ワックス・フィギュア
21.狂宴
研究室では、主任と研究員が『ワックス・フィギュア』の分析を行い、その結果に頭を悩ませていた。
「宇宙人の組織サンプルはどれだ? 到着したときのサンプルができているだろう?」
「持ってきます」
研究員は、研究室奥の隔離スペースから、『ワックス・フィギュア』のサンプルを取ってきた。 隔離スペースは、透明なアクリルパネルで研究室と仕切
られていて、グローブボックスと同じく、気密性が保たれている。
「これですが……」
研究員が顕微鏡の画像をスクリーンに次々に映しだし、赤一色の画像が次々に表示される。
「何も映っていないぞ」
「いえ、これで間違いないんです。 いくら解像度を上げても、組織も細胞も見つからないんです」
主任は顔をしかめ、他の分析結果に目を通す。
「どうなってるんだこれは? アメーバでも、細胞内の構造はあるぞ?」
「光学顕微鏡では見えないほど、微細な構造なのでしょうか?」
「むぅ……電子顕微鏡にかけてみるか?」
「精密分析班にサンプルを回しますか?」
主任は難しい顔になった。 他の班に協力を依頼し、成果を横取りされる事を危惧したのだ。
(精密分析は、こちらで成果を出してからだな)
「先にオルガの様子を見よう。 そろそろ手当も終わっているだろう。 医務室をもう一度呼び出してくれ」
「はい……医務室か? オルガの手当はどうなりました?」
”……はい……完了しました……”
「医務官? ヤコブはどうしました?」
”……ちょっと……薬を……取りに行って……”
「なに? 何か問題が?」
”いえ……これから……説明に……伺います……”
ガチャリ
「医務官が説明に来るそうです」
「説明? 何を?」
主任は首を傾げ、研究員も肩をすくめる。 少し間をおいて、インターホンのコール音がした。 研究員がドアロックを解除すると、白衣のワーリャ医務官が
入って来た。
「それで? オルガはどうだ?」
「はい、実に興味深いことが判りまして」
「へぇ?」
興味をそそられた様子で、研究員と主任が彼女に近づいた。
「見てください」
そう言って、ワーリャは白衣の前をはだけ、主任と研究員は目を剥いた。 彼女は下着をつけていなかった。
「おほん。 何の冗談だ」
「冗談ではありません……あ……ああっ……」
不意にワーリャが身を震わせ、その乳首から赤い粘液が迸った。
「ぶわっ!」「うはっ」
粘液が研究員の顔を直撃した。 主任は粘液をかわし、後ろに飛び下がった。
「き、君は!?」
「あら、失敗……ふふっ……ふふふふふふ……」
笑うワーリャの顔の皮膚がベロンと剥がれ、その下から……『ワックス・フィギュア』同様に、赤い粘体の顔が現れた。 主任はさらに後ずさり、研究室奥の
隔離スペースに飛び込みドアを閉めた。
「はっはっ……どういうことだ」
”こういうことですわ”
隔離スペース内にオルガの声が響く。 主任が振り返ると、研究室にオルガが…『ワックス・フィギュア』と化した彼女が入ってくるのが見えた。
「く、喰われてしまったのか!?」
”違いますわ……私はワーリャ”
”私はオルガ……自分が何者か、覚えていますもの”
そう言いながら、ワーリャ医務官は、研究員を引きずり起こした。 彼の顔に張り付いていた赤い粘体は、ずるずると口や鼻の中に入り込もうとしている。
「で、では……君たちはどうなったのだ?」
”どうやら……体の組織が『宇宙人』のものに置き換えられたみたいですわ”
”そうみたいです……くふっ……”
笑いながら、ワーリャとオルガが研究員の服を脱がす。
「おい、何をする!?」
”うふふ……いいことをするんです……”
”気持ちいい事を……ねぇ”
研究員の股間をオルガが弄った。 ばね仕掛けのようにモノが屹立し、ビクビクと震える。
”ほら、やる気満々……”
”ねぇ、起きてよ”
オルガが研究員の胸ぐらをつかみ、ぐいっと引き起こす。 研究員は2、3度首を振り、うつろな目でオルガの顔を見た。
「おい、しっかりしろ!」
アクリル板の向こうから主任が声をかける。
”ほら……ああ言っているわよ”
”しっかりしないと……ねぇ”
オルガがモノを弄び、ワーリャが研究員の唇を奪った。
”む……むぐぅぅ……”
一瞬動きを止めた後、研究員は猛然とワーリャの唇を奪い返す。 その間にオルガは、彼のモノを嬲りながら、彼の下半身に自分の足をからませる。
「お、おい!」
”主任、知りたかったんでしょう? アレがどんなモノか……”
”よく観察してくださいな……”
オルガは、研究員の足を抱え自分の股間を彼の股間に密着させた。 赤く透ける女体の中に、屹立したモノが呑み込まれていくのが見える。
「むむっ!」 思わず身をのり出す主任。
”ああん……”
”あれに取りつかれると……あふっ……抑えが聞かなくなって……はう……欲しくてたまらなくなるの……”
グニグニと腰を揺するオルガ。 そして、研究員の顔を貪るように舐めまわすワーリャ。 二人の体は、部分的に一つになり、研究員の体の半ばを包み込む。
”男の方も、そうなるみたい……ほら……”
ズブ……ズブズブ……
オルガの中で、彼のモノがあり得ないサイズに膨れ上がり、ビクビクと震えている。 激しい動きに、彼の頭がワーリャの腕から抜け出した。
”ぎ……いい……いひひっ……”
歯の間から快楽の呻きを漏らし、研究員はワーリャの胸を掴んだ。 赤い果実のような胸に、指がめり込む。
”ああん……もっと……”
ワーリャが喘ぎ、自分の胸に研究員の頭を抱え込んだ。 彼の頭が、ワーリャの中にズブズブと沈み込む。
「……」
主任はアクリルパネルに張り付き、食い入る様にその饗宴を、いや『狂宴』を見つめる。
”ああ……”
”ひぃ……”
”もっと……”
欲望に溶けあう二つの赤い塊と一つの人体。 それは、悪夢の産物と化しつつあった。
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