マニキュア

19.『ミストレス』と『ミレーヌ』


「やめてぇ…おねがい…」懇願する隆…
しかし、麻美はやめない…「ふんふ〜ん…」鼻歌混じりで、隆の男性自身を弄ぶ。
麻美は楽しんでいた…いつも小生意気な弟が、指一本で思いのままになる…楽しくないはずが無い。

だが、30分前の麻美が今の自分を見たらどう思うだろうか。
…助けようとしたのではなかったのか…『マニキュアの魔力』を支配下に置いたはずではなかったのか…

−−−同時刻 妖品店『ミレーヌ』 店内−−−

招かれない者には、見る事すらできない謎の店…その店の奥から仄かな光がさしている。
麻美が『マニキュア』を受け取った時そのままに、カウンターの向こうに黒いマントの女性が座っている。
いや、一つ違う…カウンタの上に、微かに光る水晶球が置かれている…光はそこからさしている。

フードを傾け、水晶球を覗き込む風…そこには、麻美の、いや隆の部屋の様子が映し出されている。
どうやら、音も聞こえているらしい。

彼女は、麻美を監視していたのだろうか…それならば、学がここに向かったのも知っているはずだが…
彼女が呟く。
「全ては成り行きのままに…私はそれを見届ける事しかできない…」
『ミレーヌ』が記憶を辿る…人が持ち得ぬはずの、古い古い記憶を…

………………………………………

闇の中…艶のある女の声が響く…年齢の見当がつけられないが、人を仕うことに慣れているような感じがある…
「…何とか生き延びたようね…さて…うまく目覚めるかどうか…」

暗い部屋…部屋だろうか…妙な圧迫感があり、かすかに靄っている…
そこに豪華な椅子と机があり、一人の女が座っていた…
漆黒のナイトドレスを纏った女は、椅子に体を預け、机の上に置かれた水晶球を見つめていた…
女は、水晶球に映される光景を見て、先ほどの言葉を口にしていた…

女の傍らに、何かの気配がわだかまる…そちらに目をやれば、黒いフードとマントの人型が佇んでいる…
(…『ミストレス』…) 声なき声が響く…こちらも同じような年齢不詳の女の声…比べれば、少し若い響きを感じるが…
「『ミレーヌ』?…呼ばないのに来るとは、珍しいこと…」心なしか、声にからかいの響きがある…
(…興味を引かれまして…何をしておいでで?…)
『ミストレス』は、水晶球を示す…
「…先日、村娘が迷い込んできたから、土産に持たせてあげたの…『アレ』を『マニキュア』に付けて…」
(…おや…) 声に苦笑するような響きが加わる…

『ミストレス』…彼女が『マニキュア』を作りし者。
人の心を惑わし、魂を食らって生き続ける魔物…されど、無限の命を持っている訳ではない…
(大丈夫ですか?…少し派手に動きすぎでは?…) 
「心配?…私は現在を好きに生きるだけ…どうせ過去も、未来もない…」 声に孤独が感じ取れる…
(…) 『ミレーヌ』は答えない…ただ、フードが微かに揺れたよう…

『ミストレス』が、水晶球に注意を移す…つられて『ミレーヌ』も、水晶球を覗きこむ…
「…そろそろ目覚めるはず…」

粗末な作りの部屋が見える…
納屋だろうか、地面がむき出しの床に藁が敷かれ、若い女が横たえられている。
女は目を閉じて、身動き一つしない。 

女が周りの風景から浮いている…服が上等すぎるのだ…黒一色で、飾り気もないのに気品がある…
そして、服から覗いている肌の色も黒い…だが、顔立ちは黒人のそれではない…よく見ると、肌に赤い縞模様が絡みつくように走っている。

娘の傍らに、若い男が座り、その手を摩っている。
『…アンジェリカ、きみのせいじゃない…君を辱めた鼻つまみ者のダンカンが、老人になって死んだのは、君に取り付いた悪魔の仕業だ…』
どうやら、娘の名は「アンジェリカ」、男は恋人か許婚といった風だ。

よく見ると、娘の胸が上下している。 生きているようだ…
『ミレーヌ』は大体の状況を把握した。
(…『マニキュア』の力で、精気を魔力に変えて吸わせた…でも、娘の魂が拒絶した…だから肌が黒く…)
『ミストレス』が頷く。
「そう…でもここからが違う…」

『ミストレス』がそこまで言った時、「アンジェリカ」に変化が起こった。 体の色がみるみる薄くなる…
赤い縞も消え、健康そうに日焼けした皮膚の色に変わる…顔の色が戻ると、普通の村娘にしか見えなくなった。
そうなると、着ている物が上等過ぎて不似合いだった…

(…あの服も差し上げたのですか?…)『ミレーヌ』が確認するように言う。
「あの娘には、戻ってきてもらわねばなりませんから。 幸い大事に着てくれているようですね…」
『ミストレス』の操る魔法の一つに、服飾品に『呪』を込め、身に着けた者を操る技があった。
『ミレーヌ』が首をかしげる。
(…それなら、最初から『服』で操ればよかったのでは?…)
「自由を奪うだけならね…進んで私に仕え、かつ護衛を勤めてくれる『魔女』が欲しいのよ…」

納屋の中では男が喜びに顔を輝かせていた。
肌の色が戻ると同時に、娘が目をさましたのだ。
『アンジェリカ!…アンジェリカ…よかった…神様が助けてくれたんだ…』
『…私…どうしたの…ああ、アレン…』
アンジェリカが、男の名を呼ぶ。
『覚えていないのか…その方がいい…大丈夫、君は悪魔に呪われていたんだ。 呪いは解けた。 もうみんなに追われることもない。』

