マニキュア3
8.:継承の始まり
エミは、ミレーヌの『仮説』を頭の中で反芻する。
「その『黒い爪の魔女』……略して『黒魔女』について、『魔女』以外の部分で判っていることはないの?」
「……『魔女』以外?……」
「えーと、貴女達『赤い爪の魔女』……『赤魔女』は、『魔女』の技を除くと『人』なのよね? それで、『黒魔女』から『魔女』技を除くと『人外』になる」
「……おそらく……ああ……判りました……」
「一口に『人外』と言っても、その特性には幅があるけど。 『ミレーヌ仮説』ではどんな『人外』を想定しているのかしら?」
ミレーヌは少し考える風になった。
「……先ほどの話を……繰り返す事になりますが……」
ミレーヌが、『黒魔女』のベースと想定している『人外』は、『肉体』の変化に対して『魂』が不変でなければならない。 ミレーヌが知っている『人外』の
なかでも、該当するのはミスティに代表される『悪魔』ぐらいしかいない。 『シェア』、『シェアーズ』も『黒魔女』になれるかもしれないが、確信はない。
未知の『人外』である可能性も小さくない。
「……まぁ……『悪魔』も……ミスティ、ミストレス様ぐらいしか知りませんし……この二人も同族かどうか……判りません……」 エミは腕組みをして
考え込んだ。
「情報不足もいいところね…… そもそも『黒魔女』がなぜ『挨拶』にきたのかしら?」
「?」
「……?……」
麻美とミレーヌが揃って首をかしげ、エミは肩をすくめる。
「『赤魔女』と『黒魔女』は友好関係にないでしょう? 『黒魔女』がどうして『妖品店ミレーヌ』場所を知っているの。 店舗移転のお知らせを、『黒魔女』に
出したの?」
「……いえ……」
「だったら、結界に守られたこの店の場所を、彼女は手間をかけて調べたことになるのよ。 その目的が『挨拶』に来ることだったと言うの?」
「……他に目的があると?……」
「この店で保管しているアイテムか、店員を知りたかったのかも」 スマート・ミスティが、エミの方を見ながら言った。
「店員を?」
「後継者探しと言ってたでしょう? ここは『赤魔女』の拠点。 『赤魔女』の見習いを、『黒魔女』の後継者として引き抜こうと考えたとしても不思議は
ないでしょう?」
「あり得るか……なら、麻美さんが顔を出さなかったのは正解ね」
「……そうですね……何れにしても……しばらく彼女の動きを……警戒した方がよいでしょう……」
「そうだけど、誰が、どう警戒するの?」
「……」
「エミちゃん」
スマート・ミスティがにっこり笑う。
「お願い♪」
エミがげんなりした顔で肩をすくめた。
−−酔天宮町 商店街ーー
『黒魔女』エルサは、『妖品店ミレーヌ』の中の事を思い出していた。
(奥に二人いた……一人は『魔女』、もう一人は……たぶん妖魔……)
口元が笑みの形に歪む。
(あれは……いけそうね……さて……)
『黒魔女』エルサは、耳を、いや『心の耳』を澄ませた。
(あの子は、どうしているかしら……)
スマホを取り出し、その画面を見るふりをしながら、『あの子』を求めて彼女は歩き出した。
同じ通りを一人の少女がおぼつかない足取りで歩いていた。 少女? 年は14、5、いやもっと若いかもしれない。 顔立ちは幼いし、体の線は細くて
少年と見まごうほど。 なのに、体の周りには妖しい色気を漂わせている。 彼女とすれ違う男たちが、立ち止まって彼女を見つめている。
「おい見ろよ、あれ。 たまんねぇな」
「マジか。 ガキだ……いや……ほんとにガキかあれ?」
「声かけたらついてきそうだぜ」
「ばか、ヤバイだろうが。 下手すりゃ、『女』にすらなってねぇぞ」
少女とすれ違う男達が、みな獣の眼つきになっている。 危険な兆候だった。 しかし、行動に移す者は皆無だった。 男たちがいざ声を……と思うと、
突然足が動かなくなり、声が出なくなる。 立ち尽くす男たちの間を、フラフラと少女は歩んでいく。
「ミツケタ」
その声に少女は振り返った。 『黒魔女』エルサが彼女を見ていた。
「こんにちわ、お嬢ちゃん……と、昨日は坊やだったかな」
「こんにちわ……」
「お名前、聞かせて」
「……ルゥ……」
「そう……ルゥ」
エルサは『彼女』に手を差し出した。
「おいで」
「うん……」
ルゥはエルサの手を取った。 二人は連れだって路地の間に入っていった。 後には、立ち尽くす男たちが残された。
”ここ……どこ……”
’いい所よ’
ルゥは辺りを見回す。 薄暗い照明の部屋の壁はは、退廃的なピンク色に塗られている。
’お脱ぎ’
エルサに言われるまま、ルゥは裸になった。 少女の裸が薄暗い照明にさらされる。
’いい体になったわね。 どうやったの?’
”わかんない……”
ルゥは夢見るような口調で言った。
”手が……爪が……”
’見せて’
ルゥが手を差し出すと、エルサはその手をとり、爪を見つめた。
’うまく定着している……やはり、貴女は私と同じ……’
”同じ……なの?”
’ええ……’
エルサは、自分の衣服を脱ぎ落した。 見事に均整の取れた女体が露わになる。
”綺麗……”
’そう?’
エルサは、口元だけで笑うと部屋の中央にあるベッドに、ルゥを横たえた。
’貴女もこうなるの’
”そうなの?”
’ええ’
エルサはルゥに覆いかぶさり、ルゥに口づけをした。 ふっくらとしたエルサの唇が、ルゥの唇に重なり、舌が口腔に滑り込んでくる。
’さぁ……ヨクシテアゲルワ……’
安っぽいラブホテルの部屋が、少女の喘ぎで満たされていく。
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