マニキュア2 〜ビースト・ウォーズ〜

26.推参!使い魔たち


 ダン!

 突然、大きな音共に天井が弾け、大きな穴が開く。 驚いた二人が上を見上げると同時に、黒い影が穴から飛び出してきて、

二人の間に着地した。 影は床の上に着地すると、背後に麻美をかばう位置に素早く移動し、牙を見せて鷹火車保険医を威嚇

する。

 「ナニ!? 猫娘ダト!?」

 「ミミ!?」

 影は、麻美のペットにして使い魔、猫娘のミミだった。 普段はまるでいうことを聞かないミミが、麻美を庇っている。

 「ミミ……」

 感極まって、涙ぐむ麻美にミミが背中を向けたまま言った。

 「これから夕食は、毎日マグロ缶ニャ」

 「……おい」

 「駄目なら帰るニャ」

 「……サバ缶」

 ミミは、くるりと背を向け出口に向かう。

 「一日おきなら……」

 「……まぁいいにゃ」

 交渉成立したようだ。


 「それが貴方の使い魔? 猫だなんて、こだわりもポリシーも感じられないわね」

 鷹火車保険医がふんぞり返って言った。 さっきまで眼が蛇のようになっていたが、今は人の目に戻っている。  

 「人のことが言えるの? 先生こそ、手当たり次第に動物を使い魔にしたりして」

 「私はちゃんと選んでいるのよ、目的を達成するためにね」

 鷹火車保険医が指を鳴らすと、部屋の隅に居たウサギ娘が跳ね跳んで、ミミと対峙する位置に着地した。

 「バニ、その猫を苛めてあげなさい」

 「ぶっ」

 麻美が、失笑する。

 「先生、それで選んでるつもりですか? ミミは肉食動物、ウサギなんか相手に……」

 麻美がセリフを終える前に、鈍い音がしてミミがバニに蹴倒された。 ミミはピーピー泣きながら麻美の影に隠れる。

 「ビー……やられたニャ」

 「こ、このバカ猫〜」

 「バカは貴方よ」 鷹火車保険医が偉そうに指摘する。 「草食動物がおとなしい訳じゃないでしょう。 牛は、象は、サイは

どうなの」

 「ぐ……で、でもウサギでしょう」

 「ウサギは意外に凶暴よ、猫程度なら互角以上に戦えるわ」

 勝ち誇る鷹火車保険医の背後に、別の影が現れる。 ウロコがセクシーな蛇娘のようだ。

 「ちょ、ちょっと……蛇はやめて」

 焦る麻美をじっと見つめたまま、蛇娘が一歩前に出る。

 「こらミミ! ご主人様の危機よ……全く自発的に来るなら、応援を連れてきてくれても」

 「あ、忘れてたニャ」

 ミミがそう言ったとき、天井の穴から2つ目の影が飛び出してきた。 影は黒い翼を広げ、ウサギ娘と蛇娘スレスレを滑空する。

 「えっ!?」

 麻美にはその影がサキュバス・エミだと判った、声をかけようとしたが、パニックで口が回らない。

 「ぬぬ、コウモリ娘……いや娘と言うには老けているか?」

 エミは無言で鷹火車保険医を蹴り飛ばし、白衣をなびかせて吹っ飛んだ鷹火車保険医を牛女が抱き留めた。

 「やった! ありがとう!エ……」

 麻美がエミにお礼を言おうとすると、エミは厳しい表情で首を横に振った。 気圧されて、麻美の言葉が中ぶらりんになる。

 「エ……ええ」

 エミの真意が判らないが、どうも自分の正体を明かしたくないようだ。 その間に、鷹火車保険医が牛女に助けられて態勢を

立て直していた。

 「どうやらあなたを見くびっていた様ね。 前もって使い魔を潜伏させ、しかも主人が危なくなったら助けに出るなんて。 どう

rすればそんなことができるのかしら?」

 「え? いえ、えーと……おほん。 それは、先生より早く魔女になった私ですから、それなりに修行を積みました」

 ハッタリで胸を張る麻美を、ジト目でミミとエミが睨んでいるが、鷹火車保険医はそれに気が付かない。

 「ふん、とぼけるつもり? まぁ、いいわ。 とりあえず今日は返してあげましょう。 とっとと、その使い魔を連れてお帰りなさい」

 麻美はちらりとエミに目をやった。 エミはこちらに背を向けていたが、背後に回した手でOKのサインを出している。

 「そうですか。 では先生、今日は引き取らせていただきます」

 ぺこりと頭を下げると、隠微な宴の間と化した保健室を後にする。 その麻美の後を使い魔のミミと、黙ったままのエミが追う。

 「……」

 三人が消えた後も、鷹火車保険医は厳しい目で扉を見つめていた。


 「危なかったようね」

 エミが口を開いたのは、学校を出て大分たってからだった。

 「ええ……あ、ありがとうございます……ました。 でも、何故?」

 麻美は、エミが保健室で撮った態度の意味が分からなかった。 しかし、何を聞けば良いのか判らなかったため、質問事態

が意味不明になってしまった。 幸いエミが麻美の心情を斟酌してくれる。

 「やたらに喋れば、すぐに私が貴方の使い魔でないと判ってしまうからよ」

 「使い魔のふりをする理由があったんですか?」

 「貴方ねぇ…… あいつに何をされそうになったか判っていたんでしょうね」

 エミが厳しい目線で、麻美に応じ、麻美は気圧されつつ、質問を重ねる。

 「それは……何か良からぬことをして、私を……」

 「あの男の子たちや獣娘同様に、支配下に置こうとしていた。 違う?」

 「それは判っています。 でもそれとエミさんが使い魔のふりをするのが結びつかなくて」

 「鷹火車が貴方を襲おうとしたのは、貴方の実力を見切ったと思ったからよ。 男一人しか作れず、大した力はない魔女だと」

 「ブーッ!!」

 ふくれっ面をする麻美に構わず、エミは続ける。

 「そこにミミが現れた」

 「エミさんが連れてきてくれたんですか?」

 「多少は誘導したけどね、基本的にはあの子の自身の意志よ。 態度はどうあれ、あの子は貴方を主人として認識しているわ」

 「そっか……」

 麻美はちょっとだけ嬉しそうな顔をした。

 「話を戻すと、ミミが現れた事で、あいつは貴方の評価を大きく変えた、いや変えざるを得なかったのよ」

 「は? 使い魔が現れただけで? 何故?」

 エミはしばらくおし黙り、やがて説明を再開する。

 「鷹火車の使い魔たちをどう思う? あの男の子たちは? 感じたことを言葉にしてみて」

 「どうって……なんかいたずらされて……いえ、先生に忠実で……魂を抜かれたような」

 「それよ!!」

 エミが大声を出したので、麻美は驚いて立ち止まった。

 「それが決定的に違うのよ、ミミとあいつの使い魔たちとは」

 「魂が抜かれたような……が?」

 「そう、その通り。 あいつの作った使い魔たちは魂がない、というか自立して動いていないのよ。 いわばロボットなのよ」

 「はぁ?」

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