マニキュア2 〜ビースト・ウォーズ〜

42.こんな終わり方でいいのだろうか


 −−翌日、マジステール大学付属高校生徒会室−−

 「さて、如月さん」

 「はい……」

 生徒会長の大河内女史を前にして、麻美は身を縮めた。 にかやかな笑顔と対照的に、眼がちっとも笑って

いない……どころか殺気すら感じる。

 「どうも昨夜、校内で何かあった様なのですが」

 バサリと広げたのは、彼女に不似合いなスポーツ新聞。 その一面に踊る文字がいやでも目に飛び込んでくる。

 『謎の桃色忍者の正体は、有名大学付属高校の保険女医!!』

 「貴方ご存じありませんか?」

 「は、はぁ」

 ここでしらをきれるほど麻美は強くない。 ぼそぼそと、言い訳めいたことを口にし始めた。


 −−同時刻、『妖品店ミレーヌ』−−

 「とまぁ、魔女と化した保険医は彼女が元に戻したんだけど……」

 「……それは結果……暴走した時点で……未熟……」

 昨夜の出来事を、エミがミレーヌに『報告』している。 麻美から話を聞く前に、エミの口から状況を確認するつもり

らしい。

 「容赦ないのね。 まぁ、幸い彼氏は失神していただけで大したことは無かったんだけど、この後始末をどうするか

が問題になって……」


 意識不明の男子生徒数名に、使い魔にされた獣娘達、正気に戻ったものの状況が呑み込めない様子の鷹火車

保険医。 これが保健室の中に詰まっている。


 「ミスティが『まーかせなさい♪』と言って」


 ミスティは、呆然としている鷹火車保険医の顔を近づけた。 ミスティの眼が怪しい光を放つ。

 「ほれ、目〜玉がぐ〜るぐ〜る……」 

 「あれあれあれ……」

 たちまち催眠状態に陥る鷹火車保険医。 彼女にミスティは自分の着ていた桃色の忍者装束を手渡して、それを

着るように命じた。 鷹火車保険医は命ぜられるままに、ギクシャクと操り人形の様な動きでそれを着た。

 「その格好で、表を走ってね。 できれば警察署の前とか〜 これで忍法『身代わりの術』」

 「……酷い」

 「忍者は非情なの〜」

 「非情と卑劣はちがうでしょ!」

 無益な漫才をやっていた二人の背後で、麻美が何やら焦っていた。

 「きゃぁ、もうダメ!」

 麻美の声で振り返ったエミは、眼を疑った。 さっきまで人の姿をしていた娘達が、獣に戻っている。

 「ちょっと!今戻したら」

 「そんなこと言っても、もう魔力が持たなのよ」

 麻美も困惑気味だ。 それでも必死に獣娘、もとい娘獣たちを抑え様としていたが……

 麻美 :「ああ、ネズミィ!!」

 娘ネズミ達:チー!(差別だぁ)

 娘虎 :グルルッ(お腹すいた)……    

 一同 :ヒーッ!!

 大混乱になった。


 「それは……災難でしたね……」

 「鷹火車保険医とネズミ達を乗っけて娘馬と娘牛が逃げ出してね、その後を娘虎が追いかけて……残りの娘獣

達は、その隙に外に逃がしたのよ」

 「……男の子たちは?……」

 「運動部の部室に放り込んて、しこたま酒を飲ませて、頭から酒をかけて……」

 「……」

 「酒瓶も置いてきたから、完璧。 今頃は……」


 体育教師「近頃、夜の学校に生徒が出入りしているという噂はあったが……高校生の分際で宴会だと! 10年

早い!!」

 男子生徒一同『ご、誤解です!!陰謀です!!』  


 「……ちょっと……やりすぎでは?……」

 「サバトで魔女や、獣娘に貞操を奪われた……よりはましでしょ。 まぁ、それも鷹火車さんが身を挺して警察の

注意を集めてくれたおかげですけど」


 警官A  『そこの桃色忍者! 馬を止めなさい!!』

 鷹火車保険医『おーほっほっほっ……じゃない、何がどうなってるのぉ〜!!』

 警官B  『そこの虎、止まりなさいの!!』

 娘虎 『グルルルルッ(虎に言葉が通じるわけおまへんやないか)!!』


 大河内女史は、拳を握りしめてワナワナと震えている。

 「おかげさまで最近の異常な事件は、桃色忍者の格好をした鷹火車先生の悪ふざけとと、運動部、帰宅部合同の

秘密の酒盛りと言うことで落ち着きそうです……」

 「そ、それは何よりで」

 「いえいえ、それもこれも貴方とお友達のおかげの様で、いずれ改めて『お礼』に伺いたいと……」

 「そ、それには及びませんが……」


 「……とりあえず……終わりましたか……」

 ミレーヌは、エミが持って帰った『マニキュア』の瓶を小奇麗な箱にしまった。

 「ミスティがずっと忍者の格好で悪ふざけをしていたのは、警察の眼を引き付けるのと、最後に鷹火車さんを

スケープ・ゴートにするための布石だったの?」

 「……さて……それだけではないかも……」

 「というと?」

 エミの問いにかけに、ミレーヌは黙って首を横に振った。


 カラ〜ン

 ウェルカム・ベルの音がして、げっそりした顔の麻美が店に入ってきた。

 「お疲れ様」 

 「疲れた〜…… はい」

 麻美が、エミに封書を差し出す。

 「?」

 「生徒会長から……」

 エミは怪訝な顔をして、封筒を開いて中の紙を開いた。 その顔が、驚きの表情で固まる。

 「何が書いてあったの?」

 エミは黙って中身を麻美に見せる。

 『……本校にておきた不祥事の対処について尽力いただき、深く感謝いたします。 なお、本校保険医が病気

療養となるため、保険医職が空席となります。 つきましては、貴殿にその職を引き受けていただきたいと強く

欲するものであります。 なお、保険医職を辞退される場合は、その理由について直接確認したいため、貴殿宅を

訪問したく思います。 なお、その場合事実確認のため、弁護士並びに警察関係者の同席を……』

 「なに……これ」

 「鷹火車保険医を病院送りにした責任を、身を以て取れと言う事でしょ。 こなければ、今回の事件の責任を問うぞ

と……なんで私が……大体生徒会長にそんな権限ないでしょうに」 

 「『生徒会長』にはなくても『大河内女史』のお父さんにはあるかも……」

 カウンターに突っ伏したエミ。 その横でミレーヌが呟く。

 「……二度あることは……三度目が……そう考えたのかも……」

 「三度目ぇ?」

 エミの問いかけに答えはなかった。


 一週間後、マジステール付属高校の保健室に色気過剰の新保険医が着任、授業中の男子生徒の発病率が

急上昇することになるが、これは別の話である。


<マニキュア2 〜ビースト・ウォーズ〜 終> (2015/07/12)

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