ワックス・フィギュア

4.欲


 女の腕が男の体を強く抱き、両足が男の腰を挟み込んだ。

 ギュゥッ

 女の四肢に力がこもり、肌が張り詰める。

 「ぐうっ……」

 肺から空気が絞り出され、呻き声が漏れた。

 ”キツイカ……”

 女が腕の力を緩め、男は吐いた息を取り戻すように喘ぐ。 落ちつ気を取り戻し、改めて女の顔を間近に見た。

 (なんて生気に溢れた体だ……いつのまに……)

 赤い半透明の色合いは変わらないが、ぴんと張った肌は力強さを感じさせる。

 (……そうだ、鏡があっちの壁に掛けてあったはずだ……)

 ソファから机を挟んだ壁に目をやった。 そこには、見事なプロポーションの赤い女と、老いた男が絡み合う姿が映っていた。

 「……」

 『現実』という文字に打ちのめされ、男のモノが力を失っていった。

 ”ドウシタ”

 女が男の顔を両手で挟み、正面から見た。 視線をそらしつつ、応える。

 「お前が何かは判らんが、私にはお前が『欲しがる』モノはもう残っていないだろう」

 女が首をかしげた。

 ”ソンナハズハ、ナイ……”

 女が男のモノを再び愛撫した。 女の手の中で、粘土細工の様にモノが形を変える。 男は、そこに性の疼きを覚えたが、さ気程までの高ぶりがない。

 (現実をみてしまったからか……)

 「御覧の通りだ。 俺は『終わってる』んだ。 これ以上は無理だろう」

 男は肩をすくめた。 すると女は、男に回していた手を放し、両手を広げた。 胸の膨らみが大きく揺れた。

 「ほう、好みの形になったものだ……」

 ”オマエ、ノゾンダ”

 「なに?」

 ”オマエ、ノゾンダカタチ”

 女は、ゆっくりと男を胸に抱く。 膨らんだ胸は柔らかく、肌はしっとりした感触だった。

 「どういう意味……待て、お前は俺の『欲』が欲しいと……」

 女は男を抱いたまま、頷いた。

 ”オマエノ、ヨク、ノカタチ……”

 そう言って、女は男の頭を抱いたまま、手で男のモノを撫でる。

 「そ、そんなことをしても、もう……」

 ”ソウ、オモワナケレバイイ”

 「なに?」

 ”カンガエナケレバイイ、カンジルママニ、モトメレバイイ”

 「格闘映画のようなことをいう奴だな……」

 男は自分のモノに意識を集めた。 女の手はしっとりと、モノに吸い付いてくる。

 ”カンジレバ、イイ”

 女に言われるまま、考えることをやめ、女の手の動きだけを感じる。

 ズクリ……

 「う……」

 ズクリ……ズクリ……

 睾丸が痺れ、縮み上がり、モノが鎌首をもたげるのが判る。

 ”ココガ、イイ”

 女の手が、裏筋とカリの周りをつま弾いた。 鋭い刺激に、モノがビクリと動いた。

 「お」

 ”ナメラレタイ、カ”

 女は男の体を放し、ソファに横たえた。 そして男の顔に跨りながら、その体に覆いかぶさった。 彼の目の前で、赤い秘所が口を開ける。

 ”スキニ、シロ”

 男は秘所に口づけし、舌をいれる。 女の下半身がビクリと震えた。

 チュルリ……

 女が男のモノを咥え、強く吸った。 舌がモノに巻き付き、余すことなく舐めあげる。

 ブバッ!

 男の口から息がもれた。 女は気にする様子もなく、男のモノを丁寧に舐めまわす。

 (……おれの感じる所が判るのか……)

 ”ワカル”

 心が読めるのか、女は一言応え、男のモノを舐めまわす。

 (……なんていい……あ、おれもこいつのここを……)

 ”カンガエル、カンジテイレバ、イイ”

 女は熱心に男を愛し続けた。 女の責めに、モノはヒクヒクと震え、男は言われるままに考えることを止めて、快感に浸った。 彼は女に愛されるだけの

生き物となり、快感に蕩けていく。

 ヒク……ヒク……ヒクッ……ドクリ……

 放つ、というより溢れるようにモノが精を放った。 年相応に、垂れ流す様に精がモノから流れ出す。

 ゴクリ……ゴクリ……

 女は、男の精を淡々と飲み下した。 驚くでもなく、喜ぶでもなく……

 
 達したのち、男は横たわったまま余韻に浸っていた。 女も動く気配がない。

 くはっ……

 男は息を吐き、女の下から出ようと体を動かした。

 ”マダダ”

 女が男の上で体を回した。 女の顔が、すぐ近くに来る。 男の精を飲み干したはずだが、その気配も匂いもしない。

 「まだ……?」

 男は気だるげに答えた。 口を開くのがおっくうになるほど、体が重く、頭も回らない。 女の言葉が、耳に入ってこない。

 ”オマエガ、ホシイ”

 女が腰を動かした。 達したはずのモノが、腹の上で女の腹に擦れる。

 ズクン……

 モノが脈打ち、睾丸が縮み上がる。

 「そう……か?」

 女の言葉を考えようとするが、快感の余韻に体がじわりと痺れている。

 ”ホシイ”

 一言応え、女は男の腰に跨ってきた。

 ”イレル”

 女が腰を落としてきた。 男のモノが、女の中に入っていく感触。

 ズブ、ズブ、ズブブ……

 「あ、あ、あ……」

 モノを包み込む暖かく濡れた肉の感触に、モノが歓喜の叫びをあげ、男の中に快感のうねりを送り込む。

 ”イイ、キモチ、イイ”

 女の言葉は、自分の感覚なのか、それとも男の快感を告げたものなのか、男には判らない。

 ズップズップズップ

 女が腰を弾ませる。 男のモノと、濡れた女の肉がこすれ合い、甘い快感にモノが震えあがる。

 「ああ、蕩けそう……」

 ”ソウ、デハナイ。 トロケル……”

 「と、ろける?」

 ”キモチイイ、オマエ、キモチヨク、トロケ、ワタシノナカニ、スベテ、ダス”

 「あ?」

 女の言葉を、男は理解できなかった。 体を満たす快感に心奪われ、彼は女のモノになろうとしていた。

 「ああ、蕩ける……もっと……もっと」

 ”イイ……イイ……サァ……トロケルガイイ……トロケテ、オマエノ、ヨク、ヲ……”

 女は腰を動かしながら、男に覆いかぶさった。

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