ワックス・フィギュア
5.点火
女の中は生暖かく、そして柔らかに蠢いている。
ずぷっ……ずぷぷっ……
女は腰を揺すり、男のモノを中で愛した。 女の愛撫の心地よさが男の体を満たし、蕩かし、そして中へと誘う。
ドクリ……ドクリ……
男のモノは、ゆっくりと、そして果てることく精を吐く。 その異常さに、男は気がつかない。
ズルッ
下になっている男の体が、女の足のほうにずれた。 男の顎が、女の胸の谷間に挟まる。
(……おや……胸が大きくなったか?……)
うつろな目を動かし、サイドボードのガラス戸に映る自分たちの姿を見た。
(……育ったのか……)
さっきまで少女の体つきだった女は、グラマラスな大人の女の体つきになっていた。 ただ、腰の後ろ赤いひも状のものが伸び、尻尾のようにうねっている。
その先を目で追うと、甕の中に消えていた。
(……おれは……あれ?……)
女の下で、肌色のクッションのようなモノが蠢いている。 それが自分らしいとぼんやりと考える。
(……?)
違和感を覚えた。 快感の沼に沈みかけていた意識が、もがき、浮かび上がろうとする。
”ミロ……いえ……みて……”
女が男の頭を挟み、自分の方に向けさせた。
”ほら……火がついた……”
ポウッと、女の胸の中に光がともった。 半透明の体、その内側から淡い光が溢れ出す。
”綺麗でしょう”
「あ……ああ……」
浮かびかけた意識が、光に吸い取られ、男の眼から意志が消える。
”さぁ……全部……蕩かして上げる……”
女は自分の腰を、男の腰に深々と密着させた。 睾丸までが女の中に誘い込まれ、柔らかい肉でゆっくりと揉まれる。
「はぁぁ……」
”気持ちいい?……ね……感じて……蕩けて……私の中に来て……”
女の中で弄ばれるモノが、甘い蜜のような快感が伝わり、それが体を蕩かしていく。 逃げられない、いや、逃げる等考えることも出来ない、得も
言われぬ快感。
「いい……溶ける……もっと……蕩けさせて……」
子供に戻った様にねだる男。 その体は内から溶け、蠢く肌色の袋になり、ヒクヒクと蠢きながら縮んでいく。 その中身、男であったモノは、肉も、骨も、
魂すら蕩け、女の中に吸い込まれ、いや、自分から女の中へと入っていった。
ドクリ……ジュブッ……ジュブッ……
”……”
男の体は、中身を全て女の中に注ぎ込み、縮んだ革袋と化した。 女の秘所は、それすらも胎内へと呑み込んでいき、最後には成熟した女体となった
赤い女の体だけが残った。
”はぁ……”
女は気だるげな動作で身を起こした。 男のつけた『火』の灯りが、内から女を照らし、その灯りが主を失った部屋を赤く照らし出す。
”欲しい……”
女はソファから立ち上がり、自分の出てきた甕を持ち上げると、静かに部屋を出て行った。
ーー 妖品店・ミレーヌーー
カラン……カラカラカラ
古びた扉が勢い良く開き、古びたウェルカム・ベルが、酷使に抗議する。。
「……どちら様……」
店の奥で、フードを被った女が誰何の声を絞り出した。
「ムードのある声が出せるようになったじゃない。 見習い店長」
「エミさん?」
『見習い店長』はフードをかき上げ、顔を出した。 20前後の若い女性の顔が露になる。
「ただの店番。 まだ『店長』じゃないわよ」
口を尖らせて応えたのは如月麻美。 見習いの魔女として、この店の主人ミレーヌの弟子にあたる。
「それに、成り行きで魔女やってるだけよ」
エミと呼ばれた女性は微かに眉を顰め、近くの丸椅子に腰を掛けた。 彼女は自称『サキュバス』のエミ。 ただし当人曰く『サキュバスの存在、定義が
あいまいであり、自分がそれに該当するかは判らない。 ただ、自分を紹介するとき、便利なのでそう名乗っている』だそうである。
「いまさら自己紹介でもないと思うけど♪」