(…ああ…あの娘が誰かを吸い殺して、村の者達に追われて隠れていたのですね…)
「ええ…精力と性欲だけは溢れんばかりの男を一人…『マニキュア』の力で淫らになったあの子を襲って…自業自得よ…」

俯いて額を押さえるアンジェリカ…アレンが優しく抱きしめる…
芝居の舞台であれば、拍手喝采で幕が下りるところだろう。

アンジェリカを抱きしめたまま、アレンはしゃべり続ける。
『アンジェリカ…さぁ教会へ行こう…神父様に悪魔が離れたことを認めてもらうんだ。』
『悪魔…あれは悪魔の声だったの…あの泥のような化け物達も…』
『大丈夫だ、もう怖いものはいない。』
『ええ…』
『もう悪魔の声も聞こえない。』
『ええ…』
『そうだ、君は悪魔の物じゃない! 僕のアンジェリカだ。 そうだろう。』
『いえ…』
『…え?』
『いえ…私はあなたの物じゃない…あなたが私の物…うふ…うふふふふふふ…』
アンジェリカがゆっくり顔を上げる…アンジェリカの瞳が赤く光る…顔に、胸元に、首に絡めた腕に、赤い縞が走る…
『ア…アンジェリカ…あ、悪魔が…』
『いいえ…悪魔はいない…私はアンジェリカよ…』
『ち、違う!…ひっ?…ひぃぃぃ?…』

アンジェリカの『爪』…赤く光るそれがアレンの首筋に食い込み、赤い掻き痕を残して赤い爪が滑っていく…
アレンの体に異様な衝撃が走り、アンジェリカを抱きしめたまま仰け反る…
『…あ…足が動かない…た…助け…』
『言ったでしょう…あなたは私の物…愛してるアレン…愛してあげる…いっぱい…』
『何を…あぁぁぁ』 
ビリビリビリ…
立ち尽くすアレン…その上着をアンジェリカが引き裂いていく…逞しい胸板に顔を埋め、愛しげに撫で回す…
『アレン…私のアレン…』呟きながら、アンジェリカはアレンの体に舌を這わせつつ、目的地に向かって下降して行く…

アレンのズボンを易々と引き破るアンジェリカ…それを見て、アレンの顔に恐怖の色が混じるが、彼には何もできない…
『力が足りない…精気を頂戴…』そう言って、アレンの男根を口に含む…
『だめだ…だめ…』
アンジェリカは縮こまった男の精の袋に5本の『爪』を宛がう…『もご…(いっぱい出すのよ…うふふふふふ…)』
『ひぃぃぃぃ…』
『爪』の先から走る痺れにも似た感覚…アレンの精気が…『爪』の力で魔力に変わる、アレンの陰嚢は魔力の酒袋と化し、妖しい液体に漬された睾丸は縮み、跳ね、この世の物とは思えぬ快感をその持ち主に送り出す…
『うぁぁぁぁ…ドロドロが…溜まる…』 
アレンは長く耐える必要はなかった…
アンジェリカは目的の物を吸い出す…ペチャ…ペチャ…ペチャ…ジュルル…ジュ…ジュ…ジュ…
卑猥な音が響き…アレンはあっさり達してしまう…
『出る…吸われる…』
ドボリ…ドボリ…ドボリ…
いつもと違う…ひどく粘る液体が尿道に絡みつき…鈴口に甘い余韻を残しつつ噴出して、アンジェリカの口に消えていく…
亀頭が出しているのは、子孫を残すための祝福のミルクではない…堕落と欲望に満ちた黒い汚泥…
それゆえに…一度その射精感を味わえば…二度と忘れることはできない…魔女のフェラチオ…
『…地獄に…地獄に…落ちていく…あぁぁぁ…もっと…アンジェリカ…もっと吸って…吸い出して…』…あっさり魔女の快感の虜となるアレン。

ジュ…粘る糸を引いて…アンジェリカの口からアレンの亀頭が吐き出される…その表情はひどく不満そうだ…
『…薄い…アレン…どういうこと…』
『ひっ…』
下から見上げるアンジェリカ…その顔に怒りの表情がある…
『誰としたの…』
『な、何を…君以外…ううう…』
アンジェリカが再び、亀頭を咥える。
『もごもご(答えなさい…誰としたの…)』
アンジェリカの声は、男根を震わせ、背骨を駆け上り、直接頭に響く…口が勝手に答える…
『あぁ…メアリと…サラと…』

アンジェリカは、アレンから離れ、冷たい目でアレンを見つめる…
『アレン…そこに寝なさい…』
『アンジェリカ…』アレンは逆らえない…ところどころに服の残骸をまとった情けない姿で、さっきまでアンジェリカが横たわっていた場所に身を横たえる…
『き、君が殺されたかと…そしたら…彼女達が…その…ぼくを…なぐさめようと…』
『わかっているわ…アレン…今度だけは許してあげる…』
『アンジェリカ…ありがとう…』
『二度と浮気できないようにしてあげる…うふふふふふふふ…』
『ひぃぃぃぃぃ…』
アレンが悲鳴を上げる…アンジェリカの瞳が赤く光る…いや、激しく瞬く…
そこにいるのは…間違いなく『魔女アンジェリカ』…

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