にアクセント・ライン・シールを…” ペタペタ。
”これで最後で〜す、へそピアスをつけてくださ〜い。” プス。

とたんに女の体にすごい快感が走る。一度に正気に戻るが、あまりの快感に悶え始める。
「あ!ああああ!すごい!…イク、イク、イックーーー、いっちゃうーーーー!」
ひっくり返って、思わず股間に手を伸ばしかけるが、全身に電撃にも似たビリビリした快感が襲い、自由に動けない。
女はうつ伏せで、床の上でヒクヒク悶えている、体形が微妙に変化していく。
いつの間にか、尻に尻尾が、背中に小さな蝙蝠の羽が生えている。
耳が尖り、セミロングだった茶髪は、濃いピンクのショートカットになり、2本のごく短い角が生えている。
なにより皮膚の質感が変わった、微妙な光沢がある…

女はむくっと身を起こす、
「ああ、凄かったあぁ〜…よかったけど…何だったの、ヘ?…」
自分の手を見る、ピンクだ、少しほっそりしている、爪が長い。
ドレッサーを覗き込む。さっきの携帯の女が映っている…
「あ、あんたいつの間に人の部屋に…え?」
鏡の中の女の子が口をパクパクさせている。
部屋をきょろきょろ見回す、自分しかいない。
右手を上げる、鏡の女も右手…いや左手を上げる。

やっと気が付く…自分が携帯の女にそっくりになっている!
「なによ、これ…信じらんな〜い!」
”如何でしょう〜か、悪魔の化粧セットのこの威力!”
「じょーだんじゃない!なによ、このダサイかっこうは!」
”ダサイ”という言葉で、携帯に映っている女の子がピクッと反応する。笑顔が引きつり、こめかみがピクピクしている。
「元に戻しなさい!こんな格好でいるなんて死んだほうがましよ!」
”はーい、ご要望は承りました。それではもう一度携帯の画面をご覧下さい。”

携帯の画面の女の子をにらみ付ける。
すると、携帯の画面が強烈な光を放つ。
「ひぇ…ぁぁぁぁぁぁあ!」
画面に複雑なパータンが物凄い勢いで現れ消える、目を逸らす事ができない。
頭の中に、脳みそに何かが焼き付けられていく、体は硬直しきって身動きできない。

「はにゃは、ぎりがりがりががが…〇〆〓§♂※∇‰δΔψ……!」
女の口が猛烈な勢いで動き意味不明の言葉を喋りつづける。

10分ほどそんな状態が続いただろうか。
唐突に、携帯の光が消える。
がくっと女の顔が上を向き、口から真っ黒い煙が盛大に吹き上がる。

その状態で少し経ち、ひょっこと顔を上げる女。
にま〜っと笑う。
「やったね、ミスティ! 脳内悪魔召還・人体強奪、だ〜い成功!」

首をぐるりと回して天井の隅にわずかに残る黒い煙に向かって、
「ご要望どおり、死なせて上げちゃいました、うふふ、成仏…は無理ね、さよ〜なら、キモーイ姉さんあなたの体は、化粧セットの代金代わりに頂きました〜」

かくして、小悪魔ミスティは女の体を乗っ取ってしまった。


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