マニキュア3
2.人間溶解
ザスッ、ザスッ……
女の足が砂を踏む音が男に近づいてくる。
「く、来るなぁ」
近づいてくる女の肌は抜けるように白く、濡れた漆黒の髪が体に纏いつく。 そして、こちらを見ている二つの瞳は、鬼火のように青白い燐光を放っていた。
ザッ……
女は、倒れている男の脇で足を止め、しゃがみこんで顔を覗き込んできた。
(化け物……にしては、結構美人か?)
彫りの深い整った顔立ちの女で、アジア系(『蛇女』)には見えない。
”グゥ……グル……ウウ……オ?……!
最初、女の声は唸り声にしか聞こえなかったが、だんだん発音がはっきりしてきた。
「オイ……コトバ……ワカルカ?」
「あ?……えーと……コトバ? 言葉?」
「ツウジル……通じるようね……」
「日本語?……お、お前は何だ!」
言葉が通じると気づいた男は、恐怖にかられて喚きだした。
「俺をどうする気だ! 俺を自由にしろ!」
「ふん?……威勢がいいわね……元気な男は好きよ」
女が、倒れた男に手を伸ばす。 その爪は、闇より黒い。
「ど、どうする気……ぐっ?」
女の指先が男の胸に触れ、爪が微かに胸に食い込む。
「こうするの」
女は、指先で男の胸を縦に引っ掻いた。 黒い爪が、男の胸に一直線に爪痕を……黒い爪痕を残した。
「ひっ!?」
男の体がブルンと震えた。 引っかかれた瞬間、体に電気のような衝撃が走ったのだ。
「な、なんだ……」
「くふっ……」
女は含み笑いをすると、男の寄り添うように寝そべり、白い肢体を絡ませた。 そのまま男の背中に手を回し、指先で背中を引っ掻いていく。
ツー……ツツー……
「ひっ!?」
女の爪、引っ掻かれたところに、再び電気のような刺激が走る。 引っ掻かれた箇所が、勝手にヒクヒクと蠢き、生暖かい感覚がじん割と染み込んでくる。
「な、なにをしている」
「ねぇ……どんな感じ……」
女は、男の耳元に唇を寄せてきた。 ねっとりとした響きが、耳元へばりつく。
「ど、どんな感じって……」
「よくないの?」
「よ、よくない?」
「キ・モ・チ……気持ちいいでしょう?」
女に指摘された瞬間、男は感じているものが、快感であることに気が付いた。
ツー……ツー……
ビククッ、ビクククッ
爪が走るたびに、異様な快感が背中を暖かくしていく。
「な、なんだ……こ、これ……せ、背中が……」
「くふつ……アソコ……みたいに……感じるでしょう?」
「な……そんなばか……」
ゾクゾクゾク……異様な快感が背筋を駆け上がり、脳天を直撃する。
「ひっ……」
何が起きているか、男には理解できなかった。 背筋を駆け上ってくる快感が、頭の中で溢れかえる。
「ひっ、ひっ、ひぃ……」
「あらら……まぁいいか……オイデ」
女は男の体から手を放し、足を開いて手招きをした。 男は、目を血走らせて女に掴みかかり、愛液を滴らせて誘う女の秘所に猛り狂ったものを突き入れる。
ズルルルルル……
ほとんど抵抗もなく男の怒張は女の中に呑み込まれ、その奥を突き上げた。
「アハァ!!」 女が嬌声を上げる。
「うおっ!」 男が獣の叫びで答えた。
ズルン、ズルン、ズルン……
滑る女自身の中へと、たぎる欲望を突き入れる男。 女は、激しい突き入れを滑る肉で奥へと導き、ザラリとした壺で包み込んで歓迎する。
「ひぃっ!」
熱い快感が亀頭を満たし、陰茎を逆流して男の体へと溢れかえる。
「いい……いい……と、蕩けそうだぁ!」
「くふっ……そうよ……あなたを気持ちよく蕩けさせたあげる……さぁ……」
