マニキュア
3.中間考査
「むー…」
翌日の午後、考査は午前のみ、考査中は部活も禁止、家に帰って翌日の準備をするだけだ。
麻美はお昼を兼ねて、近所の喫茶店のセットを注文し、考え込んでいた…
「失敗した…」
数学の公式を丸暗記しても応用が利くわけではなかった…まあ、多少役には立たっが。
「頭が痛い…」
おまけに頭痛までしてきた…無理な頭の使い方をしたせいであろうか。
(確かに使い方が難しい…)
人差し指を見る…爪はもとの色だ…朝になったら戻っていた。
これで、記憶した事まで忘れていたら漫画だが、幸いそれはなかった。 もっとも、今ごろゆり戻しが来たと言うわけだ。
(この頭痛じゃまともに勉強できないし…今夜もマニキュアに頼るしかないのか…)
考えていて、急にゾクッとした…
(そうか…頼り出すと止まらない…何処までも堕ちて行く…だから『魔法のマニキュア』じゃなくて『悪魔のマニキュア』…なんてね…)
怖い考えになりかけたのを、茶化して否定する…たかが頭痛…薬で押さえればいい…
運ばれてきたピザ・トーストに取り掛かる。
(試験が終わったらいろいろ試してみよ…)
「ねーちゃん」
「ゴホッ…な、何よいきなり!…ノックしなさい…」
「ドア開いてるよ」
その夜、勉強しながらマニキュアを使おうか考えていた麻美に、弟の隆が声を掛けた。
慌てて、コーヒーにむせた。
「閉め忘れたかしら…何?…」
「ミミのごはん」
「いっけない!…キャットフードまだあった?…」
「買ってくるからお金」
「お母さん達は…温泉にいったんだっけ…もう、子供ほったらかして一週間も出かけるんだから…」
麻美はぶつくさ言いながら千円札を出して渡す。
「ほい、お釣りは返すのよ」
「ケチ…あ、お母さんの化粧品持ち出してる!…」
「へへー違うの…こ・れ・は・あ・た・し・の・」
妙な事で胸をはる麻美。
「へー、お姉もとうとう色気づいたか」
「中坊がナマ言うんじゃないの…とっとと行け!」
「行っきまーす」
隆が出て行く。
(ふぅ…使うにしても隆が寝てからね…)
とりあえず、まじめに勉強する…
(化学、物理、古文…ウーン丸暗記だけじゃ対応が難しいかな…『頭脳明晰』とかできないかしら…)
虫のいい事を考える…
夜も更け、隆は寝たらしい…
マニキュアを一塗りして『悪魔の爪』を使う。
(うーん、こんなに安直でいいのかしら…)
早くも順応している。 爪が額の上を滑っていく…たちまち頭スッキリ記憶力倍増…
麻美は教科書を暗記していく…
−−翌々日−−
「終わったぁ!」「万歳!」生徒が歓声をあげている。
ここは、麻美の通う高校、今はお昼。 今日はこれで終わり、来週の月曜まで試験休み…地獄の後の天国である。
麻美もルンルン気分で家路に着く。
「如月先輩」
「おや、誰かと思えば小池君ではないですかァ…」
麻美に声をかけたのは、小池学。 一つ年下で中学校からの後輩だ。
手を上げて挨拶し、麻美に近寄ってくる。
バスケ部のホープで麻美より5cm程背が高い。
(あたしよりでかくなって…生意気!…)
背が追い越されたとき、小池にとっては理不尽な文句をつけたものだ。
「試験どうでした?」
「悪魔の力でばっちりよ」
「…頭使いすぎましたか…お気の毒です…」
「ぶぅ!」
麻美は悪戯心を起こす。 両手で鞄を前に持ち、うつむき加減で恥じらいを込めて言う。
「ねぇ…今日、両親旅行でいないの…それで…あれ?…」
小池はあさってを向いて、顔をまっ赤にしている。
「せ、先輩…い、いけません…」
「アホ…だから家には来ないでね…と言おうとしたのよ」
小池が思い切り肩を落とし、全身で失望を表現する。
(ふふ…気の弱いくせにスケベなんだから…)
「そこらでコーヒーでも飲んでいかない?」
「はい!」
立ち直りの早い後輩だった。
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