マニキュア3
22.青い爪の魔女と赤い爪の魔女
「行くわよ」
鷹火車の舌が、ずいという感じで奥に延び、生方の『女の急所』を舐めまわした。 生方の下腹がうずく。
「うあっ!?」
ズクン、ズクン、ズクン……
鼓動に合わせて、下腹の中から快感が沸き上がり、体に広がっていく。
(もっと……ああ……)
鷹火車の舌に合わせて、生方が身をよじり、ベッドの上でのたうつ。
「ダメ、そこっ! ひぃっ!」
あふれだす熱い快感に意識が飲み込まれ、生方は失神した。
「……あ?」
生方は瞬きをした。 保健室の天井が目に入る。 体がひどくだるい。
「ようやくお目覚め?」
からかうような鷹火車の声に、慌てて身を起こす。
グキッ
「あてて」
首がきしんだ。 痛む箇所を押さえながら、自分の体に……『ついている』のを確認する。
「戻ってる……」
保健室のベッドに横たわっているのは、半裸の男の体。 ちなみに、『男』の箇所は縮み上がって、かすかに震えている。
「『女』としていっちゃったから、戻ったのよ」
「そういうものなんですか……」
沈んだ声で応える生方に、鷹火車はややとがった声をかける。
「一人だけでいくなんて、失礼よ」
「え?」
見ると、鷹火車は裸身に白衣をまとっただけの姿で、不機嫌そうにこちらを見ている。 生方は、ゴクッとつばを飲み込んだ。
「あ……すみません……あの……責任取って……続きを……」
謝罪しつつ、と期待が透けて見える声をかける生方。 しかし、鷹火車は肩をすくめた。
「今日はやめときましょう。 体力を消耗してるでしょうし、『女』の感覚が残ってるから、『男』をやれないと思うわ」
「はい……」
沈んだ声で応える生方に、鷹火車は続ける。
「『女』の感じるところ、体で覚えたわね?」
「え……あ、はい」
「アソコを貴方の『男』でしっかり愛してあげないと、『女の子』は気持ちよくならないのよ」
「ははあ……それで、アレが太くて長いほうがいいわけですか」
「そう。 奥にあるから、物理的なサイズが必要なのよ。 しっかり鍛えなさい」
「鍛えて……どうにかなるものなんですか?」
「さぁ?」
無責任にあおっておいてから、肩をすくめる鷹火車だった。
生方が服を着て出ていくと、鷹火車も服を着て身なりを整え、廊下に向かって声をかけた。
「覗きなんて、趣味がよくないですよ。 『先輩』?」
生方が出て行った扉が開き、如月麻美が入ってきた。
「別に覗くつもりはなかったわよ。 ここに来たら、それの最中だったから待っていたの。 それより『先輩』ってなんです? 私は大学生。 鷹火車先生は
私より10歳は年上でしょう」
文句を言う麻美に、鷹火車は肩をすくめて見せた。
「『魔女』としては、貴女のほうが先輩でしょう。 それに、私は『青い爪の魔女』だけど、貴女の『咬ませ犬』以上ではないはずですけど」
麻美は黙って部屋に入り、手近の丸椅子にすわって鷹火車と向かい合った。
鷹火車が『青い爪の魔女』になったのは、麻美がまだ高校生だった時だ。 人間を『魔女』にする『マ二キュア』で鷹火車が『青い爪の魔女』になって
しまったのだ。 彼女は、マジステール大学の実習用の家畜をはじめ、複数の動物を獣娘に変えて使い魔とし、自らも竜娘(というには年が……)となり、
麻美たちに挑んできた。 がそれは、彼女自身の意思ではなく、『マ二キュア』のラベルに操られた結果だった。
「麻美『先輩』。 貴女は『マ二キュア』の選ばれた『赤い爪の魔女』の正当な後継者でしょう?」
「『魔女』になった時期はほとんど変わらないわ……ですよ。 年上だし、社会人の鷹火車先生には及ぶべきも……」
「私は『魔女』の修行……かな? それをしていないから、『魔女』としてはあなたが先輩でしょう?」
「そうかな……」
麻美は、膝を抱えた。
「ところで、何の御用? さっきの『生方』くん同様、体のお悩みとか?」
「そうじゃありません。 その『魔女』の話なんですけど……」
「?」
鷹火車が話の先を促す。
「実は……『黒い爪の魔女』と言うのがあらわれて」
「あら……テコ入れの新キャラかしら」
「いやそうじゃなくて…… 『妖品店ミレーヌ』を明け渡せって」
「へぇ」
麻美は、『黒い爪の魔女』が現れてからの経緯を鷹火車に説明した。 『黒い爪の魔女』が現れたこと、エミが彼女に捕まったこと、『黒い爪の魔女』が
代替わりしエミがそちらについたこと、『妖品店ミレーヌ』を譲り渡すように要求してきたこと……
「随分とヤバげな状況になってるじゃないの。 しかも、『サキュバス』のエミさんまで向こう側についたの? ほぼ『詰み』じゃないの」
「向こうについたというか、操られていると思うんだけど……」
「ふーん……少し変ねぇ」
「え?」
「なんで『交渉』なのかしら? エミって、あなたたちにとっては最強の駒なのよねぇ。 それを手に入れていながら、正面から乗り込んできて挑戦するなんて」
「それは、エミさんも言っていたけど『下策』だって……」
「『黒い爪の魔女』は?」
「え?」
「その『黒い爪の魔女』はなんて言ってたの?」
「え? えーと……なんか後ろに控えてて、エミさんが全部仕切っていたし……」
「桃色の小悪魔は?」
「ミスティ? 確か……『エミちゃんの考えなんだ』……」
「ふーん……」
鷹火車は足を組み替えて考え込む風になり、数分が過ぎた。 たまらず麻美が声をかける。
「あの……」
「うん……ひょっとすると、エミは……」
「なに?」
「あ、いえ……それで? 貴女たち、いえ、貴女はどうしたいの?」
「どうって言われても……」
鷹火車は姿勢を正し、麻美を真正面から見据える。
「『妖品店ミレーヌ』と、エミと、ミスティと縁を切りたいの?」
「え?」
「貴女は『魔女』になって、ここまで流されて来たのよね」
「流されていたつもりはないけど……」
「彼女たちは、貴女に問いかけているの。 『覚悟を決める時が来た』。 『赤い爪の魔女』の後継者を引き受けるか、それを放り出して、彼女たちと
二度と関わらないかと」
麻美は瞬きした。
「そ、そんな急に……」
「こういうことは、急にやってくるものよ、麻美さん」
「で、でも。 私どうしたら……」
「私が言うべきことではないわ。 自分の人生よ。 自分で決めなさい」
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