マニキュア3

19.エミの提案


 −−『妖品店ミレーヌ』−−
 麻美はラブホテルでビデオを確認した後、『妖品店』に戻ってきた。 夜も遅い時間だが、一度戻ってビデオの内容をミレーヌに伝える必要があると

考えたのだ。 ミレーヌとミスティが、麻美の報告を聞き終えた後、『妖品店』の扉が開いた。


 「誰? こんな時間に……エミさん!?」

 扉を開けて入ってきたのは、三人が話をしていたエミその人だった。

 「無事だったの!?……て、……誰?」

 麻美は、エミの背後に二人の人影が従っているのに気が付き、訝しげな表情になった。 エミは、麻美たちを見据えて口を開く。

 「まず、宣言させてもらうわね。 私は、この『黒い爪の魔女』の後継者、ルゥに味方することにしたわ」

 「え……え?」

 麻美は、ぽかんと口を開けた。 その背後で、ミレーヌがフードを微かに揺らす。 そしてカウンターに腰かけていたミスティが、大きく伸びをして、言った。

 「え、えー♪ なんちゃって♪」

 
 数秒の静寂の後、麻美はエミの顔を見返し、震える声で聞き返す。

 「今なんて言ったの……」

 エミは、冷たい笑みを浮かべたまま繰り返す。

 「私は、『黒い爪の魔女』ルゥの味方になったの、だから貴女達とは……敵対……まではいかないか」

 「普通のお友達でいましょう♪ かな♪」 ミスティが、どこか楽しげに返した。

 「ま、待って! どうして!? 何が……あ……」

 麻美が、エミの背後の二人を睨みつけた。

 「あ、あんたたちが、エミさんに何かしたのね!」

 ルゥが首をすくめ、エミが麻美の視線からルゥを庇うように動く。

 「エミさん!」

 「騒がないで。 近迷惑よ」

 「そんなこと!」

 「まぁまぁ♪」

 ミスティが軽い調子で麻美を制する。

 「『黒い爪の魔女』だもの♪ 『催眠』とか『洗脳』とか……あ、最近はやりの『寝取られ』!」

 『違うって』 エミ、ルゥ、ミーシャ、麻美、ミレーヌが揃ってミスティに突っ込んだ。

 ミスティがしょげたところで、店の奥から赤と緑のスライム娘達、エミの使い魔の『スライムタンズ』が駆け込んできた。

 ”ピー!?”

 赤いスライムのスライムタンズ・リーダーが慌てた様子で、エミに何かアピールする。

 「ああ、貴女達には随分助けられたわね。 感謝しているわ。 ミレーヌ、ミスティ、この子たちは元々貴女達が作り出したアイテムから生まれた使い魔。 

だから、お返しするわ」

 ”ミー!”

 スライムタンズたちが、甲高い声驚きの声を上げた。 ミレーヌが、スライムタンズ・リーダーの方を見た。

 「……エミさんとの……リンクは?……」

 ”ピー……”

 「……切れているの……」

 麻美は、茫然としてエミの顔を見つめることしかできなかった。


 「さて、本題に入りましょうか。 私達は、ここを明け渡してもらいに来たの」

 「え?」

 「……はい?……」

 「おお、これが話に聞く『地上げ』♪」

 『違うって』 エミ、ルゥ、ミーシャ、麻美、ミレーヌが揃ってミスティに再び突っ込む。

 再度しょげるミスティを無視し、エミが続ける。


 「この子………ルゥは『黒い爪の魔女』の後継者。 この子に、この店を譲り渡してもらいましょうか」

 エミの言葉に、ミレーヌが応じる。

 「……力づくで……ですか?……」


 「おお、『道場破り』♪」

 三度目は無視され、落ち込むミスティ。


 「いいえ、貴女は『黒い爪の魔女に』にここを譲り渡すべき正当な理由があるのよ」

 「……私は……『赤い爪の魔女』……その後継者に……譲るべき……」

 「それが麻美さん。 では、彼女にその実力はあるの?」

 皆の視線が、麻美に注がれた。 彼女はすくみ上る。

 「わ、私は修行中で……」

 「魔女になってどのくらいたつの?」

 「え……ええと……」

 エミは、容赦なく続ける。

 「この子、ルゥはさっき『黒い爪の魔女』の後継者となったばかりよ。 その子が、追跡してきた私を『支配化』においた。 使い魔にした。 実力は、

どちらが上?」

 麻美の顔が青ざめる。

 「……『黒い爪の魔女』と……『赤い爪の魔女』では……魔法習得の方法が……異なります……」

 「だから、実力は比べられないと? では、あと何年たてば修行すれば、この子は一人前になるのかしら」

 鋭い視線が麻美を貫く。

 「このままだと、この子が一人前になる前に、ミレーヌ、貴女の体が持たなくなるのじゃない? 現に、『黒い爪の魔女』エルサは……」

 ミレーヌのフードが前に傾き、ミスティがそっと目を閉じた。

 
 少しして、ミレーヌが顔を上げた。

 「……エミさん……貴女は……その子に支配……されている……のですか?……」

 「ええ」

 「そーは、見えないなぁ♪ いつもと変わらないみたい♪ 私達にも、敵意向けてこないしぃ♪」

 「『黒い爪の魔女』に対しての忠誠心はMaxになっているわ。 だからと言って、貴女達への心情が変わったわけではないわ。 だから、筋を通すために

正面から来たのよ」

 「おかげで、ボク達は生きた心地がしなくって……」「まったく……」

 エミの背後で、ルゥとミーシャ姉妹(弟?)がぼやいた。 その二人を見て、ミスティがすっと目を細める。

 「ふーん……ここに殴りこんできたのは、エミちゃんの考えなんだ♪」

 ミスティの言葉に、エミが頷いた。

 「殴りこみも考えたけど、下策よね。 交渉で、ここを譲りけられればそれに越したことはないでしょう?」

 「断られたら?」

 「さて?」

 ミスティがにやりと笑い、エミの口元が僅かにゆるむ。

 「ミレーヌちゃん♪」

 「……はい?……」

 「いいんでない♪ 譲ってあげても♪」

 ミレーヌが顔を上げ、麻美が目を見開く。

 「……なぜ?……」

 「麻美ちゃん、この先見込みあるのかな♪」

 麻美が立ち上がった。 顔色は蒼白を通り越して真っ白になっている。

 「……」

 「もう一人、『青い爪の魔女』もいるけど、あっちは性格がちょっとねぇ♪」

 「……しかし……」

 「今すぐ譲らなくても、その『黒い爪の魔女』を弟子にすればいい♪ このままだと、エミちゃんの言う通り、麻美ちゃんに引継ぐ前に、ミレーヌちゃんの

体が終わっちゃうよ♪」

 「待って……」

 麻美の言葉をエミが遮る。

 「だまりなさい。 今のあなたには、ここを引き継げる実力はないわ。 仮に、その衣を受け継いだとしても……」

 エミはぐるりと店の中を見回す。

 「この店の中の魔法のアイテムを管理できず、破滅するだけよ」

 エミの言葉は、麻美の胸に冷たい刃となって突き刺さった。

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