マニキュア2 〜ビースト・ウォーズ〜

8.二人目の訪問者


 ほっほっほっほっ

 ハッハッハッハッ

 夜の街を大小2つの影が走り抜ける。 『忍者』の修行を始めたミスティとその使い魔スーチャンだ。 と、ミスティが立ち止まり

耳を澄ます。

 オーホッホッホッホッ……

 鷹火車保険医の高笑いらしきものが聞こえてきた。 しばらくミスティはその場にたたずんでいた。

 「ふーん?」

 小首をかしげて辺りを見回し、近くのビルの脇の路地で視線を止めた。 微かな影が、路地の奥に消えていく。

 「ふーん……ふふっ……なかなか、やーるじゃないの。 さーて、どーなるかな……」

 楽しそうに呟くと、スーチャンを伴って影を追った。


 「うーぬ……ダメか」

 机に向かっていた少年が、数学の宿題を放り出して、椅子に背を預ける。 首を横に傾け、自室の窓から見える夜空に視線を

投げた。 

 「数学なんて、この先どこで役に立つんだろうなぁ……」

 そう独り言を呟いてから、一番下の引き出しから参考書を取り出す。 背表紙は『数学U』とあるが、中身は布地が少ない女性

の写真集だった。

 「んー…… このモデルさん、なんか鷹火車先生に似ているよな」

 天井を見上げ、何かを思い出すような素振りをみせた。

 「もったいないよなぁ。 あの先生、結構スタイルいいのに……突然笑いだすもんなぁ、あれさえなけりゃ……まてよ、今日は因

幡が保健室に……」

 彼は大穴森裕也、因幡少年のクラスメイトだ。

 「因幡のやつ、ずっと保健室に行ったきりだったな……よく我慢できたなぁ」

 鷹火車保険医がいる時の保健室は、生徒達にとって鬼門だった。 彼女は、突然甲高い声で笑い出すか、ベッドに居る生徒に

延々と健康についての講義を聞かせるのが常だった。 腹痛で保健室に行った生徒が、頭痛になって帰ってくることもあった。

 
 シュルシュル……

 大穴森少年の耳に何かがすれ合うような音が聞こえた。 かれは、はっとして背後を見る。

 「?」

 背後の床に、紐のようなものが落ちていた。 その端が垂直に立ち上がる。

 「蛇!? どっから入ったんだ」

 彼は、半ば反射的に手に持った本を蛇に投げた。 蛇は本を避けて、ベッドの下に逃げ込む。

 「こいつ!」

 大穴森少年は、床に伏せてベッドの下を覗き込む。 暗くてよく見えないが、蛇が動いているようだ。

 「引きずり出して……いや噛みつかれるな。 棒か何かないか……」

 きょろきょろと部屋の中を見渡す。 と、ベッドの下から蛇が這いだし、彼の足に巻きついた。

 「うわっ!」

 驚いて、足を振る大穴森少年。 しかし蛇は、離れるどころか、一層しっかりと巻きいて来る。 驚いてバランスを崩した大穴森

少年は、ベッドに背中から倒れこんだ。

 「このこの!」

 必死に足にを振るが、蛇は離れない。 そうしているうちに、足がどんどん重くなって動かなくなってきた。

 「な、なんかへんだ。 どんどん重くなってくるみたいだ」

 いぶかしんでいるうちに、蛇は彼の足を上って、ズボンの上で鎌首をもたげてきた。 そこで彼は驚いた、明らかに蛇が大きく

なっている。

 「な、なんだこの蛇!?」

 驚きのあまり、硬直する大穴森少年の目の前で、蛇の頭から下が凄い勢いで膨れ始めた。 ボコボコと不規則な丸みが生まれ

て、形が変わっていく。 それにつれて蛇はどんどん重くなり、大穴森少年を重みでベッドに抑え込む。

 シャー、シャシャー!!

 蛇は牙をむき出し、大穴森少年を威嚇しながらどんどん形を変える。 膨れた丸みがずいと伸び、少年の手を抑え込む。 次の

瞬間、その膨らみに爪が生え、鱗に覆われた手となった。

 「て、手か生えた? うわっ、へ、蛇女!?」

 わずかの間に、蛇の膨れ上がった体は、人の上半身の形を模したものに変わっていた。 鱗でおおわれた緑色の胸に、人間の

女のようなの大きな膨らみがある。 蛇の頭だった部分も、人間の女と言って差し支えない形に変わっている。 もっとも人に似て

いるのはそこまでで、頭髪は全くなく、全身を緑色の鱗が覆っている。 何より下半身は蛇のまま。 しかも、人型になった上半身

に見合った太さになっている。 

 「ひぃ……」

 蛇女の目が大穴森少年をねめつけ、黒い唇の間から二つに分かれた舌がチロチロと覗く。 次の瞬間、蛇女の上体が彼女の腰

を起点にしてぐいっと持ち上がった。 距離が空いたために蛇女の手が彼の手から離れたが、彼の腰の上に蛇女の胴体がずっしり

と乗っているので逃げられない。

 「フ……フフフフフ……」

 蛇女が笑った、じっと大穴森少年見据えたまま。 と、彼女の胴体、人で言えば足の生え際の辺りに縦の溝が現れた。 そこから

透明な滴が滴り……

 バクッ!!

 「!!」

 溝が開き、生々しくも赤い肉が現れた。 テラテラとひかり、舌なめずりをするように蠢くそれは、蛇女の女陰に相違なかった。

 「ククククク……」

 大穴森少年は、蛇女の女陰が獲物を前にして舌なめずりする顎に見えた。 そして、その感想は正しかった。

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