2:魔性


?「泣カナイデ、私ノカワイイアナタ…」
「誰?」
人の声がする。
顔をあげて部屋を見まわす。
涙で良く見えない。
眼鏡を外し、涙をぬぐい、掛け直してもう一度部屋を見渡す。
人影はない。
?「クスクス、気ガツカナイ?」
「え…」
鏡に映っている自分の姿が違う?
ベッドに腰掛けているものが人の姿に見えない、羽?…こうもりの羽を背負った女?
しかも…裸だ。
「悪魔…いやサキュバス…」単語が頭に浮かび、口に出る。
また、部屋を見渡す。
やはり誰もいない、それなのに恵美が見ている鏡には自分でなく、異形の者が映っている。
はっとして自分の手を見る。慌てて背中に手をまわし、ほっとする。
”よかった、自分じゃない”
自分ではない、では…ガラス?
近寄ってみるが、鏡の中には、壁の厚みが見えない、しかし…サキュバス以外にも強い違和感を感じる…上手く指摘できないが。
「ハナシヲシテモイイ?」
鏡の中からサキュバスが語る。声は通るようだ。
「あなたは…誰?」
「悪魔…サキュバス…ト呼ンダデショウ…ソレデイイワ」
「そんないいかげんな…」
「呼ビ名ナド、タイシタ意味ハナイ…要ハアナタガワタシヲ呼ンダ事」
「あなたを?…」
「鏡ニヒビガ入ッテイル…アナタ心ニモ…サビシインデショウ」
「!」
「私ニハタイシタ事ハデキナイノ…ウフ、セメテ慰メテアゲル…」
サキュバスは、恵美の瞳を見つめる。
恵美は、いつのまにかサキュバスの瞳に魅入られていた。

サキュバスはベッドに体を預け足を開く。
「ネ。コウイウノハ、ドウ…」
サキュバスが自分の股間に指をあて、敏感な芽をつつく。
「ひっ!? 何!?」
感じたのは、恵美自身、いやサキュバスも感じている。
サキュバスは、荒い息を吐きつつ股間をまさぐっている。
恵美「や、やめて、なによ…あ…ああ…はあ」
いきなりの快感で思考がまとまらない。
頭が熱くなり、快感に捕らわれていく。
サキュバスと同じように、ベッドに体を預け、あお向けで、悶え、よがる。
自然に手が股間に、胸にのび、もみしだき、まさぐる。
鏡の中では、サキュバスが同じように激しくよがっている。
この場に、第三者がいたら、恵美とサキュバスが同じポーズで悶えている事に
気づいただろう。

恵美の手は、サキュバスの手の動きそのままに動く。
恵美の感じている快感は、サキュバスのそれに、恵美自身の快感が重なったものであった。
恵美はサキュバスに犯されていた。
胸をもみしだき、股間をまさぐり、芽を撫でる、でも指は、女性自身に入っていこうとしない。
熱くなるのに、気持ちいいのに、物足りなさがつのる。
”欲しい、貫かれたい。”
気がつかぬうちに、そういう気持ちが植え付けられていく。

やがて、二人は同時に達した。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、」
「フフフ、少シハ慰メニナッタ…」
「…!」
恵美がサキュバスを睨む、だがサキュバスはクスクス笑うだけであった。

「怒ラナイデ、アタシニデキルノハコンナコトグライナノ…」
恵美はあきれる、怒るのが馬鹿馬鹿しくなる。
悪魔というより痴女だ。
それに…自分が望んでいたことと、そう離れてもいない、相手がいなかっただけで。
”物足りないの…もう少し…”

その時、鏡に光の波紋が広がる。
「?」
恵美は知らないが、サキュバスが現れたときと同じである。
「さーびす・たいむハ終ワリノヨウネ…」
「あ、待って…」
「モットシテホシイ?、クスッ」
図星をさされて赤面する。
サキュバス「デモ、今日ハコレマデ、後ハコレトデモ遊ンデイテ…」
サキュバスが右手に何かを乗せて、手を差し出す。
見ると金色の卵に見える。

”何?これ”
サキュバスの瞳が金色の光を宿す。
「サア…手ニ取ッテ…取ッテ…取ッテ…取ッテ…」
”あ…綺麗…手に取る…取る…取る…取る”
恵美の目がうつろになり手を鏡に伸ばすそして…

ふっと鏡からサキュバスの姿が消える。
恵美の手には、金色の卵がのっている。
恵美の耳にサキュバスの声が響いてくる
”ソレヲアテガウノ、アナタノ、アソコニ、キットノゾミガカナウ、キット…”


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