マニキュア2 〜ビースト・ウォーズ〜
5.保健室にて
「因幡。 ……おい、因幡は欠席か?」
「あ……います」
出席を取っていた担任教師は、出席簿から顔をあげて因幡少年を見た。
「顔色がよくないな、風邪か?」
「いえ、大丈夫です」
応えた直後に、因幡少年は大きく咳をする。 担任教師は渋い顔で、因幡少年に保健室に行くように告げた。
「失礼します」
因幡少年は、保健室の扉を引き開けた。
「何? どこか悪いの」 白衣の保険医が背中で応じる。
「はい、なにかだるくって……ここにこないといけないような気がして……」
ぼそぼそと因幡少年が答えると、保険医はくるりと椅子を回してこちらを向いた。
「あれ、鷹火車先生? 今日は、田中先生じゃなかったんですか……」
やや戸惑いながら、因幡少年は言った。 マジステール付属大学高校の保険医は、大学部と兼務で当番制になっている。
保健室の入り口には当番医の名札が掲げてあり、『田中』の名札が入っていた。
「ああ、田中先生はちょっと余所に出かけているのよ。 それより体がだるいって? そこに座りなさい」
「あ、はい」
因幡少年は、鷹火車保険医に言われるままに、彼女の正面にあった椅子に腰かける。
「ふむ、顔色が良くないようね…… アレのやりすぎ?」
「えっ!? ……な、なんのことですか。 そ、そんなんじゃありません」
因幡少年は、青くなったり、赤くなったりしながら答えた。 因幡少年は高校一年生、大人の女性から男性生理の事を言わ
れて平然としていられるほど、大人ではなかった。
「あら、初心だこと」
鷹火車保険医は、ちょっと笑うとカルテに何か書きつけた。 そして、机の下からバスケットを取り出して机の上に置いた。
「なんです、それ?」
鷹火車保険医は因幡少年の問いには答えず、バスケットを開けると、中から一匹の黒ウサギを取り出した。
「ウサギ?……先生?」
因幡少年は、怪訝な顔で鷹火車保険医を見た。 そして何かを思い出すかのように、黒ウサギを見つめる。
「……」
真剣な顔でウサギとにらめっこを始めた因幡少年を見て、鷹火車保険医は微かに笑った。 そして、ウサギの背中を撫で
ながら、因幡少年に話しかける。
「この子に、見覚えない?」
「見覚え?」
因幡少年は、一度、鷹火車保険医に視線を移し、ウサギに視線を戻した。 ウサギの方も、因幡少年を見つめている。
「こうすればどう?」
鷹火車保険医が言うと、ウサギがピクリと身を震わせた。
ミー!…… ミッミッミッ!!
奇妙な声を上げたウサギが、鷹火車保険医の腕から滑り落ち、床に這いつくばる。 その体がヒクヒクと震えながら形を
変え始めた。
「えっ?」
黒い毛皮の中から、白く艶めかしい足と手が伸びて来る。 大きな耳を立てた頭がずいと伸び、白いうなじが因幡少年の
目にさらされる。
「えええっ!?」
さっきまで黒ウサギだったものが、みるみる姿を変え、一分と経たぬうちに黒い毛皮のバニーガールに化けてしまった。
「……」
あまりの事に、因幡少年は呆然として声も出せずにいた。
「この子なら、判るでしょう?」
鷹火車保険医がそう言うと、床に突っ伏していた黒バニーが、立ち上がり、大きく伸びをした。
「ンー……アハッ♪」
黒バニーは、因幡少年を見つけると、嬉しそうに抱きついてきた。
「き、君は……むわっ」
因幡少年は、毛皮のブラジャーで包まれた胸に顔を埋められ、眼を白黒させている。
「凄いでしょう。 この子は、学校のウサギ小屋で飼われていた黒ウサギだったのよ」
「そ、そんなばかな……わわっ」
黒バニーは、因幡少年に抱きつき体を摺り寄せている。
「ネェ……キモチイイコト……シテェ……」
「な、何を……」
赤くなった因幡少年の脳裏に。昨夜のことが思い出された。
(そうだ、昨夜この子が……どうして忘れていたんだろう……)
因幡少年が、考えている間に、黒バニーは戦闘態勢を整えつつあった。 ほっそりした指が、学生服のズボンを弄って、
チャックの中のものを引きずり出そうとしている。
「せ、先生。 この子を何とかしてください!」
慌てた因幡少年が、鷹火車保険医理法を向き、凍りついた。
「……」
鷹火車保険医の目が青く光っている。 因幡少年は、その瞳から目が離せなくなった。 思考が止まり、現実感が乏しくなった。
どこか遠いところから、鷹火車保険医の声が響いてくる。
”気持ちいいこと……したいでしょう……”
「き、気持ち……いいこと……」
”この子は……欲しがっている……”
「……欲しがって……」
”この子は動物……他に何もいらない……ほら……君を欲しがっている……君を……”
「ぼくを……あぅっ!」
熱い滑りが、因幡少年を包み込んだ。 黒バニーが、固くなった因幡自身を自分の中に迎え入れたのだ。 女の、いや雌の
温もりと滑りが、男性自身に心地よく纏わりつく。
「あ、熱い……熱くてヌルヌル……」
「キューン……キューン……」
黒バニーは甘えた声を上げながら、因幡少年の腰の上で腰を揺すっている。 甘い感覚が、思考の止まった因幡少年の中に
染み透っていく。
「ああ……」
”ほら……欲しいでしょ……感じるままに……心のままに……さぁ……”
「ああっ……」
因幡少年は、頷きながら黒バニーを抱きしめ、腰を揺すりだした。
「キュ、キューン……♪」
黒バニーは、喜びの声を上げて因幡少年に体を擦り付けた。 むせるような雌の匂いが、因幡少年を包み込む。
「……」
因幡少年は、熱い息を弾ませながら、求めるままに黒バニーを押し倒した。
「ふふ、ゆっくり楽しみなさい。 獣の交わりを」
冷たく笑いながら、鷹火車保険医は保健室の外に一枚の札を掲げ、扉を閉めた。 そこにはこう書かれていた。
『治療中につき立ち入りを控えてください』
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