マニキュア

4.始まり


その夜、麻美はマニキュアを前に考え込んでいた…
(最初の晩に比べて、二日目以降は頭痛もずっと軽かったし…慣れがあるのかな?…)
使い方に慣れて来たなら…大丈夫かもしれない…

初めて使った時のあの疼き…ゾクリ…体の芯が痺れるような感覚…
(凄かった…だから…)
あまりに強烈だったから…それ以後はやらなかった…怖かったのだ。
だが…実は体の中からあの時の感覚が抜けきっていない…もやもやした感じが残っていた…
(一度…いくとこまでいってスッキリしたい…)
その思いがつのっていた。
隆はもう寝たか、ネットにはまっている筈だ。

麻美は、マニキュアを爪に塗っていく。 今回は10本の指全てに。
両手の爪が全て赤く染まる…何となく禍禍しい…
手を開いたり閉じたりしてみる…問題ない、ここまでは。

ベッドに横になる…今日はネグリジェ…そういう気分だった…
ゆっくり思い出す…胸に生じた快感…深い…とても深い喜び…
(あの…『続き』を…)

スッ…操られるように両手が動く…別人の手のように…
ネグリジェの上から、両の乳房を…サワリ…
「ん…」
モミ…クリ…
「んん…」
モニュ…モニュ…
「んー…えい、じれったい!…」

直接触れないせいか責めが甘い、麻美はネグリジェを脱ぎ捨て、ブラジャーも取ってしまった…
「さぁ!これなら文句無いでしょ!」
もう一度ベッドに横になる。

再び、両の手が動き出す。
そっと両の乳房に手が…爪があてがわれる…
(きた…)
チリ…
(う)
チリチリチリ…
(うぅぅぅ…)
チリチリチリチリチリチリ…
(はぁぁぁぁぁぁ…)
10本の爪が触れるか触れないかの軽いタッチで麻美の乳房の上をいやらしく這いまわる…
赤い線が妖しい模様を刻み込み…乳房の中に痺れるような喜びを生み出す…

(い・け・な・い…)
想像以上の快感の奔流に、理性が危険信号を発する…それも一瞬…すぐに熱い快楽が理性を消し去る…麻美は自分の欲望に呑み込まれていく…

『欲望』が『爪』に命じる…この体に極上の快楽を…魔性の喜びを与えよと…そして『女』にせよと…
『爪』は忠実に仕事をこなし始める。

『右の爪』が麻美の股間に伸びる…優しく女陰を擦りあげ…下の唇をカリカリと刺激する…
(あぁ…)
『麻美』の女が開いていく…どうか私を『女』にしてと…
薄く口を開いた女陰の呼び鈴…可愛い芽に人差し指がチリチリと模様を描いていく…皮のフードで恥ずかしげに隠れていたものが…大胆な女の証に変わっていく…
(くぅぅぅぅ…)
ビクビクと震える肉の芽…その響きは麻美の下半身の奥深くに妖しい甘い夢を送り込む…
(あん…)
膣壁がむず痒くなる…触って欲しい…擦って欲しい…何かを入れたい…その思いだけで心が占められる…
(中を…奥を…入ってきて…お願い…)
秘められた神秘の宮殿の門が…芳しい香りを放ちつつ開いていく…
五人の赤い悪魔が、神聖であるべき生命の回廊に、魔性の『呪紋』を刻む為にしずしずと入ってくる…
それを拒む『理性』の騎士はもういない…
赤い爪は着実に仕事をこなす…柔らかな膣壁を傷つけないように…しかししっかりと擦りあげる…柔壁に赤い模様が書き付けられていく…
仕事の終わったところは…『少女』から『魔性の女』に作り変えられ…ヒクヒク淫らに蠢き妖しい液をトロトロ流し始める…
そこから生み出される快感は…麻美をさらに深みに引きずり込む…

「…………」 激しい快感、よがり声を上げても不思議ではない。 しかし、麻美の声が聞こえない。
『欲望』は狡猾だった…邪魔をされない為か『左の爪』が麻美の喉に『沈黙』の『呪紋』を刻んでいた…
続けて、『左の爪』は胸を弄る…二つの乳房…その下にある心臓に…人外の悦楽が刻まれる…血管を通して全身に広げるかのように…

麻美の膣が、肉襞が…『欲望』の手におちた…ビクビク震え、うねりながら『右の爪』達を舐め、奥へ引き込もうとする…
処女膜を…裏切り者達の手で引き裂こうと言うのか…
(いいの…いいの…もっとして…えぐって…ついてぇ…)
麻美の心、魂、体、手、女性自身、全てがバラバラになり…あるものは『欲望』の手先となり…あるものはなおも『欲望』に責められる…

そして、麻美の全身に深い絶頂が走る…
(いぃぃぃぃぃぃぃ…)
麻美は目を見開き、絶叫していかのように口を開き、大きくえびぞった…全身が硬直して棒のようになる…
体から力が抜け、くたりとベッドに崩れ落ち、荒い息をつく…弛緩した体が時おりヒクリと動き、快感の余韻に浸る…

やがて、麻美はベッドの上にむくりと体を起こす…『左の爪』が喉で蠢き『沈黙』を解呪する…
顔を上げる…その表情は淫らな欲望に支配された雌の獣の物だった…
「ふぅ…よかった…でもやっぱり『女』には『男』が必要ね…うふ…」
舌を出して唇を舐めあげる…
「小池君…彼、童貞ね…丁度いいわ…」

机の上の携帯を取り上げ…メールを送ろうとして、0時に近い事に気がつく…寝ているかもしれない。
短縮で電話をかける…ルルル…ピッ…『小池だよ…だれだい…』
「小池君…麻美よ…」
『せ、先輩…こんな時間に…何か…』
「欲しいの…あなたが…」
『ドデッ…(椅子ごとこけたらしい)…か、からかわ…』
「本気よ…『さかり場』の入り口で待ってるわ…来てくれなければ…他の人にバージンあげちゃうから…」
『は、はやまらないで…とにかくいきます…』

『さかり場』とは近くの公園のあだ名であった。 昼はともかく夜ともなれば、カップルがやってきて『さかる』ことからそう呼ばれていた。
そこに男を誘う…しかも夜…何を意味するかは歴然としていた…

麻美は鏡に向う…
「少し…胸を大きく…それと唇にも…」
麻美の注文を聞き、『右の爪』と『左の爪』が胸と唇に『呪紋』を書きつける…
Aカップだった胸が膨らみをましBカップに…唇が真紅に変わる…

「こんなところかしら…小池君…愛してあげる…この体と…この『爪』達で…うふふふふふふ…」
鏡に映る麻美は…『悪魔の爪』を従えた『魔性の女』だった…


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