マニキュア2 〜ビースト・ウォーズ〜
20.急展開
『馬女』と『牛女』が、獲物を捕らえた翌日、『妖品店ミレーヌ』にエミの姿があった。
「……お疲れの様ですね……」
「ご明察……」
黒服姿のエミは、奥のカウンタから少し離れた棚に、体を預けていた。 疲労の色が濃い。
「一晩中、馬を探す羽目になってね……」
「……蛇ではないのですか?……」
詳しい事情を知らないミレーヌが、エミの方にフードを向けた。 しかしエミは、それ以上説明する気はなかった。
「悪魔と使い魔は? おっと、アフロ女も一緒かな?」
「……動物園とやらに……行きました……」
「は?」 エミが目を丸くする。 「また、どーして?」
「……今回の騒動は、蛇や馬……どうも動物が関係しているかと……」
「うん、それで?」
「……夜の街で……視界に頼って異変や動物を探すのは……いい策とは言えないと……ミスティが……」
「そうね……そうかも知れない」
「……それで動物園に行き……スーチャンに……色々な動物の声や匂いを……教えておこうと……」
「なるほど……貴方は? どう思うの?」
「……情報が不足していますから……とりあえず、やっておいても損はないかと……」
「そう……」
腕組みをしたエミは、難しい顔になった。
(当てもなく捜索するのが、これほど難しいなんて……どうしたものかしら?)
カラーン♪
ウェルカムベルが鳴って、麻美が店に入ってきた。
「こんにちわ」
「あら、学校はサボリ?」
「放課後です」
言われたエミが、時計をあらためる。
「やだ、もうこんな時間なの」
「そうよ。 それで、実は相談があるんですけど、例の探索の件で」
「相談?」 エミは首を傾げた。 「試験が近いから、しばらく外れたいとか?」
「いえ、そうじゃなくて」
麻美は鞄から白い封筒を取り出し、エミに渡した。
「なに、これ?」
「生徒会長から、その……エミさんへの依頼です」
エミが目を瞬かせる。
「生徒会長?……なんで? 私はあなたの高校の生徒会長に面識は……あ」
「ありますよね、この間の『サキュバス象』騒ぎで」
しばらく前に、マジステール高校に持ち込まれた『サキュバス象』が、とんでもない事態を引き起こした事件があった。
その時、騒ぎの中心にいたのがマジステール大学付属高校の、大河内マリア生徒会長だった。 そして、エミとミスティと
麻美が、その事件の終息にかかわったのだった。 しかし……
「生徒会長に、羽と尻尾が生えていた時に、互いの顔は見ているわ。 でも、名乗ったわけじゃないわ。 第一、学校側
関係者は『悪魔のインフルエンザ』の後遺症で、事件の記憶を失ったはずでしょ……まさか、記憶が戻ったとか?」
「とにかく、依頼を見てもらえませんか。 私は、内容を聞かされていますけど、読んだ方が良いかと」
「……」
エミは、しばらく封筒を見つめていたが、意を決して封筒の口を開け、中の便箋を取り出して広げた。
「……ええっ!?」
「……」
「……」
エミは最初に声を上げた後、便箋を食い入るように見つめ、何度も視線を走らせた。 それから、大きなため息を一つつく。
「何者なの、あの生徒会長は」
「さぁ、何者なんでしょうね」
「何を呑気な……」
「……探索に支障が出るような依頼ですか?……」
ミレーヌの問いに、エミは首を横に振った。
「逆よ……信じられない事に」
「?」
「何の依頼だと思う!? 『当高の保険職員である鷹火車女史が、実習用、部活用の飼育動物を私的利用して、生徒に
よからぬ真似をしている疑いがあります。 対応していただけないでしょうか。 警察には内密に……』とこうよ!!」
エミが麻美を睨みさけた。
「麻美ぃ!! あんた生徒会長に何をしゃべったの!!」
エミの剣幕に、麻美が怯む。
「あ、あたしは何も言ってないわよ!」
「じゃ、どーして生徒会長が、こんな依頼を貴方経由であたしに出すの!?」
「……おそらく……話しては……いないでしょうね……」
ミレーヌの呟きに、エミがそちらを向く。
「根拠は?」
「……麻美さんが全てを話しても……誰も本気にしないかと……」
「そう……そうね、多分そうだわ。 じゃ、一体どこから情報を得たの?」
エミが麻美を見る。 まだ気分を害しているようだ。
「決めつけて悪かったわ。 ごめんなさい」
エミが麻美に頭を下げる。
「それで、どういう経緯で生徒会長からこの依頼が出たの? 教えてくれる?」
麻美は頷くと、学校での出来事を話し始めた。
【<<】【>>】