マニキュア2 〜ビースト・ウォーズ〜

32.学、絶体絶命


「あわわわわ」

 学は急いで窓を閉めようととした。 しかし金髪幼女たちは素早く部屋になだれ込んできた。

 『ニィー♪』

 ワンピース姿の幼女たちが、学にとびかかってきた。

 「むぎゅ」

 押し倒す、というより押しつぶそうとする。 女の子に迫られていると言うより、親戚の子に遊ばれているお兄ちゃんと言った

風情だ。

 「こ、これは先輩の悪戯にしては変だ」

 学は幼女たちを払いのけ、ベッドの上に飛び上がって布団の下に潜り込んだ。 其処に女の子たちが飛び込んできて、ベッドの

上がすごいことになってしまった。

 「やめてくれ!」

 なりが小さい女の子に、暴力を振るうのは気が引ける。 しかし、一人を布団から追い出すと、二人が潜り込んでくる。

 『ヌガシチャエ』

 彼女たちは、学のズボンや上着に手をかけ、引きはがしはじめた。

 「わわわっ」

 あっちを押さえ、こっちを引っ張りして防戦するが、多勢に無勢。 下着姿、パンツ一丁、そして全裸へと剥かれていく。 そして

学の抵抗で、金髪幼女たちも服が脱げて、危ない格好になっていく。

 「このっ」

 学は、彼のシャツをむしり取った幼女を、両手で押し出そうとした。 するとその幼女は彼の腕にしがみつき、彼を見てニィと笑い

かれの腕に体を擦り付けてくる。

 「ニィー、ニィー……」

 「な……」

 妙に艶めかしい声を上げ、金髪の幼女はかれの腕に体を擦りつける。 その体からは、妙に甘ったるい匂いが漂いだし、

布団の中を満たしはじめた。

 「うわっ?……」

 学は、その匂いに覚えがあった。 彼女にして先輩の如月麻美が、彼を誘う時に使う事がある匂い、それは。

 「フェロモンだ」

 慌てて布団をめくり、彼女を引きはがそうとする。 しかし、体が思うように動かない。

 「ううっ……」

 魔女や、使い魔が使うフェロモンは、文字通りの魔性の香りだった。 吸っていると頭がぽーっとして、モノが考えられなく

なってくる。 もっとも、それが不快なわけではなく、むしろ心地よい気分になる。 そして、その状態で女の子と交わると……

 「だ、駄目……」

 ふらふらと頭を揺する学に、眼をうるませた幼女達がしがみついて来た。 甘い香りを身にまとった彼女たちは、その匂いを

すり込むかの様に、学の体に体を擦り付けてくる。

 「ニィー……イッイッイッ……イーッ!」

 一人が一際高く鳴き、コロンと転がる。 学の上でいったらしい。

 「あ……あ……」

 力を失った幼い肢体を見ていると、背徳的などす黒い誘惑が、体の中に湧き上がってくる。 学は、その誘惑に必死で耐えて

いた。 

 (理性を失っちゃだめだ)

 彼女とのデートとは訳が違う。 この状態で誘惑にのってしまえば、正気に戻った時に罪悪感に苛まされることになる。 そして、

誰だか知らないが、この子たちを送り出した誰かの手に落ちてしまうだろう。

 (耐えるんだ……)


 「ニッ?」

 「ニィー……」

 金髪幼女たちは、いくら誘っても学がのってこないので、困惑しはじめた。

 コショコショコショコショ……

 一か所に集まって、なにやら相談している、学の上で。

 「……」

 学は、彼女たちの背中をぼんやりと見やっていた。 なんとか誘惑には耐えたが、彼女たちのフェロモンのせいで頭が働かず、

からだも動かせない。

 「ニッ」

 「ニィー」

 金髪幼女たちは、学のうえからちょこちょこと降り服を着た。 そして全員で学を抱え上げた。

 『ニィー、ニッニッニッニッ……』

 どうやら、学を何処かに運ぼうということらしい。 一人が先に行ってドアを開け、そこを学を抱えた一同が通過して、暗い廊下に

消えて行った……

 ニッ!?

 ドンガラガッテン

 ニギャー!!

 あいたたた!?

 廊下の先に階段があったらしい。


 「そうだ、それで気を失って……」

 「あの子たちにここまで運んでもらったのよ。 偉いわ君は」

 鷹火車保険医は、そう言うと横たわる学にゆっくりと近づいてきた。 濡れたように光る唇を赤い舌が舐める。

 「ご褒美に、私が直々に相手をしてあげる」

 「せ、先生!?」

 「私は大人の女、何の問題もないわ」

 大ありだと心の中で叫び逃げ出そうとするが、フェロモンの力が続いているらしく、体が動かない。 それに、何やら背筋が

ぞくぞくするような蠱惑的な香りが漂ってきた。

 「先生? この匂いは……」

 「いい匂いでしょう……貴方があの子と楽しむ時より、ずっと強力な香りよ……」

 「そ、そんな強いもの、危険だと先輩が言ってました」

 学は、麻美とのデートを回想する。 麻美がフェロモンを使った時のことを。


 ”魔女の力の一つよ。 体からこういう匂いを出して、男の子をその気にさせるの”

 ”大丈夫なんですか、それ?”

 ”加減しているから大丈夫、ね?”

 その後は、よく覚えていない。 いや。夢中になって体を求めあったのと、半端ではない快感の事は覚えているのだが、

あまりに強烈な快感で、他の記憶が消し飛んでしまったのだ。


 「強すぎるフェロモンを使えば、とんでもないことになるって」

 「そうよ」

 鷹火車保険医はにいっと笑った。

 「貴方は快楽の中で私の僕になるのよ、そしてあの子も……」

 ぞっとする様な笑みを浮かべる鷹火車保険医、その額に何かが張り付いているのが見えた。 それは、マニキュアのラベル

だった。

 「さぁ……楽しみなさい」

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