マニキュア

20.『ミストレス』の誤算


『ミストレス』と『ミレーヌ』はアンジェリカの変貌を吟味していた。
(…『爪』で淫魔化するのと、どこが違うのですか?…)
「『爪』で変化した時は、『アレ』に操られているだけよ…それに『爪』の魔力を使い切れば人に戻ってしまう。 あの娘は違う…『爪』に魔力を与えているのは、いまやあの子自身…」
(ということは…)
「もう『人』ではない…このまま体は『魔女』として成長していく…それにつれて、性格も変わっていくわ…人としての自覚が薄れていくから、人間に魔力を使う事に躊躇いがなくなっていくわ…」
(…なるほど…操り人形ではなく、独立した『魔女』に…)
「ええ、今は駆け出しというところかしら…うまく育っていけば、頼もしい味方になる…と思うのだけど…」
(…けど?…)
「思ったより…性格の変貌が速いし、感情の起伏が激しいわ…あの男の裏切りに対して怒っているせいかしら?…」
(…心はままならぬもの…ですが、危険では?…)
「もう少し様子を見ましょう…どのみち、最後までやらせないと止まらないでしょうし…」

納屋の中で、アンジェリカはドレスの裾をまくりショーツに指を入れ、自分の下腹に『爪』で複雑な赤い文様を書き上げた。
そして、横たわるアレンに跨る。
『アンジェリカ…』
アレンの声に悔しさが混じる…自分は裸で、アンジェリカは下着こそ脱いだものの、服を着たまま…屈辱を感じる…
『アレン…さあ…』
そう言って、アンジェリカはアレンのイチモツを自分の中に導く…
フニャ…
亀頭が、柔らかな下の唇の接吻を受け、そして…
ビチャ…ズル…ズル…ズル…
『……』アレンの顔が引きつり、唇がわななく…アンジェリカの女性自身が、イチモツを咥え、すすり込む様に引き込んでいくのがわかる…
(悪魔…僕は…悪魔に呑まれていく…)
見えないだけに、余計な想像が働く…自分どうなるのか…ひたすら怖かった…

ヌチャ…ヌチャ…
『うぅぅ…』
アンジェリカは、アレンのイチモツを呑み込み続ける…濡れた肉襞の感触が、涎に溢れた口を連想させてかえって恐ろしい。
ベチャ…ジュポ…
『あ…そこまで…くぅぅぅぅ…』
アンジェリカは、根元まで…睾丸すら呑む込んでしまった。 亀頭が子宮にはまり込んでいるのがわかる…
トク…トク…トク…
アンジェリカの鼓動がアレンのイチモツを微かに揺する…一瞬の静寂が訪れた…

『アレン…浮気の罰よ…おしおき…』
アンジェリカはそう言うと、アレンのわき腹に手を伸ばす…
『何を…うひゃ!…あひゃゃゃゃ…、やめて?…いひひひひ…た、助けて…』
アンジェリカは、わき腹をくすぐる…くすぐりながら、アレンの体に赤い文様を刻み込んでいく…
アンジェリカの爪は、わき腹から、わきの下、胸と敏感な所を探しつつ移動する…
『いひひひひ…く、苦しい…どゃははははは…た、助け…でにゃはははは…何か、変だ…ひぃぃぃ…』
アレンは苦しい息の中、恐ろしいことに気がつく。 『爪』は移動して行くのに、くすぐったさが残る、いや、どんどんひどくなる…
『気持ちいい?…うふふふ…もう止まらない…からだ中、余すところなくくすぐられるのよ…でも、体を動かせない…堪能して…』
『ぎゃははは…た、たふけ…げゃははは…ぐばっ…ぐばっ…』
無数の見えない爪が舞う…動かぬ体、それでも身をよじらずにはいられない…

泣き叫ぶ…いや笑い叫ぶアレン…その上に跨り、微笑むアンジェリカ…
『…楽しそう…うふふ…私も嬉しい、喜んでもらえて…あら?…』
アンジェリカの目が、アレンの変化を捉える…体は動いていないのに、透明な手や足がもがいて体の外に出てくる…『爪』から逃れようと幽体離脱を始めたらしい…
『器用な人…少し早いけど…次に進みましょうか』
アンジジェリカは、下腹の文様の部分に両手を宛がい、何かを念じる…両目が赤く輝き…激しく瞬く…
そして、腰を小さく揺する…揺する…揺する…
『さあ…アレン…おいで…私の中に…魂だけになって…そこはくすぐったいでしょう…ここに逃げておいで…』

アレンは、もがいているうちに、体が楽になったのに気がつく…が、今度は粘る水の中にいる自分を見つける。
視界が利かない。
アレンは本能的に、水面を目指した…
ズボリ…頭が水面に…一気に体が抜けた…

『はぁはぁはぁ…どうなったんだ…』
呼吸を整えて辺りを見回す…不思議な場所…暗いような明るいような…彼は黒い沼の水面に座っている…
『アレン…』
ぼうっとした、神々しい姿のアンジェリカが浮かび上がる…
『アンジェリカ…』
『ここは私の中よ…アレン…さあ…』アンジェリカが手を差し伸べる…

