携帯

1.ムカツク女


20XX年東京、初夏。
1人の若い女が夜道を家路を急いでいた。
ケバイ化粧をしているが年齢は二十歳前後だろうか。
ピアス、ブレスレット、リング…よくもこれだけと言うぐらいアクセサリを着け、派手な服を着ている。
ブツブツ行っている「ムカツク…ケータイは忘れるは…キモイオヤジは寄ってくるは…」

酒、男、メール、と考えながら住宅街の中を通りぬけていく。
道のど真中に、何か落ちている。
「何、これ…ケータイと化粧セットの入ったバッグ?…ヤタ!、モーライっと」
届けるとか怪しいとかいう考えはないらしい。

近くの電信柱の影から、それを見ているものがいた、赤いライダースーツを着た身長2m近いグラマラスな大女だ。
暗くて顔が見えないが、日本人とは違う雰囲気がある。
真紅の携帯電話を取り出すと、どこかに電話する。
「ミスティ?獲物はえさに食いついた、繰り返す、獲物はえさに食いついた」
『了解ー♪、ご協力、感謝、感謝ー♪』携帯から、能天気そうな少女の声がする。
「お返しに、何れ協力してもらうわよ…私たちが狩りをするときに…」
大女は姿を消す、どこかでバイクが走り去る音がした…

ケバイ女は拾い物の品定めをしながら歩いていく。
「マジステール化粧品?聞いたことないわね〜。ケータイはっと、キャハハ、ピンクだ〜。ピッピッピンク〜♪、ピンクのケータイ〜♪…?」
携帯の裏側に女の子の顔のイラストシールが張ってあった、耳が尖った、ピンクの顔だ。
小悪魔らしい。
「キモーイ、キャッハハ…バッカじゃなーい…」

−どこか遠く知らない場所−

不機嫌そうな女の子の声がする。
「…バカはどっちよ…脳みその容量足りてるといいけど…」
うす暗がりの中、1人の少女が、ケバイ女の拾ったのと同じピンクの携帯電話を操作している。
携帯の画面の放つ淡い光に照らされるその手は、淡いピンク色だった…

−ケバイ女の部屋:コーポ・コポ2F−

2DKのぶっ散らかった部屋、女は自分の携帯で彼氏に電話していた。
「ヤッホ〜、ヒロシ〜、今日ね、ケータイに化粧セット拾っちった、ラッキーてな感じ…」
拾得物横領罪は知らないようである。
「…じゃ来てね〜ラブしてあげっから」
携帯を切る。

パッパパー、パパラパー、パッパ…
やけに景気のいい音が響く、拾った携帯が鳴っているのだ。
「うっさいわね…何よ」
ピンクの携帯に出る。
”はいは〜い、あなたはこの携帯を拾いましたね〜”
明るい女の声が響く、ムスッとして。
「拾ったわよ…何よ、返せっての、落としたアンタがドジなんでしょ、返してほしけりゃ取りにきなさい…」
”は〜い、取りに伺いま〜す。”
「え?」
”では、画面をご覧下さ〜い。”
携帯を耳から離し、携帯の画面を見る。
そこにはイラスト・シールとそっくりな耳の尖った女が映っていた。


【<<】【>>】


【携帯:目次】

【小説の部屋:トップ】