マニキュア2 〜ビースト・ウォーズ〜

16.魔の保健室


 鷹火車保険医の奥に、『駒潟野』が到達し、熱く溶けた『鷹火車』がそれを迎え入れた。 

 「う……あ」

 「ア……ハッ」

 熱い感触が、じわじわと快感に転じていく。 2人は思わず動きを止め、その感覚に身を委ねてしまう。

 「ああ……あ」

 「アア……ァァァ」

 じわり、じわりと快感が体に広がっていく。 『駒潟野』は、体を何か別のものに乗っ取られていくかのような錯覚を覚え、眼を

開けた。

 「あ、青い……」

 視界がうすいブルーに染まり、それが次第に濃くなっている様な気がする。 しかし、それはすぐに忘れ去られる。

 グチャリ……

 「ひっ……あっあっ……」

 熱い快感が、『駒潟野』自身からから体の中に流れ染み、彼の意識を快楽の沼に引きずり込んだ。 『鷹火車』がねっとりと

『駒潟野』に纏わりついてきたのだ。 呻き声を上げる彼の意思とは関係なく、『駒潟野』が『鷹火車』の中へと沈んで行く。

 「ああ……ああっ……」


 ビクビクと痙攣する駒潟野。 その体に刻まれた青い筋は、ヒクヒクと脈打ち、彼の体から『何か』を吸い取って、『駒潟野』に、

そして鷹火車保険医の体へと注ぎ込んむ。 その代わりに、青い筋を伝わって熱い『快感』が彼の体へと流れ込む。

 「ひぃ……」

 「クフっ……いいでしょう?」

 鷹火車保険医は、腰を揺り動かしながら呟いた。

 「イヒッ……精気を吸われるのは……アハッ……たまらなく気持ちいい……アウッ……もうじき、君も私の虜……私の使い

魔にしてあげるわ……ヒィ!」

 鷹火車保険医の言うとおりなのだろうか。 熱い呻きをもらす駒潟野の視線は宙をさまよい、体は機械人形のように鷹火車

保険医を攻め立てている。 

 「あっ、熱いわ……いい、モット……モットォ……」

 駒潟野同様に、彼女の秘所からも青い筋が伸び、ヒクヒクと脈打っていた。 その脈動にあわせ、鷹火車保険医の体が激しく

悶える。

 「イヒッ……気持チイイ……モットォォ」

 忘我の表情で悶える鷹火車保険医は、青い爪の生えた手で体を掻きむしった。 爪が走った後には青い筋が残り、ほどなく

その筋も脈打ちだし、彼女をさらなる高みに押し上げる。

 「イヒィィィ……」

 悶えながら次第に青く変わっていく鷹火車保険医の姿。 その彼女と機械仕掛けの人形の様に交わる駒潟野。 その二人の

交わりを、蛇女、馬少女、そして蛇男や兎女が人形の様に立ち尽くして眺めている。 およそこの世のものとは思えぬ光景が

そこにあった。

 ”もっとよ、もっと力を求めるがいい…… お前は魔女になるのよ……”

 魔界と化した保健室に響いてきた声、それを理解できるものはそこにいなかった。

 
 同時刻、マジステール大学を管轄区域に持つ酔天宮署に、奇妙な通報があった。

 「馬? 裸の男が乗った馬? え? 裸馬? 馬はたいがい裸……違う? 鞍をつけていない馬……」

 受付の婦人警官は、黒電話としばらくやりあった後、やや乱暴に電話を置いた。

 「どうした、原くん? なんの通報だった?」

 机の向こうで書類を書いていた私服の警察官が、声をかけてきた。

 「それが、裸、いえ鞍をつけていない馬が、裸の男を乗せて走っていたというんです、川上さん」

 原巡査は、渋い顔で『川上刑事』に応えた。

 「馬?……近くに、乗馬クラブか何かあったか?」

 「大学で馬を飼っているんじゃないんですか? 農学部があるから、の実習用の牛や馬がいるでしょう」

 「農学部の実習農場は、離れた場所に……いや、実習の時だけ連れてきていたかな?」

 「そう、それに学際の時に、地方文化研究会がM県のシャンシャン馬の実演をやって、暴走させたでしょう」

 二人が『馬』について話していると、鑑識の若手が書類を持って部屋に入ってきた。

 「何の話です? 二人して競馬ですか」

 「違う! 街中に裸馬が出たと言う通報があったのよ」

 「馬ですか? さっきの『畳の押し売り』と『猫耳コスプレ少女』の喧嘩の通報よりはありそうな話ですけどねぇ」

 「まぁ、行ってみればわかるんじゃないの?」

 そう言って川上刑事は視線を落とし、書類作成に戻った。 原巡査は川上刑事を睨み付け、通報受付の書類を持って部屋を

出ていく。

 「行かないんで?」

 「僕は捜査課。 この報告書ができたら帰るよ」

 「おやおや…例の『夜の彼女』とデートですか?」

 鑑識課員の冷やかしに、川上刑事の手が止まる。

 「……まさか……」

 ぼそっと呟くと、川上刑事は原巡査を追うように、書類を持って部屋を出て行った。 残された鑑識課員は、肩をすくめると

自分の書類を課長の席に置いた。


 「……?」

 ペントハウスの上で月を見ていたエミは、下の道路を走っていくパトカーに気が付いた。

 (サイレンを鳴らしていないわね。 何かあったのかしら?)

 エミは翼を広げると、音もなく夜空に舞いあがりパトカーを追った。

【<<】【>>】


【マニキュア2 〜ビーストウォーズ〜:目次】

【小説の部屋:トップ】