エミの背後から現れたのは、全身ショッピング……違った、ショッキング・ピンクの自称『小悪魔ミスティ』である。
「あら? 二人してお出かけなの? じゃあ大学に行ってたのね」
「だったらよかったんだけど」
エミは額を抑えた。 彼女たちは、近所のマジステール大学と浅からぬ関係にあり、最近は研究の手伝いに駆り出されることが多くなっていた。
「今日は、警察から呼び出しを受けて、この子を引き取ってきたところ」
「け、警察沙汰ぁ!?」
麻美が仰天した。 彼女は、この店の外ではマジステール大学の2回生であり、一般市民である。 当然、犯罪者ではない(いまのところは)
「何を、やらかしたのよぉ……まさか……『魂』を奪うために人を襲ったとか……」
麻美の脳裏に、大鎌を振りかざす悪魔のイメージが浮かぶ。
「そんなことしないよぉ。 大体、襲って簡単に奪えるようなモノじゃないよぉ、『魂』なんて」 むくれるミスティ。
「まぁ、『魂』を集めるために何かしたのは間違いないらしいけど」 エミがフォローする。
「じゃあ何をやらかしたの」
「んとね。 ミスティが、欧州から極東まで来たのは、ある目的にかなう『魂』を探すためなんだよね。 でも5年も探したのに、目的にかなう『魂』は
見つからない。 されに、一人でちまちまやっても、効率が悪いんだよね」
「そうなの?」麻美はエミに尋ねた。
「そうらしいわ」 エミが応えた。
「個人の力では限界がある! ならば国の力を使えばいい」
「はぁ?……あなた、政治家にツテでもあるの」
「ない! だから自力で日本を征服することにしたの!」
過激な宣言に、麻美は目を剥き、エミは額に手を当ててため息をついた。
「そんで、政治家が集まっている『国会』を訪問したの!」
「じょ、冗談じゃない! 爆弾でも仕掛けたの!?」
「ばっかねぇ。 国会を吹き飛ばしても、ミスティが後釜に座れる訳じゃないでしょう」
「……あなたに馬鹿呼ばわりされるとは……じゃ、『国会』に何しに行ったの」
「国会の正門の前に行って」
「ふむふむ」
「『たのもうーっ! この国をかけて、首相に挑戦する。 いざ、尋常に勝負!』って」
絶句する麻美、頭を抱えるエミ。
「そしたら、黒い服を着た人たちがやって来て……」
「逮捕されたの!?」
「『お嬢ちゃん。 可愛いね。 飴をあげよう。 パパかママとお話したいんだけど、携帯の電話番号、判る?』って」
麻美が突っ伏し、エミが憮然として腕組した。
「この阿呆、私の電話番号を答えたのよ。 それで、私が保護者として引き取りに行く羽目になったと」
「それはどうも、ご苦労様です」 ため息をつく麻美だった。
カラン……
ベルの音がして、麻美と同じようなフードとマント姿の女性が入って来た。 店長のミレーヌその人だ。
「お帰りなさい」
「あら、ミレーヌ。 貴女が結界の外に出るなんて、珍しいわね」
「……そうでもありませんが……麻美さん?……その棚にあった甕はどうしました?……」
「あ、珍しく客が来て、その甕ががどうしても欲しいと言って……」
「……売ったのですか……」
ミレーヌはめったに感情を見せない。 しかし、今の声には麻美にも感じられるほどの動揺があった。
「あ、はい……売り物の棚にあったので……」
「……そうですけど……あの甕とは……」
エミが椅子から立ち上がり、甕があったという棚に顔を近づけた。 まるく埃のない場所があり、何かが置かれていたことが判る。
「何があったの? ここに」
「……『ワックス・フィギュア(蝋人形)』の元……またの名を……『デザイア・ドール』」
「えー!!!」
ミスティが大声を上げた。
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