マニキュア2 〜ビースト・ウォーズ〜

36.虎女の参戦


 「ええっ!? 見返りをよこせって!?」

 「あたいは、労働の対価として報酬を要求しているだけや。 筋が通っているやないか」

 虎女と麻美の交渉は難航していた。 虎女が使い魔であれば、魔力を使って使役することも可能だったかもしれないが、

虎女は魔包帯の力で変身してしまった言わば魔法生物なので、麻美が使役することができない。 見かねたエミが割って入る。

 「対価として、その『魔包帯』を譲渡すると言うのでは如何かしら?」

 「『魔包帯』?」

 「貴方が来ているそのレスラータイツよ。 その力で貴方は人、いや虎女になれたのだから」

 虎女は、じろりとエミを睨んだ。

 「だからどうだと? 毛のない猿に化けられるからと言って。 あたいに何のメリットがあるんじゃ?」

 「檻から出て自由に行動できるわ。 少なくともその姿でいる間は」

 「ふん、あたいが虎に戻ってから、わざわざ檻に戻るとでも?」 

 「戻らなければ、狩り立てられて、撃ち殺されるだけよ」

 虎女は、殺気の籠った視線をエミに向ける。

 「脅迫かい、人間」

 エミは黙って翼を広げ、それを見た虎女は驚きの表情を浮かべる。

 「私も人ではないわ。 正体がばれれば、狩り立てられる立場は同じ」

 「……立場が同じ? そうは思えないがのう」

 「今はね。 手を貸してくれれば、貴方が檻から出て自由になる手助けをしてあげるわ。 どう?」

 ここで、聞き役に回っていた麻美がエミに囁きかけた。

 「ちょ、ちょっとエミさん? そんなこと約束して……」

 「虎を一頭、檻から解放するぐらい出来ない話じゃないでしょう第一……」 エミは声を潜めた。 「……今のうちに話をまとめないと

虎に戻ったときに命が危ないわよ」

 麻美が黙るの同時に、考え込んでいた虎女が返事をした。

 「いいだろう。 それで、あたいは何をすればよいの?」

 「最初にお願いしたことよ。 年増女から、私の彼氏をと取り返して」

 「お安い御用だ」

 頼もしい返事をして、虎女が立ち上がった。


 「先輩……」

 呟く学の瞳は、焦点が合っていない。 その頬を愛しそうに撫でる鷹火車保険医の手は青く染まり、鱗が浮き上がっている。

 「可愛イワヨ……」

 彼女の魔の手が、学自身に向かったその時、保健室の扉が弾け飛び、虎女を先頭にして麻美とエミが飛び込んできた。

 「この泥棒猫! 小池君を学を返して!」

 叫んでから室内を見回した麻美は、ベッドに押し倒されている学をすぐに見つけた。

 「小池君! 待っていて!」

 「先輩……早くぅ」

 「もちろんよ! さぁ、彼を助けて!」

 「威勢がいいのは口だけで、後は他力本願かいな。 難儀なこっちゃ」

 ぶつぶつ言いながら、虎女はベッドの上にいる学と鷹火車保険医を見つめた。

 「あー、あの……ドラゴン女に組み敷かれ取る坊ややな」

 「ドラゴン女? そんなのがどこに……」

 虎女に言われ、麻美は鷹火車保険医を観察しなおす。 彼女は瞳が縦に裂け、体が青い鱗で覆われ、白衣の裾から太い

尻尾が覗いている。 そしてなんと、白衣の背中が裂けてコウモリの様な翼が生えているではないか。

 「あ、あんたいったい……」

 麻美が青くなって、くちをパクパクさせている。

 「フン、この程度の変身で何を驚いているの」

 鷹火車保険医がぐいっと胸を逸らす。

 「マニキュアの力を使えば、自分の体を好きなように変えることなど、造作もないでしょうに」

 「胸を大きくするとか、頭を良くするならともかく、なんでそんな姿に……」

 麻美の問いに、鷹火車保険医は嘲笑で応える。

 「クックックッ……散々暴れておいて愚カな事ヲ……」

 鷹火車保険医は、優雅な身のこなしでベッドから降りた。 白衣がはだけ、鱗のに覆われた乳房が覗いている。

 「お前たちが、力づくで乗り込んで来た事は判っていたワ。 それに相応の準備をしていただけのこと」

 バサリと白衣が落ちる。 こうなると、鱗で覆われて羽のある姿は、悪魔か何かにしか見えないが、強そうではあった。 虎女が

厳しい表情で一歩下がる。 

 「さて、イクゾ」

 「待たんかい」

 虎女が右手を上げて、鷹火車保険医を制した。

 「此処でお前さんとあたいが暴れると、そこの坊やが怪我をするやないか」

 「ソレガドウシタ」

 「坊やだけやない、お前さんの手下や、そこらのボンボンも巻き添えをくうで」

 言われて、鷹火車保険医改めドラゴン女は辺りを見回す。 逃げ帰ってきたウサギ娘やハムスター幼女達は、部屋の隅で

おびえているし、精を抜かれたのか、幸せそうな顔で失神している男子学生がゴロゴロしている。

 「フム……ではドウスル?」

 「あたいは、そこの坊やを取り返せれば、ええんや。 どや、その坊やに選ばせるのは」

 「選ばセル?」

 「そう、どっちがええ女かを選ばせるんや。 力勝負よりずっとええやろ」

 「具体的ニハ?」

 「あれや、あれ。 あれしかないやろ」

 「ああ、あれネ」

 そして、ドラゴン女と虎女は、文字通り肉食獣の眼でベッドに横たわる学を凝視した。

 「順番は?」

 「めんどなのはご免や、3Pでええやろ。 んで、坊やが先に入れたがった方が勝ちと言うことで」

 「ヨシ」

 意見が一致した二人は、おもむろにベッドの上に上がる。 二人の掛け合いを唖然として見ていた麻美は、此処で我に返った。

 「なんで!? なんでそうなるの!?」

 「あー、そう来たか」

 エミは首を振って肩をすくめる。

 「まぁ、暴力で対決よりはましじゃない?」

 「良い訳けないでしょ! 泥棒猫が増えちゃったじゃないのぉ!!」

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