マニキュア2 〜ビースト・ウォーズ〜

35.変身『魔包帯』!


夜の学校と問えば、即座に七不思議と言う答えが返ってくるだろう。 定番は、独りでに鳴り出すピアノ、笑う人体模型、幽霊の

映る鏡辺りだろうか。 しかし、虎が追いかけてくる廊下と言うのは、日本ひろしと言えども、此処だけであろう。

 「七不思議なんて、可愛いもんじゃないわよ!」

 エミがまくし立てながら廊下を駆け抜け、その半歩後に麻美が、その数m後に虎が続く。

 「何処にいくの!?」

 「虎のいない所よ!」

 今の二人を陸上部が見たならば、眼の色を変えてスカウトするであろう。 なにしろ疾走する虎と互角のスピードで逃げている

のだから。

 「と、飛べないの!?」

 「天井にぶつかるわ! 第一、今翼を広げたら追いつかれるわよ!」

 「じゃ、屋上に!」

 麻美の提案にエミは頷き、十字路で右に進路を変える。 虎は急な方向転換についてこれずな直進してしまう。 

 グルルル……

 不気味な唸り声を上げると、身をひるがえして二人の後を追う。

 
 「と、虎は?」

 「直進したみたい」

 「今のうちにどこかに隠れて……きたぁ!」

 虎の姿を認めた二人は、大慌てで階段を駆け上がる。

 「お、屋上に出る前に追いつかれるかも。 第一、屋上に出る扉って大抵鍵がかけられていない?」

 「あ……」

 二階の廊下を疾走しながら、二人はプランの欠点に気が付いた。

 「エミさんサキュバスでしょう。 なにか催眠術とか、何か使えないの!?」

 「虎相手に通じるかどうか……それより、ミレーヌから切り札を貰っていたでしょう、『魔包帯』を!」

 「そ、そうか」

 『魔包帯』、それは『呪紋』と呼ばれる紋様で織られた特殊な包帯で、使用者を変貌させる力があった。

 「でも、あれは……最後の手段」

 「今使わなければ、いつ使うの!」

 エミに言われ、麻美は『魔包帯』を取り出し、手に取って眺める。

 「……あの」

 「なによ、使い方が判らないとか?」

 「いえ、全力疾走しながら、どうやって包帯を巻けばいいかと……」

 エミは危うく転びそうになった。 世の中には出来ることと出来ないことがあるが、虎に追いかけられながら自分に包帯を巻く

というのは、多分後者の方と思われた。

グォォォォ……

 虎の唸りがだんだん近くなってくる。

 「……も、もう限界……」 麻美の息が上がりかけている。

 「頑張って!」

 エミが言うとの、麻美が膝をつくのが同時だった。 エミが、麻美を抱き上げる間に、追いついた虎が跳びかかってきた。

 「サキュバス・ウィング!」

 エミが翼を開き、虎の視界を遮った。 目標を見失った虎は、エミの翼を飛び越えて、二人の前に着地する。

 グオゥ!

 しなやかな動きで半回転した虎は、麻美めがけて飛びかかる。

 『!』

 反射的に手を突き出した麻美は、バランスを崩して転倒し、目標を外した虎の爪が麻美をかすめた。

 グオッ!? グオッグオッ!!

 突然、虎が暴れ出した。 その体にもピンク色の帯がくるくると巻きついていく。

 「ああっ『魔包帯』が虎に!?」

 「爪が引っ掛かったの?」

 虎の爪か麻美の手をかすめた時、偶然爪に魔包帯が引っ掛かったらしい。 ほどけた魔包帯が、生き物のように虎に巻き

ついていく。

 「あれ? ひっょとして自動的指導的に巻きつくしかけだったの」

 「みたいね……ってこれ、どうなるの?」

 「えーと、魔女が使うと肉体の強度を上げるパワーアップツールみたいに使えると聞いたけど……動物が使うとどうなるのか……」

 魔包帯に包まれた虎の姿が、獣のそれから人の姿へと変貌し、同時に荒々しい獣の咆哮が、人の声に変わっていく。

 「グルルル……ううう?」

 一声吠えて立ち上がった虎は、はち切れそうな筋肉をピンクのタイツに包んだ虎女に姿を変えていた。

 「あ、雌虎だったのか」

 虎女の太い手足は丸太の様で、身長は2mを超える偉丈夫だった。 一方で胸の辺りは、今にも弾けそうな巨大な乳房が、

窮屈そうにタイツに押し込まれている。 そしてその顔は……

 「た、タイガーマ○ク!?」

 完全に人になりきっていないのか、毛皮の覆面をかぶっているように見え、虎の覆面をかぶった女子プロレスラーの様な姿に

なっている。 虎女は何が起こったのか理解できないらしく、自分の両腕をじっと見つめている。

 「なんじゃぁ? こりゃぁぁぁ!?」

 困惑している虎女を見ていたエミは、コホンと咳ばらいをした。 虎女が、ギロリとエミを見る。

 「宜しければ、彼女が説明します」

 とエミは麻美を前に送り出す。

 「えええええ!?」

 いきなりの事に、麻美がエミを振り返った。

 「ここは貴方がやるべきよ」

 エミは、まっすぐ麻美を見ている。 麻美は、恐る恐る虎女を振り返る。 火の出そうな眼光が目の前にあった。

 「……」

 麻美は、血の気が引いていくのを感じながら、なけなしの勇気を奮い起こし、虎女に説明を始めた。


 その頃、鷹火車保険医は……

 「大猫?」

 馬女とウサギ娘がこくこくと頷き、身振り手振りで『大きな猫』が襲ってきたことを説明する。

 「そんな大きな猫がいる訳が……ははぁ、使い魔の猫を大きくしたのね? 心配ないは、ここに来たらやっつけてあげるから」

 馬女たちにを下がらせると、学の股間に這わせている右手を、微妙に動かす。

 「くっ」

 小さく呻いて学は身を震わせた。 既に何回か絶頂を迎えているはずなのだが、まだ漏らしていない。

 「オカシイ? 耐えられるハズハないのに?」

 鷹火車保険医の呟きに応えるように、学が呟きを漏らした。

 「……先輩……」

 その呟きを耳にした、鷹火車保険医かにんまりと笑う。

 「なるほど……」

 彼女は自分の喉に爪を這わせ、何やら呟き始めた。

 「まなぶ……学……マナブ……」

 ピクリと学の体が震える。

 「先輩……?」

 「ソウヨ、マナブ……イトシイマナブ……」

 「あぁ……」

 学の声に変化が現れた。 安心した様な、そして甘えるような響きが混じっている。

 「クク……モウ、ガマンシナクトイイノヨ……イカセテアゲル……」

 鷹火車保険医の手の中で、学自身がヒクヒクと喜びに蠢き始めた。

 
 一方、麻美たちは。

 「というわけで、年増女があたしの男を寝とろうと」

 「それで? あたいがこうなったのと、何の関係があるんじゃい?」

 説明にはまだ時間がかかりそうだった。

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