マニキュア2 〜ビースト・ウォーズ〜

27.過去・ミレーヌ誕生


「よく……気が付かれました……」 ミレーヌがため息を漏らす。

 「さっすが、エミちゃ〜ん♪」

 「えみっチャ〜♪」

 ミスティ、スーちゃんがパチパチと手を叩く。 ここは、妖品店「ミレーヌ」、あれから一日が立っていた。 エミと麻美は、学校を

後にしたあと一度別れ、翌日改めてここにやって来たのだ。

 
 「そもそも、『使い魔』ってなんです?」 と麻美が言った。

 「真面目な質問?」 エミは、麻美を正面から見ながら応えた。

 「はい」

 「私も良くは知らないわ。 日本で手に入る本で見た限りでは、『魔女』が使役する小動物で、主としてカエル、猫なんかが

使われるようね」

 「カエルが人に化けるんですか?」 麻美が渋面を作る。

 「いいえ。『使い魔』が人に化けると言う記述はなかったわ、フィクションは別として」

 エミは一度言葉を切ると、スーちゃん、ミスティ、ミレーヌの順に視線を向ける。

 「あの蛇娘や、ウサギ娘……『ビースト・ガールズ』とでも呼びましょうか。 あの娘たちはなんなの?」

 「そうですね……長くなりますが……」

 ミレーヌが話し始めた。


 そもそもの始まりは、ある女悪にあった。 その女悪魔は人間の体を憑代にしてこの世に存在していた。 しかし、人間の体に

悪魔の魂では無理があったのか、日の光を浴びると肌がただれ火傷のような傷を負う。 また手足に力が入らず、自由に

行動できない、全く動けないわけではないが。 幸いと言うか、彼女は人から魂を抜き取る『力』を持っていた。 魂を抜き取られた

人間は、生きた人形のようになり、彼女の命じるままに動くようになる。 その『人形』達に身の回りの世話をさせることで、なんとか

生活することができた。


 「その悪魔さんは要介護者なんですか」

 「要介護悪魔と言うべきね」


 しかし、魂がない『人形』達には細かい指示が必要で、制御が大変だった。 そこで、その女悪魔は魔女ミレーヌに依頼した、

自分に仕える『使い魔』を作れないかと。


 「悪魔が『使い魔』を使うんですか?」

 「そうね、『使い魔』は魔女の配下のはずだものね」


 魔女ミレーヌは、代々続いた魔女の一族の頭領が名乗ってきた名前だった。 魔女とは言っても、薬を調合して、病気を

治したりする『ウィッチ・ドクター』で、別に悪事を生業としていたわけではない。 なにより悪魔信仰だったわけでなく、欧州土着の

自然信仰者だったのだ。


 「魔女を魔女に貶めたのは、『十字架シンボルの団体さん』だったものね」


 その魔女が、なぜ女悪魔と縁を持つようになったかと言えば、あるとき女悪魔が魔女に治療を依頼したからだった。 女悪魔は

人から魂を抜きとるという秘術を始め、人にはない様々な技を行使することができた。 その秘術をミレーヌが研究し、魔法として

完成させることで、ミレーヌもまた人には出来ぬ秘術を駆使することができるようになった。 『魔女ミレーヌ』が誕生した瞬間で

あった。 だが、それは同時に『ミレーヌ』一族が、人の世界から追放されることを意味していた……


 「本物の『魔女』は、人の世界に居場所がなかった、と言うわけね」


 『ミレーヌ』一族には、『滅亡』と言う運命が待ち受けていた。 なにしろ女しかいないのだから。 だが、当時の『魔女ミレーヌ』は

天才だった。 既に女悪魔から入手した秘術を用いて、『魔女ミレーヌ』の後継者を作り出すことに成功していたのだ。 

『魔女ミレーヌ』の後継者、それは人ではなく、ある魔道具だった。 その魔道具は魔女の知識を、魔女以外の人間に伝えるもの

だったのだ。
 「それが、『マニキュア』だったわけね」

 「いえ……そうでは……ないのです」


 初代『魔女ミレーヌ』が作り出した魔道具、それは今の『ミレーヌ』が着用しているローブだった。 ミレーヌが駆使する魔道の

力の一つに『呪紋』がある。 人の肌に紋様を焼き付けその人間の命の力を、魔法に転換する技だ。 初代女ミレーヌは、この

『呪紋』の技術を応用し、魔法の知識を持たない人間に、知識を植え付けるローブを作り出した。


 「ローブ? じゃあ……」

 「はい……このローブがそれです。 言わば……このローブこそが……真の『魔女ミレーヌ』……」


 初代は、『ローブ』を完成させることで、なんとか『魔女ミレーヌ』の知識を次代に引き継がせた。 だが、知識だけを伝授しても

後継者を作ったことにはならない。 それに、強制的に知識を植え付けるローブは、使用者に様々な悪影響を与える、呪いでも

あるかのように。 それに、新たな問題が持ち上がった。


 「二代目『ミレーヌ』は……魔法が使えなくなったのです……」

 『呪紋』は、人の肌に特殊なインクで書きこむ事で発動する。 このインクを作るには、ごく限られた場所に生える薬草が

必要だった。 この薬草が生える草地が、移住してきた『十字架シンボルの団体さん』の農民が連れて来た羊に食い荒らされて

しまい、薬草が絶滅してしまったのだ。 魔法が使えなくなった『二代目ミレーヌ』は途方に暮れた。


 「かくして、魔女は『十字架シンボルの団体さん』に駆逐されたと」

 「はい、その『二代目ミレーヌ』に……女悪魔様が……手を差し伸べてくれたのです……」

 「待って、話の続きの前に……起きんか!! ボケドモ!!」

 エミの怒号で、居眠りをしていたミスティ、スーちゃん、麻美が飛び起きた。 次回へ続く……

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