マニキュア2 〜ビースト・ウォーズ〜

10.行動開始


 「蛇女?」

 「ソウ、ヘービー」

 ミスティとスーチャンが(正確にはスーチャンだけが)、大穴森少年と蛇女の『絡み』を目撃した翌日の午後。 妖品店『ミレーヌ』

に顔を出した麻美は、二人から目撃談を聞くことになった。

 「猫がうまくいかないんで、蛇を使い魔に仕立てたんじゃな〜いのかなぁ〜」

 「そんなことはしません。 第一、蛇なんて触れないわ、私」

 緊張感を欠くミスティの問いかけを、麻美は強い口調で否定する。

 「威張るほどの事でもないけど」

 二人の背後から、エミが影のように現れて、会話に加わった。

 「蛇女なんて、そうそう見かけるものじゃないわね」

 「しょっちゅう見かけてたまるものですか。 大体、蛇女って何? 鱗のある女の魔物なの?」

 麻美がスーチャンに質問すると、スーチャンは身振り手振りを交えて熱演する。

 「ウロコ、イッパイ。 足無クテ、ヘビノドータイ、胸大デカパイ」

 「ほー、御大層な魔物じゃないの」

 ミスティが、やや気分を害したように言い、エミが言葉尻を捕まえる。

 「貴方は目撃していないの?……ああ、よそ様の家の敷地なので入れなかった訳ね」

 「むー」

 頬を膨らまして不満を表明するミスティに、エミは重ねて質問する。

 「出ていくところは?」

 「見てない」

 「ヘービーニモドッテ、デテイッタ」

 スーチャンの言葉に、エミは少し黙って何かを考えている。

 「ここが、発生源という可能性は?」

 妖品店『ミレーヌ』には、危険な魔法のアイテムが所狭しと並べられている。 蛇女の一匹や二匹、湧いて出ても不思議では

ない。

 「……私の目の届く限りでは……なにも……」

 カウンターの向こうに座っていた、ミレーヌが細い声で答えた。

 「ふむ」

 エミが腕組みをして、考え込む風になった。 しばらく店の中が静かになる。


 「ねぇ……どうしたらいいと思う?」

 麻美が恐る恐る切り出した。

 「直接私たちに関係がなければ……ほっておいた方がいいのかしら?」

 そう言ってから、麻美は順番に視線を巡らしていく。

 「藪蛇って言葉があるけど、この場合、蛇はもう出てきてるのよね」とエミ。

 「洒落のつもり?」

 「違うわ。 予兆とか、怪しいとか言う段階を過ぎて、もう事は動き出していると言いたいのよ」

 「だから?」

 「今は人と場所が限られいても、放置すればエスカレートして、大騒ぎになるかも知れない。 そうなってからだと、事を収める

のが大変になるわ」

 「……正論ですね……ですが……」

 「んー、ミスティが何かする理由があ〜るのかな〜」

 ミスティは悪魔、ミレーヌは魔女であり、町の平和を守る責任はない。

 「そうね、そうよね……」

 麻美は口ごもり、ちらちらとエミを見る。

 「お題目は要らないわ。 私にとって、蛇女の出現が不利益になるかどうかで判断するだけのことよ」

 エミは言い切ると、踵を返して出ていこうとする。

 「エミさん、どこへ?」

 「まず情報収集、次に夜の張り込み。 蛇女がいるなら、この目で確かめる。 どうするかは、それから考えるわ」

 言い捨てると、エミは店の外に出て行った。


 「行っちゃった……」

 「なんだかんだ言っても、やる気満々みたい〜」

 「オー、ヤル木モモノ木山椒ノ木」

 ミスティ、スーチャンコンビはそう言うと、エミの後を追うように、店から出ていこうとする。

 「あの、どちらへ?」

 「修行の続き」

 「シューギョー」

 そう言うと、ピンクの悪魔は、緑色の使い魔を従えて颯爽と出ていった。


 「……貴方は……どうするのですか……」

 ミレーヌの問いかけに、麻美は戸惑う。

 「どうって……」

 「……何もしないのか……それとも……」

 「でも私は……私は何をすれば……」

 ミレーヌは、静かに麻美を見つめている。 麻美はしばらく所在無げに佇んでいたが、やがて意を決したように店を出ていく。

 「何をすれば良いのか判らないけど、やってみる」

 店をでて言った見習魔女の背中を見送りながら、ミレーヌは呟いた。

 「何もしなければ何も変わらない……そう……」

 彼女は身をかがめて、カウンターの下から水晶玉を取り出す。

 「さて……何がおこっているのか……」

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