マニキュア3

5.少年の


 ルゥは自分の右手の爪をまじまじと見つめた。 爪は根元から黒くなっている。

 (……どこかで挟んだかなぁ?)

 ルゥが考えこんでいると、姉が声をかけてきた。

 「お姉ちゃんは出かけて来るから。 夕方には帰ってこれると思う」

 「う、うん。 行ってらっしゃい」

 玄関のドアが閉じる音が聞こえた。 ルゥは、布団の上に座り込み、改めて自分の手を眺める。 艶やかな黒に染まった爪は、マニキュアを塗った様に

見えた。

 「……そう言えば、昨夜変な『夢』を見た様な……」

 ルゥは、『夢』の内容を思い出そうとする。

 「黒い髪の女の人……裸の……確か爪が黒かった……」

 自分の爪を見る。 黒い爪が夢の女の『爪』に重なる。

 「『爪』で引っ掻かれた……あ……アソコも確か……」

 足の間に視線を落とし、ズボンとパンツをめくる。 こちらはでは真っ赤な『男』が項垂れている。

 「……」

 ルゥは自分のモノを見つめ、おずおずと手を伸ばし、赤い先端に触れようとした。

 ピクッ

 「わっ?」

 モノに指が触れようとしたとき、指が痙攣したように勝手に動き、爪でモノを引っ掻いてしまった。

 ジーン……

 「きゃっ」

 痺れる様な妙な感触がモノに走り、手を引っ込めてしまった。

 (今のなに……それに……手が……)

 わきわきと手を開いたり閉じたりし、思い通りに動くことを確かめる。

 (勝手に動いたような……)

 じっと手を見て、次にモノを見つめる。 ルゥは、おずおずと手をモノに伸ばした。 赤い先端をつまもうとした。

 フニッ

 「わ」

 また指が勝手に動き、先端の括れたところを擦った。 ジンと痺れる様な感触が残る。

 「……」

 今度は、手を引っ込めずそのままモノを手で掴もうとした。 また指が勝手に動き、モノを包み込むように開いて、爪の先で先端を擦りあげる。

 ジーン……

 再び痺れるような感触が走る。 ルゥは、今度は手を引っ込めず、手にされるがままにしてみた。

 ヒクヒク……フニフニ……

 指はクネクネとクモのように動き、爪の先でモノを擦りあげる。 痺れる感触が消えないうちに、新たな痺れが生まれ、モノが固く立ち上がってきた。

 「……うん……」

 痺れる感覚が、先端から根本へと移り、だらりと下がっていた陰嚢が、きゅっと縮こまる。

 「あ……これ……」

 ルゥは夢の中の感触を思い出した。 この後、モノが冷たいような、熱いような不思議な感覚に支配され、その後……出してしまった事を。

 「あ……駄目。 このままだと……出ちゃう」

 自分は布団の上に座っている。 何かを『出してしまう』と、布団を汚してしまう。 手を引っ込めようとする、ルゥ。

 「止まらない? どうして?」

 手も、指も思い通りにならない。 自分の意志に関係なく、いやらしい手つきでモノを嬲っている。

 「駄目……あ?」

 ジーンと股間が痺れてきた。 夢ではこの後、痺れる感触がモノをせり上がって来て……『出して』しまったのだった。

 「あ、あれっ?」

 痺れる感覚が、せり上がってこない。 『痺れ』が腰の中へと溢れだし、背筋を駆け上がってくる。

 「あ? 駄目……変に……変になる……」

 うわごとのように呟いたと同時に、背筋を駆け上がった痺れる感触が、頭の中へとあふれ出した。

 「は……」

 ルゥは、喘ぎ声を漏らしつつ、背中からベッドに倒れた。

 
 衣擦れ、肌の擦過、喘ぎ……

 パズルのピースが宙を舞う

 タプン、タプ、タプ、タプ、タプ……

 重々しい波のうねり

 甘い、甘い、甘い

 蜜、蜜、蜜の中に浸される……

 言葉と想い結びつく

 ”あ……”

 まただ。 天井を見上げている。

 タプン、タプ、タプ、タプ、

 ”あぁ……”

 体が重い。 体が甘い。 甘い蜜が僕の体を満たし、波打つ。

 クチュ、クチュ、クチュ……

 濡れた肌が擦れ合う音がする。 どこ。 だれ。 ……ああ、ボクだ。

 頭をあげると、ボクの手が、ボクの……を弄ってる。

 タプ、タプ、タプ……

 蜜の波はそこから。 そこから波が広がって、ボクの満たしていく。

 冷たい。 暑い。 痺れる。

 心地よい。 ここちよい。 キモチイイ。

 ボクの体が震えた。 きっと、凄く『キモチイイ』んだ。

 なんだろう、ボクの事のはずなのに、まるで他人事のよう……

 でもいい。 どっちだっていい。 浸っていればいい。

 
 ルゥはぼんやりと天井を見上げる。 目は虚ろで、半開きの口からは絶え間ない喘ぎが漏れている。

 彼の右手は股間を包み、絶え間なく動く指の下で、固く充血したモノが悶え震えている。

 はぁ……はぁ……はぁ……

 陶然とした表情と、激しく動く指が違和感を感じさせる。 まるで、手だけが別の生き物で、彼を犯しているようだ。

 あぁっ……熱い……

 手の中のモノに異変が生じる。 屹立したモノが、ブルブルと震え出した。

 ヒク……ビクン……ビクン……

 精を吐き出す……かに見えたモノは、何も『出す』こともなく震えながら縮んでいく。

 ああっ……あっ……あ……

 ルゥの喘ぎは、やや声量が落ち、艶を帯びてきた。 線の細い少年の体が、さらに細く、優しさを増す。

 はぁ……はぁ……あは……

 震えるモノは、勢いを失って垂れ下がり、さらに縮みあがり、手の下へと隠れてしまう。

 あ……あっ!……

 少年の手が固く握られ、拳を股間に押し付けた形になった。 少年は背筋を反らして弓なりになり、法悦の表情で固まる。

 あ……は……

 少年の体から力が抜け、ベッド体を預ける。 が、手の動きは止まらなかった。 拳が開き、指がクモの足のように蠢いて、ルゥの股間を執拗に弄る。

 グチュ、グチュ、グチュ……

 粘った水音が指の下から響く。 細い指がテラテラと光る水で濡れ、キラキラと光る糸を紡ぎ出す。

 あ?……なに……変……

 戸惑いの表情を見せるルゥ。 その表情に、『悦び』のベールが重なっていった。

 変なの……切ない……あ……入る……入って……来る……

 『独り言』が『喘ぎ』へと、『戸惑い』が『愉悦』へと変わっていく。 少年の、どこか不自然な『自慰』行為の二幕目が始まった。

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