マニキュア2 〜ビースト・ウォーズ〜

33.全員集合


 マニキュアのラベルが蛍光灯の明かりを反射し、微妙な色の変化を見せる。 白地に赤い文字だけのラベルのはずが、白から

赤、一瞬青からまた白と、見ていて飽きない。 いや、目が離せないほど、美しい色の乱舞を見せる。

 「……」

 ぼーっと鷹火車保険医の額のラベルを見ていた学は、はっと我に返り、首を強く横に振った。

 「先生、それは……うわっ!?」

 鷹火車保険医が、ベッドに横たわる学の足に手を伸ばしてきた。 冷たい女の手の感触に、太ももが震える。

 「ククッ」

 彼女は喉を鳴らして笑うと、青い爪を立て、ゆっくりと手元に引いた。 爪痕が薄青い線となり、学の太ももに残る。 と、その

線を横着るように、複雑な模様の赤い線が現れる。

 「先輩……」

 赤い線は、学の彼女である『魔女』麻美が、彼に刻みこんだ『呪紋』だ。 彼女はこの紋様を通じて、彼の精気を魔力として

受け取る。 この時魔力を供給する側の体は、見返りとして深い快感と満足感で満たされる。 同時に、この『呪紋』は彼の体を

他の魔女の『呪紋』から守る役目も果たしていた。 

 「先生、やめてください」

 「ククッ、コザカシイコトヲ……」

 鷹火車保険医が爪を深く食い込ませ、指を複雑に動かしながら彼の太ももを這いまわった。 赤い線があちこちで青い線に

切られ、虚しく消えていく。 が、それだけではなかった。

 「えっ!?」

 肌に残った青い線が細い蛇か何かの様に、のたうちながら彼の肌を這い進んでいく。 彼の男性自身を目指して。

 「せ、先生っ。 あ……」

 思わず鷹火車保険医の顔を見た学の眼に、ラベルの光が飛び込んできた。 視線が吸いつけられ、意識が朦朧としてくる。 

それを狙ったかの様に、青い筋の蛇達が、彼の股間を目指して這いずっていく。

 「クククッ……爪の魔力。 悪くないでしょう? 爪で引っ掻かれる毎に、心が削られていくの……削られた分はこうして……」

 ラベルが淡い光を学の眼に浴びせる。 学は、何かが彼の中に入ろうとしているのを感じた。

 「だ、駄目だ……」

 「あらまぁ」

 鷹火車保険医は何がおかしいのか、白い喉を見せて笑う。

 「強情な子ね。 けっこう気持ちいいのに」

 そう言うと、鷹火車保険医は胸元に自分の手を差し入れ、豊かな乳房に青い線を刻みつけた。 そして部屋に備え付けの鏡の

方を見て、自分と学の姿を確かめる。

 「ア……ハァァァン……」

 グラマラスな女体をふり乱し、鷹火車保険医が悶えた。 その姿を見て、学はあることに気が付いた。

 「せ、先生!? まさか、その額の何かに乗っ取られて!?」

 「イイカンシテルネ、坊ヤ」

 鷹火車保険医の顔が、学を見る。 その瞳が縦に割れていた、蛇か何かの様に。

 「デモコレハ、コノ女が望んだ結果でもあるわ。 なにしろ……」

 鷹火車保険医の爪が、男性自身ぎりぎりをかすめ、下腹部に食い込んだ。 熱く深い快感が、爪の先から彼の体に刻み

込まれていく。

 「うっ……」

 「そうそう、トーテッモ、イイキモチニナレルカラ……」

 ちろちろと先の割れた舌を見せつけながら、鷹火車保険医が顔を寄せてきた。 恐ろしいことに、学にはその彼女が魅力的に

見えてきていた。

 「余計な事を、つまらない考えを、全部削り落としてあげる。 そして素直になれるように、キモチイイノデアナタを満たしてあげる」

 ハァハァハァ……

 学は必死で耐えていたが、意識が朦朧として、もう自分が何をしているのか判らなくなってきていた。

 (先輩……)


 「くぉらぁ!! 泥棒猫ぉ!!」

 突然麻美が叫び声を上げた。 上にのっていたハムスター幼女たちが驚いて飛び上がる。

 『猫ぉ!?』

 パタパタと右往左往するハムスター幼女たち。 その隙をついて、エミもくすぐり攻撃から逃げ出した。

 「た、たすかった。 と、どうしたの?」

 エミが麻美に話しかけたが、麻美は鬼の形相で遠くを睨んでおり。 視線の先にはマジステール大学付属高校の保健室が

あった。

 「ふむ? この子の逆鱗に触れる何かがあったのかしら? と、いけない」

 エミの注意が麻美に言っている間に、ハムスター幼女たちが混乱から抜け出して、再び麻美とエミに迫りつつあった。 エミは

麻美を引っ張って、ハムスター幼女たちから距離を取ろうとするが、麻美が動こうとしない。

 「離して!いますぐあの泥棒猫の所にいかなくちゃ!」

 「多勢に無勢だって! 迂回しましょう!」

 と二人がもたもたしているうちに、ハムスター幼女たちのはすぐそこまで来ていた。

 『ニィー!!』

 一斉にとびかかってきたハムスター幼女たち。 が、エミ達に手が届く寸前、目の前に壁が現れた。

 『ニィー!?』

 「な!?」

 ハムスター幼女たちはそれにぶつかり、折り重なってその場に転がった。 一方のエミ達も、驚いたという点では同じだった。 

いきなり目の前に壁が現れたのだから。

 「これは……畳!?」

 唖然とするエミ達の背後から、高らかな笑い声が響き渡った。

 「なははははははは、見たか『忍法畳返し』!!」

 ”ナハハハハハ。 ミタカ、『ニッポータタンデカエシタ』”

 「あんたら……とんずらこいたんじゃなかったの?」

 エミがげっそりした顔で振り向いた。 予想通り、高笑いをする小悪魔ミスティと、使い魔スーチャンが突っ立っている。

 「いやー、そろそろ出番らしいんで戻ってきた」

 ”キター、キター”

 「出番ねぇ……」

 エミは額に手を当てて首を横に振った。 そして、左手を伸ばして、駆けだそうとしていた麻美を捕まえる。

 「離してー!!」

 「落ち着いて、ほら、新手が来た」

 校門から、牛女と馬女、ウサギ娘達が出てくる。

 「総力戦だわ、これは」

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