ワックス・フィギュア
19.悪夢
主任は、守衛には監視カメラの画像を記録媒体に移し、元画像を消去するよう命じた。
「よろしいんですか?」
「不具合があったとしておけ」
横柄に言うと、記録媒体を持って研究室に戻った。 中では男性の研究員が甕を収めたケージの確認をしていた。
「中に『宇宙人』はいるんだろうな」
「重くなっているから、多分……」
「確認してないのか! 一度開けてみろ……いや、少し待て」
主任はそう言って、2、3歩下がった。
「よし開けろ」
男性研究員は呆れた顔をして、ケージの脇に突き出たゴム手袋に右手を突っ込む。 このケージは『グローブボックス』になっていて、密閉したまま
保管物を取り扱うことが出来た。
「開けた途端、中身が襲ってこないでしょうね」
「外にいたときは、おとなしかったろうが」
「でも彼女……オルガでしたっけ? 襲われたじゃないですか」
「同意を取っていたろう」
「そう言う問題では……」
不安を口にしながら、甕の蓋を取る。 少し躊躇ってから、空いた左手でカメラを掴み、ケージ越しに中を映し、横の机に置かれたモニタの画像を確認する。
甕の八分目辺りまで、赤い液体が満たされている。
「この液体が『宇宙人』ですよね」
「うむ……随分と少ないな? 外にいたときは、等身大だったはずだが……」
「そう言われれば……」
主任と研究員は顔を見合わせた。
「オルガの様子を確認しましょう」
研究員は、甕の蓋を閉じて『グラブボックス』から手を抜いた。 壁に固定された受話器を取りあげ、医務室をコールする。
”トルルルル……カチャリ”
「ヤコブか? オルガの具合はどうだ」
”た……あ……”
「おい? どうした?」
”あ……いや……オルガは……まだ……目を覚まさない……”
「そうか? 具合はどうだ」
”だ……大丈夫……こ……これから……て……手当……する……ところ……”
「……声がおかしいな?」
”か……風邪かな……”
「おいおい、大丈夫だろうな。 悪性ウィルスだったらシャレにならん。 オルガの容体が判ったら連絡をくれ」
”あ……ああ……”
ガチャッ
唐突に電話が切れた。 研究員はちょっと顔をしかめ、主任の方を見た。
「まだ手当てしているところ、だそうです」
「そうか……これが映画なら、オルガは『宇宙人』に変身しているころだな」
「まさか」
あいにく、その『まさか』だった。
「あ……ああ……」
「ハァイ……よくできたわねぇ」
受話器を持ったヤコブ。 その背後からオルガが絡みついていた。 オルガの体の半分ほどの皮膚が剥がれ落ち、その下に赤い半透明のボディが
露になっている。
「オ、オルガ……あ、貴女一体……」
ワーリャ医務官が震える声で聞く。 彼女は受話器のある壁と反対の壁に背中をつけ、オルガから距離を取ろうとしている。
「ナニ? 何が聞きたいの……ワーリャ」
「そ、そ、その体は……」
震える指で、オルガを指さすワーリャ。 オルガは首を傾げ、視線を下げて自分の体を見た。 半透明になった自分の手を顔の前にあげ、しげしげと眺める。
「ふうん……こうなったの……」
「へ、平気なの……」
あまりの事に、言葉が出てこないワーリャと対照的に、オルガは平然としている。
「平気?……ええ……すごく……いい気分……ね、ヤコブもそうでしょう……」
「あ……ああ……」
オルガの右手が、ヤコブのズボンの中に潜りこみ、前の方がゆっくりと蠢いている。 ヤコブのモノを、オルガの手が握りしめているらしいが、動きが妙だ。
「いい……これは……いいぞ……」
「でしょう……もっとヨクシテアゲル……」
ズルリとオルガの舌が伸び、ヤコブの耳を舐めまわした。 蛇のように蠢いた、耳の穴の中にずるりと入っていく。
「ひ……ぎっ……」
ヤコブが白目を剥き、ワーリャが口をパクパクさせてオルガを恐怖の眼差しで見る。
「な、なに……し、してるの………」
オルガは含み笑いをして、ヤコブの背後からワーリャを見た。
「ひっ!」
オルガの顔の上半分は皮膚が残っているが、下半分は皮膚が剥がれ落ち、赤い唇が笑みの形を作っている。
「気持ちよく、してあげているのよ……ねぇ……」
白目を剥いたまま、ヤコブががくがくと首を縦に振る。
「いい……イイゾ……ひひ……」
グネグネと蠢くヤコブのズボン。 そのジッパーがはじけ飛ぶ。
ゾロリ……
中から出てきたの赤い蛇……いや、ヤコブのモノ。 そそり立つソレは、あり得ない長さでブルブルと震える。
ピッ……
鋭い音がして、ヤコブのモノに赤い筋が走る。 皮が裂け、赤いモノが覗く。 蛇が脱皮するように。
「ヤコブ……あ、あんたも?」 ワーリャが茫然と呟いた。
「あ?……なんだって……ひっ!」
ズボンが大きく裂け、ヤコブのモノが根元まで露わになる。 その付け根、男の証をオルガの手が包み込んでいた。
ビクン、ビクン……
オルガの手がヤコブのモノを揉みしだき、その手がヤコブのモノを溶かしていく……
「いいっ……いいぞ……」
ヤコブは喘ぎ、オルガにされるがままになっている。
ワーリャは目の前で起こっていることが理解できず、床にへたり込んだ。
「あ、あ……オルガ、あんた何して……ヤコブ、どうして平気なの……」
「平気?……いいや……気が狂いそうに……気持ちいい……」
「……」
絶句し、がたがたと震えるワーリャに、オルガが声をかける。
「気持ちいいのよ、こうされると」
グニャリとオルガの手が動き、ヤコブが喘ぐ。
「判る? この体は、あの『宇宙人』と同じ……少しずつ置き換わっているの……そしてヤコブのここも……あん……」
伸びたヤコブのモノが、オルガの足に絡みついていた。 その先端が、オルガの足の間に潜りこもうとしている。 オルガは嫌が音でもなく、蛇の頭を捕まえ、
自分の秘所へと導いた。
「ああん……」
「な……な……な……」
言葉が出てこないワーリャに、ニマァとオルガが笑いかける。
「すごいのよ、この体。 感じるし、止まらないし、力が溢れて来るの」
「し……正気なの!?」
「え?……やぁね……正気なわけないでしょう……貴女も欲しくなって来たし……」
オルガの顔の上半分から皮膚が剥がれ落ち、赤く透けた顔の中に、頭蓋骨が見える。
「!」
受け止められる限界を超え、ワーリャの思考が停止した。
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