マニキュア3
15.悪墜ち?
ルゥの『尻尾』が根元からしなり、先が床を叩く。 反動で跳ね上がった『尻尾』が弧を描いてエミに迫る。
「!」
エミは、体をひねって『尻尾』から身をかわす。
(と……これ、何を狙ってるのかな?)
見る限りでは『尻尾』の長さは、2mぐらい。 それが、鞭のようにしなってエミを襲う。
(拘束するには長さが足りないような……目か耳を狙ってる?)
顔近くにきた『尻尾』から身を守るため、両手を顔の前でクロスする。 一瞬遅れて『尻尾』が手首を叩いた。
(痛くない……打撃が目的じゃないの?)
人間が武器として使う鞭は、皮が裂けるほどの威力がある。 しかし、この『尻尾』には打撃力はないようだ。
(ならばあの子を取り押さえて)
『尻尾』は脅威でないと判断し、ルゥに狙いを定める。 しかし、『尻尾』が再び顔面に迫って邪魔をする。
(別の生き物みたいに動くのね)
ルゥは薄く笑ったまま、足を開いて床に蹲り、その秘所から伸びた『尻尾』が勢いよくうねってエミに襲い掛かってくる。 ルゥに迫ろうとするたび、『尻尾』に
邪魔されエミは攻めあぐねていた。
「お姉さん……どうするの?」
ルゥはクスクスと笑っている。
(棒か箒でもあれば、あれを絡めとって……と、待って)
エミは思い出した。 自分にも尻尾がある事を。 一歩下がって、自分の中の『サキュバス』を解き放つ。
ズルリ……
エミの頭に角が生え、背に翼が開き、尻に尻尾が生える。
「わぁ、凄い凄い」
パチパチとルゥが手を叩いている。
「なめないでもらえる」
顔をしかめて言い放つと、エミは翼で体をガードしつつ、自分の尻尾に意識を集める。
ビタン!
エミの尻尾が床を叩いて跳ね上がり、ルゥの『尻尾』を弾き飛ばす。
「『尻尾戦』なんてはじめてよ」
互いの尻尾が、火花を散らす……
ビタン、バシン、ビタン……
いまいち盛り上がらない。
「威力がないのはお互い様だね」
「そんなこと、判っているわ……」
エミは、『尻尾』の動きを注視して、タイミングを計っていた。 そして、ルゥの尻尾が宙で向きを変える瞬間を狙い、自分の尻尾でそれを絡めとった。
「捕まえた!」
「捕まっちゃった♪ てへ」
ルゥがペロリと舌を出す。 その態度に、エミは嫌な予感を覚える。
ニュルルル……
「ひにゃぁぁぁ!?」
絡めとられた『尻尾』が、エミの尻尾に巻き付きながら一気に伸びてきた。 『尻尾』の先端がエミの尻に、その先に迫る。
ビチャリ
エミの秘所に『尻尾』の先端が触れた。
「甘い! そこはサキュバスの秘所よ!」
エミは、自分から秘所を開き尻尾を咥えこむ。 男のものを咥えこみ、篭絡するためのそこは、サキュバスの最大の武器だった。
ジュルリ……
濡れた音が響き、秘所が『尻尾』を咀嚼するように蠢く。 『尻尾』がビクビクと細かく震え出し、その動きがルゥに伝わってくる。
「やん♪ 積極的」
二人の動きが止まった。 ルゥは微かに笑ったままエミの方を見ている。 一方のエミは、凍り付いたように立ちすくんでいる。
数分が過ぎ、エミはぺたんとベッドに腰を下ろし、二三度瞬きした。 自分の手を目の前にかざし、裏表を確かめるように見る。
「エミお姉さん♪ 気分はどう?」
エミは顔を上げ、ルゥを見た。
「なに? これどういう状況なの?」
不思議そうに言うエミ。
「これって、『洗脳』? それとも『催眠』?」
「そのどちらでもない……と思う。 ボクは学がないから。 エミお姉さんには判るんじゃないかな?」
エミは、不思議そうに腕を組み、考え込む様子になった。
「よくわからないわね……『感情抑制』……『感情制御』かな?」
「そうなのかな……一つ確かめさせてお姉さん」
ルゥは、エミを見てにっこりと笑った。
「ボクの味方になってくれる?」
エミは、ルゥを見て笑い返した。
「ええ、いいわよ。 いまから私は貴女の味方」
エミはベッドから立ち上がり、ルゥに歩み寄りって頤に指をかけ、上を向かせた。
「たっぷりと、可愛がってあげるわ」
「はは……」
ルゥの笑顔が引きつり、汗が一筋頬を流れた。
「確認するけど……私と貴女はその『尻尾』に操られている……わけじゃないのね?」
「うん。 ボクたち個人の意思や、知識は変わっていない……はず」
「頼りないわね」
「仕方ないよ。 ボクはもともと男だったし、魔法の知識もなかったんだよ。 それがいきなり女に変えられて、魔女にされたんだし」
「環境の変化についていけないと言う訳か」
ルゥは頷く。
「とりあえず、代替わりしは成功したから、次に頼りになる味方を作る必要があったのよ」
「それで私を……『悪堕ち』させたの?」
「『悪堕ち』? ボクって『悪』なの?」
ルゥがべそをかいた。
「ああ、ごめんごめん」
エミが、ルゥの頭を撫でた。
「それで? ここまではエルサ……先代の思惑通りなのよね」
エミはちらりと、エルサの屍に目をやった。
「うん、『赤い爪の魔女』や『館の女悪魔』たちとは昔から確執があったから、顔を見せれば食いついてくるだろうと言う考えだったけど……予想以上に
頼りになる人……サキュバスさんが来てくれた」
笑顔になるルゥ。
「お願い、ボクの力になって」
「はいはいっと」
エミも笑い返した。
「ところでこれ、私は何をされたのかな? 貴女違って、『魔女』の『記憶』や『意志』を『追加』されているわけじゃないわよね」
「うん。 エミ姉さんの体には『尻尾』の一部が残っていて、ボクに対して、強い『親愛』の情を感じるようになっている……らしい」
「ふーむ……すると、同じ手法で味方を増やすことは……」
「無理」
断言され、エミはがしがしと頭をかいた。 彼女の思考は、ルゥを最優先の保護対象となる様に働いている。 しかし、それは過去の関係を無視させる
ほどのものではなかった。
「取りあえず、ミスティ、ミレーヌ、麻美さんたちに挨拶しておかないとね」
「何を?」
「『黒い爪の魔女』陣営に。ヘッドハンティングされましたって」
エミは思い出したようにつけ加えた。
「スライムタンズも、ミレーヌに引き取ってもらわないと」
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