ズル…ズル…ズル…
『うわっ!…』
沼の中から人型が立ち上がる…その顔は…アンジェリカ…
ベタリ…ズルリ…
『あぁぁ…やめろ…うぅぅぅ…気色悪い…吸う…あぁぁぁ…』
泥「アンジェリカ」達はアレンに群がっていく、性器をしゃぶり、後ろの穴を犯し、口に下を差し込んでくる…
『ぐぼぁ…ど…うぁぁ…』
もがくアレン…今度は攻められているのではない、奉仕されているのだ、アレンにその気があれば逃げられるはずだが…
『あぁ…あぁ…いくぅ…』
ドクドクドク…確かに射精感があった…『アンジェリカ』の口に出してしまった…
『うぅぅ…気持ちいい…口に出すのが…こんなにいいなんて…』
アレンは性の快楽と共に…背徳の喜びを覚える…
ズブリ…アレンの足が沈む…踝のあたりまで沼にもぐる…
『あぁ…沈む…』
力のない声…そこには絶望だけではない…何かを期待する響きが現れていた…

『アレン…そこは魔力の沼…たとえようのない快楽の地獄…溺れてはいけない…さあ…私の手を取って…』
白いアンジェリカが、宙からアレンに手を差し伸べる…救いの天使の様に…
『アンジェリカ…』
『負けてはいけない…この手を取って…そうすれば私の呪いも解ける…』
白いアンジェリカの瞳は澄んでいる…声は透き通り救いを約束している…
対して、泥アンジェリカ達の目は…一応の形はあるが、べっとりと濁った泥…しゃべることもできない…だが、粘り濡れるその感触は…この世のものではない堕落と快楽を約束している…

白いアンジェリカに、手を伸ばすアレン…そのアレンの男性自身を、陰嚢を、アナルすら、泥アンジェリカ達が呑み込み、咥え、嘗め回す…ゾゾゾゾ…と濡れた音と快楽の響きがアレンを振るわせる…
おぞましく不気味で妖しい、魔性のSEXに、アレンの下半身はわななき続け…その瞳が濁っていく…

『さあ…ふたりで人の世界に戻りましょう…神のもとで清らかで…つましい普通の暮らしに…』
白アンジェリカが言葉で誘う…清潔な普通の暮らしに…
ゾゾゾ…ヌルヌル…ペチャペチャ…
泥アンジェリカ達は行為で誘う…汚濁に満ちた、爛れた快楽の世界に…
『ああ…僕は…あぁぁぁぁ…』

アレンは、泥アンジェリカの一人を抱き上げ、激しく口付けを交わす…
ドロッとした感触…腕の中で泥アンジェリカは形を変える…アレンは泥アンジェリカの女陰を激しく吸っていた…泥アンジェリカの足が、アレンの頭を挟み込む…
ゾゾゾゾ…ゾゾゾゾ…妖しい吸引音が響く…
泥アンジェリカ達が、嬉しげにアレンに抱きつき…泥の塊に埋め込んでいく…

どこからか…声が響いてくる…白でも泥でもない『アンジェリカ』の声…
『アレン…自分で選んだ…あなたの魂は呪縛された…例え肉の衣が朽ち果てようとも…あなたの魂は私の物…』
アレンにそれが聞こえていたろうか…夢中で泥アンジェリカ達と交わるアレン…ズブスブと泥の沼に沈んでいく…それを気にする様子もない…
そして、全てが消えていく…アレンも…白アンジェリカも…泥アンジェリカ達も…

納屋の中、アンジェリカはアレンの上から降りた…
『…ばかなアレン…』そう呟いたアンジェリカの顔には憂いの表情があった…心のどこかで、アレンが自分を救ってくれることを期待していたのだろうか…
アレンの目はドロンと曇り、涎を流している…その魂は、快楽の魔の沼をさまよっているのだろう…

(…『ミストレス』…)
「…可哀想な娘…」
(…どうされます?…)
「…あれほどの力…無駄にすることもないでしょう…」
そう言うと、『ミストレス』は手を水晶球にかざし、念を送る…
「アンジェリカ…戻っておいで…ここに…私が慰めて…?…」
『ミストレス』が首を傾げる…
(どうしました?…)
「手ごたえが?…ムン!…」気合を込める、念を強めたようだ…
水晶球の中…アンジェリカが振り向く…こちらを睨みつけ、目が赤く輝く。
「!」
アンジェリカの体から、黒いドレスがはじけ飛ぶ。 同時に水晶球が…ビシッ!…割れてしまった…
(…『ミストレス』!…)
『ミストレス』は手を押さえて低く呻いていた…
「…迂闊でした…魔力を扱える者が『呪縛』できるはずもなかったのに…」
(…大丈夫ですか…『呪縛』が破れたのなら、術者に戻って…)
「昨日や今日、呪縛の技を覚えた訳ではありませんよ…少し、火傷しただけです…」
(追いますか…)
『ミストレス』は手を振って、苦笑する…
「ここから動けるぐらいなら、最初からこんな事はしないわ…もういいでしょう…私も飽きたわ…」
(おやおや…でも『マニキュア』は?…)
「私には不要…あれは失敗作…」

………………………………………

そして、今…『ミレーヌ』は意識を現実に引き戻す。
(あれから私は…そして今は…)
思い出したように、水晶球に注意を移す…
(おや…)

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