マニキュア2 〜ビースト・ウォーズ〜

12.籠絡と探索と徘徊と


 「あ……」

 駒潟野は、女の子の中にいた。 正確には彼の分身がだが。

 「動いて」

 女の子が呟くと、彼の腰がその願いに応え、ゆっくりとしたリズムで小さく動き出す。

 「ひ……」

 情けない声が漏れかけて、慌てて口をつぐむ駒潟野。 初めての「女性」は、彼の「男」を優しく抱きしめてくれている。 その

中を彼のモノが、遠慮がちに前後する。

 「……」

 次第に濡れ熱くなる「女」が、彼の「男」を温めていく。

 「暖かい……」

 「キミのも、熱いよ……あん、熱い……」

 女の子が上気した顔で彼を見つめる。 駒潟野も見つめる、彼女を。 いま、彼には彼女しか見えていない。

 「来て、ボクの奥に……」

 乞われるままに「男」が「女」の奥に滑り込む。 一つ、二つ、三つ……

 「君の奥……暖かいよ……ああ」

 「もっと、もっと来て……暖めてあげる」

 彼女の言葉通り、奥からあふれ出す暖かさが、彼のモノに伝わってくる。 未知の感覚に腰が引けそうになるのを、彼女の

足が引き止める。

 「逃げちゃ……ダメ」

 くすっと笑う彼女、その奥から溢れてくる暖かさが彼のモノを包み、腰に溢れる。

 「ひゃ……」

 微かに声が出た。 彼女の温もりが、あとからあとから彼の中に溢れてくる。 甘酸っぱい心地よさに、体が蕩けそうだ。

 とぅあっ……

 ひん……

 2人の体の中を、心地よい衝撃が通り抜け、二人は動きを止めた。 至福の瞬間を留めようかとするかのように。


 トフッ……

 駒潟野は、彼女に体を重ねて力を抜き、高揚の後の気だるさに身を委ねる。

 「うふっ……君はボクのだよ……ボクの言うとおりになるんだ……」

 彼女の囁きは、蕩けきった駒潟野の魂に染み込んでいく。

 「僕はキミのもの……キミ言うとおりにする……」

 うっとりとした口調で、駒潟野は彼女の上で至福の眠りにつく。


 同時刻、麻美は自分の部屋で、飼い猫であるミミを抱いて、机の前に座っていた。

「やるしかない」

 麻美は口の中で呟くと、腕の中にいる黒猫をそっと撫でた。

 ニャーゴ……

 黒猫は眠そうに鳴き、麻美の腕の腕でもがいた。

 「おとなしくなさい……ミミ」

 麻美は、黒猫の毛皮に指を差し入れ、細かく毛をかき分けた。

 ニャゴッ!?

 黒猫がびくりと震え、続いて硬直する。

 ……

 麻美は口の中でモゴモゴと呟きながら、黒猫を撫で続けた。 と、いままで硬直していた黒猫が、いきなり空中に飛び上がり、

ベッドのうえにふわりと着地する。

 ミー……ミー……「ミッ?」

 ベッドの上の黒猫の毛皮の下から、艶めかしい白い肌が現れる。 漆黒の毛皮は、白い肌の上を流れるように移動し、女の

神秘を、母の愛を、覆い隠す。

 「ミッ……ウン……うーん……」

 わずかの間に黒猫ミミは、猫耳猫目の黒猫少女へと化身した。 黒い毛皮が胸や腰を覆い、煽情的な黒い下着の様にも見える。

 「う、うーん……」

 黒猫少女ミミは、しなやかに伸びをし、次に主である麻美を見て一礼し、そして。

 「おやすみなさい」 と言ってベッドにもぐこむ。

 「またんかーい! いきなり寝るな、このボケ猫!」

 麻美は、ミミをベッドから引きずり出した。

 「いいこと、あんたは私の使い魔なの!」

 「うみゅ? いつ、だれが決めたニャ? 5W1Hを正確に述べるニャ」

 「5W1H!? 何処で覚えた、そんな言葉!?」

 「そこの教科書。 もっと勉強かるニャ」

 怒りのあまり、麻美は声が出なくなった。 大きく息を吸い込み、無理やり気持ちを落ち着かせる。

 「ツナ缶1個」

 「依頼は何かニャ」

 ミミはベッドの上に座りなおし、身を乗り出してきた。 麻美はため息をついて、ミミに指示を与える。

 「街でおかしなことが起こっていないか、調べるの」

 「おかしなこと? もっと具体的に述べるニャ」

 「……変なことをしている人、いえ、変な人がいないか探して」

 「変な人、了解ニャ」

 ミミは頷くと、再びベッドに潜り込む。

 「……何してる」

 「今日は寒いニャ。 も少し暖かくなってから……」

 麻美はミミをベッドから蹴りだした。


 「えーっと、異変、いへん、ihen……」

 「イヘン、イヘン……」

 「……」

 一方、ミスティ、スーチャン、ボンバーの三人は、異変をさがして街を徘徊していた、畳を担いだまま。

 「おや、引っ越しかな」

 「粗大ごみの廃棄じゃないの?」

 街を行く人々が時折好奇の視線を向けるが、すぐに興味を失って通り過ぎて行く。 表面上、街は平和だった。

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