マニキュア2 〜ビースト・ウォーズ〜

3.籠絡


 因幡少年は、黒バニーの胸に顔を埋めた。 バニースーツは、フワフワした毛皮で出来ていて、因幡少年の顔を優しく擽る。

 「……」

 毛皮の感触を味わうように、因幡少年は顔をしきりに擦りつけ、その動きで、毛皮の下の黒バニーの胸がタプタプと波打つ。

 「ア……」

 黒バニーは微かな喘ぎを漏らし、仰け反って白い喉をみせた。 そして、足をゆっくりと少年の体に絡ませ、自分のほうに引き

寄せた。

 「……」

 因幡少年の腰が黒バニーに重なった。 黒バニーは、もどかしそうに腰を因幡少年に擦り付け、彼の寝巻きを汚す。 その

動きで、因幡少年の寝巻きと下着がずり落さがり始めた。

 ヌリュッ

 「あっ……」

 熱く濡れたものが、彼の男性自身に擦り付けられた。 何度も、何度も……

 「……アン……」

 甘い香りがさらに濃くなる。 因幡少年は、頭が次第にぼーっとして、夢の中にいるような不思議な気分になってきた。

 「ネェ……」

 黒バニーは、因幡少年の手を捕まえて自分自身に導いた。 少年の指が熱く濡れた花びらを感じると、指がひとりでに花を

愛で始めた。

 「ア……」

 黒バニーは一声喘ぐと、少年の頭をかき抱き、腰を彼に絡みつかせた。 そのまま、ぎゅっと抱きしめた。 少年の若い肉体が、

黒バニーの体に半ば埋もれる。

 「ウフン……?」

 そのまま本番に進みかけた黒バニーは、少年の指が自分の秘花を弄るのみなのに気がついた。 因幡少年の顔を見ると、

トロンとした目つきで夢心地に浸っている……が、その先に進もうとしない。

 「ネェ?……」

 「うん……はぁ……」

 どうやら因幡少年は経験がないので、女の子を抱きしめるだけで満足し、その先へ進む気が無いようだ。

 「ムー」

 黒バニーは、ぷっと頬を膨らませて不満を表明した。


 おーほほほほほ……

 風に乗って、微かな高笑いの声が聞こえてきた。 どうやら、鷹火車京子がまだ笑いだしたらしい。 

 「ミッ!?」

 黒バニーのウサギ耳がピンと立った。 彼女は、顔を上げると何やら聞き耳を立てている。

 「……ミッ」

 黒バニーは微かに頷くと、因幡少年自分の腰に自分の手を指しのべ、弄り始めた。

 「っ……」

 因幡少年の指が止まり、焦点を失った瞳に微かな興奮の色が現れ始めた。 黒バニーは、因幡少年の反応を確かめると、

耳元に囁き始めた。

 「ネェ……モット、気持チヨク、ナリタクナァイ?……」

 甘ったるい声が、夢心地の少年の頭に蜜のように絡みつく。

 「……気持ちよく……?」

 「ソウ……気持チヨク……気持チヨーク……ナリタクナァイ?……」

 因幡少年は、静かに頷いた。

 「……なりたい……気持ちよく……なりたい……」

 「ジャア……オイデ……保健室ニ……オイデ……保健室ニ……」

 「……保健室?……」

 陶然とした表情の因幡少年に、黒バニーが囁く。

 「……オイデ……保健室ニ……オイデ……放課後……気持チイイコト……シテアゲル……気持チイイコト……シテアゲル……」

 黒バニーは囁きながら、因幡少年をベッドに横たえる。 そして、少年自身を優しく撫でながら繰り返す。

 「……オイデ……保健室ニ……オイデ……放課後……」

 「……行きます……保健室に……行きます……」

 因幡少年は、黒バニーの言葉をしばらく繰り返していたが、やがて静かに寝息を立て始めた。 黒バニーは、しばらく因幡

少年の寝顔を眺めていたが、ついと立ちあがると窓から出て行こうとした。 が、直前で立ち止まって振り返り、ベッドの脇に

戻ると少年の唇に自分の唇を重ねた。

 「……」

 「……」

 そして、黒バニーは因幡少年の部屋を後にした。


 「おーっほっほっほっほっ…… けほっけほっ」

 屋上で笑っていた鷹火車京子は、ニ三度咳をすると、のど飴を取り出して口の中に放り込んだ。 そして、何かを待つように

夜の街に視線を巡らす。

 ……トッ

 微かな音がして、鷹火車京子の前に、あの黒バニーが現れた。 階段を上がってきたのではなく、屋上に飛び上がって来たのだ

 「首尾は?」 鷹火車が聞いた。

 「シュビ?」

 黒バニーが首を捻り、屋上に沈黙が流れる。

 「……おとこよ、男! 捕まえたの、言うとおりにしたの?」

 「オトコ……アァ、オス。 アンタモ、スキヤネェ」

 ケタケタ笑う黒バニーに、鷹火車は額を押さえて呻く。

 「全く、使い魔ってこんなにアホなものなの?」

 ”それは貴方の力量の問題です。 『部下が仕事が出来ないのは、上司がアホだから』と言うではないですか”

 鷹火車の独り言に答えるかのように、どこからともなく不思議な声が響いてきた。 姿は見えないが、鷹火車は声の主を

知っているのか、驚くそぶりも見せない。

 「やっかましい! まぁ、いいわ。 とりあえずこれで男が一人は確保できた。 後は数を増やしていけば……ふふ……

ふふふふふふ、おっーほっほっほっほっ」

 ぶつぶつと何か言っていた鷹火車は、やがて高笑いを始めた。 ケタケタ笑っていた黒バニーは、鷹火車がいきなり笑い

出したので、驚いて目を丸くしている。 

 ”……人選を誤ったかも知れませんね……”

 呆れた様に呟く謎の声、それに応じる者は屋上にはいなかった。


 「……ウサギさん……」

 そして何も知らぬ因幡少年は、甘い夢の中にいた。

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