ワックス・フィギュア

3.爪


 蛇のような舌かから解放され、男は目を閉じ、深呼吸で体を落ち着かせる。

 (久しぶり……いや、こんなのは初めてか……しかし……疲れる……)

 体が鉛のように重く、意識が闇に落ちそうだ。

 (商売女を相手にした時は、相手が音を上げたが……年か……)

 ”ドウシタ……”

 耳元で、『ろくろ首』が囁いた。

 「満足したよ……」 と男は応えた。

 ”マンゾク……ミタサレタ……”

 『ろくろ首』が離れていく気配を感じ、男はうとうしかけた。

 グイッ

 「なにっ」

 股間に圧力を感じ、驚いて目を開く。 ぐったりと垂れ下がるモノを、真っ赤な女の『手』が握っていた。

 「腕……いや上半身が……」

 さっきまでは、甕から出ていたのは、『頭』と長い首だけだった。 今は、女の『上半身』が、彼の下半身に抱き着き、胸から下は太い蛇のようになって

床を這い、甕の中に消えている。

 「どうして……」

 驚く男に構わず、女は手と口を使い、男のモノを責めたてていた。

 「そこまでしてくれてありがたいが……続かんよ……」

 男は、女の頬に手で触れた。 女は顔を上げる。

 ”ツヅカナイ……ヨクガツキタ……”

 「ああ……年だからな……」

 ”トシ……”

 女は首をかしげ、モノをしげしげと見つめた。 久しぶりに張り切ったモノは、今はもう年相応に伸び切っている。

 ”ヨク……”

 「性欲も、精も根も尽き果てた……かな」

 ”ソウカナ……”

 女は、手で陰嚢を捧げ持つようにし、指を裏側に這わせる。

 「そんなことをしても……」

 女は、爪の先で裏筋を探るように動かした。 ゆっくりと、深く、しかし、痛いというほどではない。

 「……」

 ゾリ……ゾリ……ゾリ……

 爪の感触は、たるんだ皮を通し、睾丸をじかに引っ掻く様に感じられる。 痛くはないが、くっきりとした感触に背筋が震える。

 「おい……お……」

 ゾクッ

 背筋を冷たい感触が走り抜け、女の手の中のモノが、冷たい痺れに縮み上がる。

 「……」

 ”カンジル……”

 言い聞かせるように呟く女。 この年だ。 一度は果てれば、当分は力を失うはず。 それが……

 ズキッ……ズキッ……

 股間のモノが猛り、苦しいほどに心臓が鳴っている。

 ”ココガ、イイ……”

 女の爪が、そそり立つモノの裏側をツーッと引っ掻いた。

 「あっ」

 声が漏れるほどの刺激かに、モノがビクリと震える。

 ”モット……モット……”

 女は両手でモノを掴み、爪を立ててモノと睾丸を引っ掻く。 爪のはっきりした感触がモノに残り、ジンとした刺激となって染み込んでくる。

 「こ、これは……」

 ”ホシクナル……モットホシクナル……”

 呪文のように女が呟いた。 男は、目を開けて女の顔を見た。

 カッ

 瞳の無い、赤い目が彼を捉えた。 次の瞬間、熱い欲望が彼の中でたぎる。

 「ほ、欲しい……お、お前が……」

 ”ホシイ……”

 ずるりと音を立て、上半身だけの女が彼のたるんだ腹の上を上ってきた。 ヌルリとした肌が男の肌に吸い付き、うねりながら昇ってくる。

 「ううっ……」

 ぎくしゃくと腕を動かし、女の両脇に腕を入れ、彼女を持ち上げる様にして自分の胸に抱いた。 微かなふくらみは、少女の様でもあったが、紛れもなく

『女』の胸であった。

 ”ホシイ……”

 赤い唇が彼を捉え、彼もそれに応える。 唇が密着し、互いの舌が絡み合う。

 「むう……」

 ”モット……モット……”

 湧き上がる欲望のまま、男は女の唇を貪った。 女の手は、男の背と、モノを掴み、その体に爪を立てる。

 「ああ……」

 引っかかれるほどに、体を走る冷たい快感。 それが体の芯を震わせ、欲望の火を燃え上がらせる。

 「あう……あぅ……」

 ”ホシイ……”

 唐突に快感の臨界点が訪れた。 女の手の中で、モノが激しく震え、欲望の証を吐き出した。

 「ああ……」

 2度目の絶頂の後、男の体から力が抜ける。 一気に老けたかのような、いや、年相応の脱力感が彼を襲う。

 「はぁ、はぁ」

 ”……”

 赤い女は、ぐったりした男を抱きしめ、チロチロと顔を舐め、背中やモノを爪で引っ掻いている。

 ”モット……”

 「さ、さすがに……お?」

 モノにくわわる圧力が増した。 視線をそちらに向けると、むっちりとした赤い太腿が、男の足の間に割り込んでいる。

 「あ、足が生えた?」

 いつの間にか、女には下半身が備わっていた。 そして尻の辺りから太い尻尾の様なモノが生え、甕の中に続いている。

 「成長しているのか?……」

 いぶかしむ男に構わず、女は男に全身をこすりつけ、続きをせがむ。

 ”モット……ホシイ……モット……”

 「お前……底なしの性欲の権化か……」

 ”チガウ”

 女がきっぱりと言った。

 ”ヨクハ……オマエノヨク……”

 「俺? 俺の性欲?……」

 ”ホシイ……オマエノ、ヨクガ、ホシイ……”

 「お前……いったい何を……むぅ」

 女が男に絡みつく。 赤い肢体を、蛇のように男に絡みつかせ、全身で男の体を愛撫する。 女の冷たい肌の感触が、男の体に染み込んで来るにつれ、

男は性の欲望が三度燃え上がってくるのを感じた。

 「こ、これは……」

 ”ホシイ……ヨクガホシイ……オマエガホシイ……”

 この赤い女は男を求めていた。 しかし、それは性欲とは違う、別の何かだ、男はそう感じていた。

 「いったい……うう……」

 女の愛撫は、男の芯を蕩かし、欲望の火を大きくしていく。 欲望を抑えきれなくなり、男は女を強く抱きしめた。

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