女は男を咥えこんだまま、再び彼の背中に手を回し、黒い爪で背中を引っ掻いた。 すると、高ぶって達する寸前だった男の宝玉から、快感が溢れ、
男の体へと流れ込んだ。
「ひいいっ!?」
「くっくっくっ……気持ちいいでしょう……」
「か、体が……へん……」
「変になっていいのよ……さぁ、思いっきり気持ちよくなりなさい……全部、受け止めてあげる」
女に言われた途端、男は絶頂に達した。 股間のモノだけでない。 あたかも、自分の全てが性器となったかのような快感に満たされた。 続いて、その
体が快感の証を女の中に捧げていく。
ドブリ……ドブリ……ドブリ……
「おうっ……おうっ……おうっ……」
精が陰嚢から、女の中へと注がれていく。 その快感が、とめどもなく続く。
「おう……あ?」
男は異変に気が付いた。 常ならば、陰嚢はぎゅぅっと縮み上がって精を放ち、心地よく力を失う。 しかしどうしたことか、縮んだ後の陰嚢が、再び
膨れ上がり、尋常ではない量の精を吐き出している。
「ああっ……? ああっ……」
「くふふ、たまらないでしょう? ほら……わかる? 貴方の体が気持ちよくトロトロに蕩けて、私の中へと注がれているのが」
「あ?(なんだって?)」
ドロリ、ドロリ、ドロリ……
たまらない。 女の言う通りなのか、快感に体の中が蕩けてしまったかの様に力が入らない。 その間も、彼の陰嚢は休むことなく膨れ上がり、萎んでを
繰り返し、ポンプのように粘っこいモノを女の中に吐き出し続けている。
「ああん……熱い……たまらないわぁ……」
女は、男を抱きしめ、よがっている。 女の腕が、男の体を強く抱きしめると、男の体がぎゅっと縮み、徐々に小さくなってく。 そして女の秘所にずっぷりと
呑み込まれた陰茎の周りから、ベージュ色の粘っこい液体がとめどもなく溢れ出している。
「げぼぁ……あひぃ……」
男の声が聞き取りにくくなってきた。 しかし、その声には苦通の響きは感じられなかった。
ゴホゴホゴボッ……
「く……はあっ……」
女は大きな喘ぎ声をあげ、背中から地面に横たわった。
ビシャッ
女が倒れた場所には、ベージュ色の水たまりが出来ていた。 それは、さっきまで男であったモノの成れの果てで、ヌルヌルとアメーバか何かのように
蠢き、女を包み込もうとする。
「うっふぅ…まだ、満足していないの? 可愛い子ね」
女は、ベージュ色のアメーバ男を恐れる様子もなくすくい上げ、胸に抱きしめた。 アメーバ男は、女の体にへばり付き、胸の谷間や足の間に潜り
込もうと蠢いている。
「んふ……欲望だけは溢れているのね……さ、がんばって人に戻って見せて」
女は、自分の体を這いまわるアメーバ男に囁きかけた。 しかし、アメーバ男は女の体を這いまわるのみだった。
「ふむ……ん?」
女は顔を上げ、辺りを見回した。
「もう一人いたはずよね……ああ、いたいた」
女が立ち上がり、アメーバ男は纏いつかせたまま歩き出す。 男が乗って来た自動車の手前で、若い女が這いずって逃げようとしている。
「体が痺れているのに、頑張っているわね」
「ひっ!」
゛地面を這っていた若い女は、恐怖に顔をひきつらせて振り返る。 そこには、アメーバ男を纏いつかせ黒髪の女が立っていた。
「た、助けて……」
「心配しないで、いじめたりしないから」
女はにっこりと微笑む。
「すぐに貴女も、気持ちよくしてあげる」
夜の海岸に、再び恐怖の時が訪れる。
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