マニキュア

17.内なる戦い


「魔、魔物なんかに…なってたまるもんですか…」
麻美は、下腹に力を込めていきむ…そんなことで『魔』の侵食が止まる保証はなかったが…

が、うまくいったようだ。 体の変色は臍の辺りが黒くなる程度で止まった。
「やった…次に…ぁぁぁ…うぐっ!?…」
ズクッ…ズクッ…
麻美は子宮に疼痛を覚えた…子宮が膨らんでいくような感覚…強い圧力を感じる…
「何…ううっ…」
堪えられないほどではないが、痛いというより苦しい…おかげで、快楽の渦から抜け出せたが、こんどはお腹の鈍痛に耐えねばならない。
そして、膨張感が強まってくる…
「うぐ…何よ…は、はじけちゃう…」
(食べ過ぎです…)
「はぁ?…うっ…」
(猫を人に換えるほどの魔力と…人一人分の魂を一度に子宮に呑み込んだ…容量を越えたのです…)
「…なにを…あなたが呑ませたんでしょう!…ぐぐ…」

麻美は、ベッドの上でのたうつ、体が引き裂かれそうな恐怖がある。
「…そ、外に…出すには…」
(いけません…)
「なんですって…このまま耐えろと…無理よ…」
(魂は…生き物の外に出てしまえば…雲散霧消してしまいます…)
「うう…魂を…保つ方法は…」
(高度な『技』があれば…しかし、現状では…ありません…)
「…し…死んじゃう…」
麻美のお腹が少し膨らんでいる…膨らみそのものは大きくなる気配はない…しかし、子宮の疼きはひどくなる一方だ…

痛みに耐え考える…
(…こうなったのは『マニキュア』のせい…さっきの言葉…目的を持ってあたしを変えようとしている…単なる『知識』じゃない…『意志』がある…)
ズクン…ズクン…ズキン…
(…く、苦しい…持たない…それに…隆が…でも他に…やっぱり…失敗だったの?…)
思考が切れ切れになる…
(とにかく…『マニキュア』は嘘は言っていない…ならば…利用して…)
だが、『嘘を言わない』事は、『真実を告げている』と同値ではない…『都合の悪い事を言わない』のが詐欺師の手口なのだ…

ズキズキズキ…痛みの感覚が短くなってきた…
「陣痛じゃ…あるまいし…!…まさか…」
麻美の顔から血の気が引く、
(このままじゃ…『流産』してしまう?…そしたら…隆が…)

麻美は追い詰められた…もはや『マニキュア』に頼るしかない…
「うぐぐ…なんとか…する方法は…ないの…」…
(魔力を…体の内に取り込んでしまえば…楽になります…魂だけなら…充分子宮で保持できますから…)
「そ…それじゃ…体が魔物になるんでしょう…いや!…化け物になるのは…」
(気持ちいいですよ…人の限界を超えて…快楽に浸れるから…)
「いや!…人でなくなるのは…」
(では…心を強く持って…)
「心?…ぐううっ…」
麻美の感じる痛みは限界に近づいている…

(人でありたいという心で…魔力を支配下におけば…魔物になることは…ありません…)
「ほ、本当?…」
(創造主ミストレスの名に誓って…)
「『ミストレス』…それが…あなたを作った悪魔…ぐぅぅ…もう駄目…ど…どうやれば…支配できるの…」
(心で戦うのです…強く…心を強く持って…『魔』が支配しようとする力に…)
「言うは安しね…ぬぁ!…」
麻美はお腹の痛みに耐えかね、半ば無意識に子宮を押さえ込もうとする力を緩めてしまった…

「ふぅ…」お腹の膨張感がなくなって楽になる…そして…
「く…くる…あぁぁ…」『魔』の侵食が再開される…
「ああん…駄目…お腹は…ああ…背中も…」皮膚の下を黒い無数の蛇がのたうちながら進んでくる…異様に心地よい…
ヌラヌラ…濡れた鱗のような感覚…神経を直接刺激して…極上の…魔性の愛撫が肌を弄る…
「うぅぅぅぅ…」麻美は体を縮めて耐えようとするが…内側からの愛撫を逃れることはできない…

そして…体の中からも…トロリ…トロリ…
「染み込んでくる…甘い…とっても…溶けてしまいそう…」体の中心で…子宮から頭に向って…トロリとした液体が進んでくる感覚…
既に下半身は甘いドロッとした何かが満ちている…頭の中にこれが満ちたら…心は痺れ、思考力もなくなりそうだ…

『魔』は着実に麻美を犯していく…が麻美は何もできずにいた
「駄目…どうやって戦えばいいの…」
意識が冷たく暗い快楽の沼に引きずり込まれていく…
ついに…麻美の体が漆黒に染まった…体が…心が言いようのない快感に満たされ…芯から冷えていく…
瞼が重い…眠ったら…意識を失えば負けなのだろうか…
「…私は人間…隆も人間…絶対に…負けない…」
そう呟きながら、麻美の目がゆっくり閉じられる…

(戦いはこれから…『力』を支配下におけなければ…二度と人として目覚める事はできません…支配下におければ…ふふ…うふふふふふふふ…)
『マニキュア』の呟きは麻美には聞こえなかった…

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

黒い…黒い沼…何処までも続くドロリとした水面…
ゴボリ…
そこに白い裸の女体が浮かび上がる…
”ゲホッ…ゲホッ…”
麻美だ、二度ほど咳き込み…息に支障がない事に気がつく。
”ここは…どこよ?…夢?…”
(そうです…)
”『マニキュア』!…どういうことよ…”
(そこで戦うのです…そこで負ければ…あなたの心は『魔』に呑まれる…その沼は…魔力の象徴…)
”ということは…いまの私が『麻美』の自我の象徴という訳?…”
(ご明察…)
”最初に説明してよ…”

麻美は、水面に立っている。
浅い?…いや、自分が魔に呑まれていないからだ…
麻美は気がついていないが…体つきはモデル並みのベスト・プロポーションになっていたりする…

コボボッ…麻美の正面で黒い塊が浮かび上がり…形が整っていく…
”ミミ!”
猫ではなく、猫娘の方のミミだ…色は沼と同じで真っ黒…大きさは自分と同じ…
”…ということは…戦いの方法は…”
(獣姦レズ+ドロレス…相手に屈服すれば負け…つまり、いかされたほうが負け…)
”だーっ…”
(ちなみに…)
ゴボボ…
さらに塊が2つ…
”隆!小池君!…助け…じゃないの?…”
(魔が…あなたの記憶を…イメージして…)
”これじゃ、勝てるわけないでしょ!…”
黒『ミミ』、黒『隆』、黒『学』が『麻美』を包囲する。
もはや、『麻美』の自我は風前の灯火…

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