ワックス・フィギュア

23.誘惑、そして


 オルガが、アクリルパネルに尻を押し付けた。

 ビチャリ……

 パネルの向こう側で陰部が変形し、中から涎のように愛液を垂れ流している。

 ”ご覧なさいな……”

 蠢く肉の花びらが、主任を誘っている。

 「よ、よせ……来るな」

 ”いかないわよ……”

 ”貴方が出てくるの……”

 「なんだと?」

 二人の言葉の意味が判らず、首をひねる主任。

 「出て行く、俺が?……まてよ?」

 アクリルパネルは、研究室と隔離室の気密を保つため、丈夫にできているし、扉もロックできる。 しかし、金庫ではないから、開ける方法はいくらでも

あるし、オルガたちは扉を開ける方法も知っているはずだ。

 (なぜ扉を開けようとしない?)

 クスクスクス……

 オルガは含み笑いをしながら、アクリルパネルに尻を押し付けたまま腰をうねらせた。 アクリルパネルのごしに、肉の花が渦を描く。 赤く濡れた渦が、

淫らに彼を誘う。

 (なんてことを……二人とも、もう正気じゃないな……うう……)

 濡れた肉の渦が、彼を誘っている。

 ”おいで……”

 ”こっちにおいで……”

 ”中に……中に……”

 (中に……あの中に……)

 ガチャ

 金属の音、主任は我に返る。 いつの間にか、彼は扉を開けようとしていた。

 「な……俺は何を!」

 慌てて手をレバーから放す。

 「お、お前たちの思う通りに……」

 アクリルパネルの向こうで、肉欲の渦が彼を呼ぶ。 それを目にすると、熱い欲望の猛りが湧き上がってくるのが判る。

 ”みて……”

 ”欲しいでしょう……”

 ”おいで……”

 「うう……」

 熱い猛りが、全てを支配する。 それは、過ぎ去った時間の向こうに失った、肉の猛り。

 ガチャリ

 再び響く金属の音。 しかし今度は、理性が戻る間もなく扉を開けてしまった。

 ”さぁ……”

 四本の腕が主任に絡みつき、赤く透ける女体へと誘った。

 
 「ああ……」

 固く猛るモノを、濡れて開いた秘所へと突き立てる。

 「アア……熱い……」

 火を噴きそうに熱いものを、生暖かい肉の花が包み込み、愛し気に撫でまわす。

 「ううっ……」

 蕩けそうな快感で力が抜け、膝をついた。

 ビチャリ……

 「くぁ……」

 腰が前に出て、肉の花の中心に突きこんでしまった。 肉襞がビラビラと蠢き、獲物を捕らえるように、腰を包み込んでくる。

 「ひ……」

 「ア……」

 下半身が蕩けそうな快感に、主任は絶え間なく喘ぎ声をあげる。 一方のオルガも、甘いうめき声を漏らしながら、広がった秘所をうねらせてよがっている。

 「と、蕩ける……」

 「ああ……蕩かしてあげる……奥へ……もっと来て……」

 ズブ、ズブ、ズブ……

 オルガは、秘所を広げて男を呑み込む巨大な食虫花と化した。 主任は魔性の花のに呑み込まれていく獲物だった。

 「あん……あたしも……」

 ワーリャが主任の背に抱きついて、豊かな赤い乳房をすり寄らる。 乳首から、とめどなく赤い粘液が吹き出し、主任の体を赤く染める。

 「ひ……ひ……ブ……ブム……」

 二人の間で、芋虫のように蠢く主任。 口から泡を吹き、沸き起こる欲に溺れ、オルガ、そしてワーリャの女体に呑み込まれていく。

 「アア……中で……」

 「もっと……もっと……」

 三人の体は、一つに溶けあいながら、のたうつ蠢く肉欲の塊と化していった。

 
 −−− 『妖品店ミレーヌ』 −−−

 「それで? 心当たりはどうなったの?」

 スマート・ミスティ(ミスティ+ブロンディ)がエミに尋ねた。 エミは困った様に首を横に振った。

 「不審なゴムボートが近くの海岸で目撃され、『茶色っぽい何かを持った外人』を乗せ、沖に出たとらしいと……」

 「それだけ? 動画とかUPされてないの?」

 「UPされているけど、真っ暗で判別不能……」

 ぼそぼそと呟くエミに、スマート・ミスティが冷ややかな視線を投げる。

 「それでは、アレがソレだったか、判らないわね」

 エミは口をつぐみ、身を縮めた。 と、ミレーヌが顔を上げた。

 「……ミスティには……『ワックス・フィギュア』の……今の状態が……判るのでは?……」

 「え? どういう意味……なの?」 麻美が聞き返す。

 「……アレは……ミスティの元に……怪異を集めるのための……ロウソクの原料……だから……アレには……ミスティの現在地が……判るはず……」

 ミレーヌは続けた。 完成した『ワックス・フィギュア』がミスティの現在地が判るのならば、互いに『リンク』しているはず。 その『リンク』を手繰れば、

あちらの様子が判るのではないか。

 「……『リンク』が有効かどうかは……判りませんが……」

 「そうね。 そんな事は思いつかなかったから、『ワックス・フィギュア』と『リンク』できるかは、試してみなかったけど」

 「駄目もとで、やってみたら?」

 エミが言うと、スマート・ミスティは目を閉じて、動かなくなった。 傍目には、耳を澄ませているように見えた。

 「……ん?……これかしら……あれ?……」

 スマート・ミスティは目を開け、首を傾けた。

 「んー……どうもこれは……まずいかな……」

 「どこで、どうなっているの?」

 「どっか遠くで、犠牲者がでて、騒ぎになりつつあるみたいね」

 エミ、麻美、ミレーヌが顔を見合わせた。

 「『リンク』を辿れば、『ワックス・フィギュア』の場所まで行けそうだけど……回収しても、騒ぎの方が収集つけられるかしら」

 スマート・ミスティが呟いた。

 クション!!

 麻美がくしゃみをした。

 「麻美さん、顔が赤いけど、熱があるんじゃないの?」

 「インフルエンザかしら。 学校で流行っているの」

 麻美は、ポケットからマスクを取り出し、口元を覆った。

 「それだ」 スマート・ミスティがポンと手を打った。

 「それでいこう」 スマート・ミスティがニマァと笑った。

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