ワックス・フィギュア
2.舌
「うわぁ!」
『ろくろ首』を振り払い飛び下がっ……たつもりだったが、足が絡まり尻もちをつく。
「痛っ!」
手を床につき、後ずさった。 『ろくろ首』は、甕から少し首を伸ばし、こちらを伺っている。 彼は『ろくろ首』を視界から外さないように、床を這って扉に向かう。
”ドコヘ……イク?”
(おや?……襲ってこないのか?)
彼は床を這いながら『ろくろ首』を観察した。 小さな甕から真上に首を出し、あまり安定していないように見える。
(こちらに首を伸ばせば、バランスを崩して甕がひっくり返るな)
『ろくろ首』がこちらに来れないと気がつくと、恐怖心が薄れ、興味がわいてきた。 彼は、ソファにつかまって立ち上がり、『ろくろ首』に話しかけた。
「お前は何者だ? 妖怪か?」
”ヨウカイ……ワカラナイ……” 『ろくろ首』が首を傾けて答えた。
「さっは、『アジミ、シタイ』と言ったな。 どういう意味だ。 私を食べる気か」
問いかけながら、男は『ろくろ首』を観察する。 甕から首だけが生えている姿は、少々不気味だが、恐ろしさは感じはない。
”タベル……ナニヲ?”
「聞いているのは私だ。 あまり利口ではないようだな」
男は一歩近づき、『ろくろ首』の顔をじっくりと見た。 深みのある赤色で半透明のようだが、向こうが透けて見えるほどではない。 甕の口より頭が大きい
から、形が変えられるらしかった。
「ふむ。 手も足もないか。 出来るのはおしゃべりだけか?」
半ば独り言のように言うと、『ろくろ首』が口を開けた。
ヌロン……
真っ赤な舌が伸びてきて、男の顔を舐めた。
「うわぁ!」
予想外の『攻撃』に、後ずさる。
「何をする!」
”アジミ”
「は? またか…… で? 私の味はどうだったのだ?え?」
驚かされことに苛立ち、きつめの口調尋ねる。
”ワルクナイ……”
「あ?」(どういう意味だ? こいつは、何を考えている?)
”ワルクナイ…… デモ……オトロエ……キニシテイル……”
男は『ろくろ首』の言葉を反芻し、憮然とする。
「悪かったな。 もうそろそろ、枯れる年だ」
吐き捨てるように言うと、『ろくろ首』が笑った、にやりと……
「……な、何がおかしい!」
”ナメサセテ……”
「な、なにぃ!?」
『ろくろ首』が再び舌を伸ばす。 さっきよりもゆっくりと。 男は、ぎょっとして後ずさりかけ、動きを止める。
「なんのつもりだ……」
”ファメル……”
『ろくろ首』の舌が、頬に触れた。 そのまま顎の線をなぞる様にして、首筋を舐める。
ゾクリ……
異様な感触に、背筋を冷たいものが走る。
「おい……」
”ンフ……”
舌は、首筋から肩甲骨の辺りまでを這うように動き、名残惜しそうに離れていった。
「……何だったんだ」
男は大きく息を吐き、腰のあたりに圧力を感じた。 視線を下げると、ズボンが突っ張っていた。
「……お、お前」
”カンジタ?……”
『ろくろ首』が口元で笑う。
「……あ、あぁ……」
”モット……カンジタイ?……”
男は、『ろくろ首』と自分の股間を交互に見る。 こんな得体のしれないモノに、からかわれるのは正直腹が立つ。 しかし……
「……あぁ」
ニタリ…… 『ろくろ首』が笑った。
男は『ろくろ首』の甕の正面にソファを置き、深々と腰掛けた。 服を脱ごうか迷ったが、首だけの女を前に服を脱ぐのも変な感じがし、服は着たままにした。
”ナメル……”
『ろくろ首』は宣言し、舌を伸ばしてきた。 男は少し考え、長い舌の先を自分の口で咥え、舌をからませた。
ヌルリ……
長い舌が蛇のようにうねり、男の口の中を舐めまわす。
ゾクリ……
背筋を走る冷たい感覚、それが不快なものではないことに、ようやく気がついた。
ゾクリ……ゾクリ……
ビクッ……ビクッ……
股間が圧迫される。 痛いほどにきつくなってくる。
”ダシテ……”
促されるまま、ズボンのチャックを下げ、パンツをズリ下ろした。 パンツを破かんばかりの勢いで、モノが飛び出してきた。
クラリ……
一瞬気が遠くなる。 血がそちらに行ってしまったせいだろう。
ビクン……ビクン……
モノが脈打ち、震える。 こんなに興奮したのは久しぶり……いや、過去にこれほど高ぶったことがあったろうか? ぼんやりとそんなことを考えた。
”ナメル”
再び宣言し、『ろくろ首』の舌がモノに伸び、ゆっくりと巻き付く。 蛇が獲物を締め上げるように。
「あぁ……」
ヌルヌルととぐろを巻き、モノを締め上げる赤い舌。 巻き付かれたモノが身もだえしているのが判る。
キュゥッ……キユゥッ……
痺れる快感にモノが歓び、一拍遅れて男の体が快感で震える。 いま、男はモノの付属物だった。
「はあっ……」
”キモチ……イイカ?”
「いい……いい……」
”モット……ヨクシテヤル……”
舌のヌルヌル感が強くなった。 唾液……だろうか? 舌を濡らす何かの粘り気が強くなったような気がする。
「あ……」
舌に巻き付かれたモノが、甘美な快感に震え、陰嚢が冷たい痺れに縮み上がる。 快感を反らすことができない。 モノは、彼女の舌にいいようにされ、
そして自分も……
「あ、ああっ……」
”サ、キモチヨクナリナサイ……”
ド、……ドクリ、ドクリ、ドクリ……
舌の圧力負けに、モノが中身を吐き出した。 脈打つたびに、精が溢れ出す心地よさが体を満たす。
「あ、あ、ああ……」
ドクドクドク……トクッ……
最後の一打ちが止まり、心地よい脱力感に体を委ねる。
ヌルヌル……ヌメヌメ……
力の抜けた男の体を、蛇のような舌が這いまわる。 その愛撫に男は虜になっていった。
【<<】【>>】