ミルク

31.村長の手記


村長は2階の自分の部屋から外を伺う。
笑い声が聞こえる…白い悪魔と化した女達が村の男達を誘っている…
逆らえるものはいなかった…自分を含めて。

ヌルリ…足に生々しい感触。
村長は居住まいを正し、足元を見やる。
其処に白い娘が居た。 彼女が村長の枯れ木のような足に舌を這わせたのだ。
…今朝までは彼の孫娘だった少女…それが今では…
だが、もう逃げられない。 さっき彼も女達の一人に…その豊満な胸に抱きしめられ、『悪魔の乳』を飲まされた…
村の男達の末路を目にしたとき、彼は己の運命を悟った。

村長は机に向い、椅子にかけた。 娘は机の反対側から下に潜り込んで来る。
目をしばたたかせ、羽ペンを取り上げる。
インク壷に先を浸して、羊皮紙に整った文字を書き連ねていく。

『…恐ろしい事が起こった。 突然、村の女、子供…全員が悪魔と化したのだ…
女達は淫らな行為で男達を悪魔の儀式に誘い、誘惑に負けた男達は一人残らず…恐ろしい…とても書き残す事はできない事に…』
ビクリと手が震え、無意味な線が刻まれる。
視線を下げると、孫娘が自分の股間に手を入れていた。
『…どうしてこんな事になったのか判らない。 数日来、奴らが村人達を襲い、今朝探索の為の傭兵を送り出したばかりだというのに…』
くっ…老人の喉が鳴った。
罰当たりにも、孫娘が男根を舐めたのだ。
怒りよりも悲しみが込み上げてくる…が、次の瞬間、彼のイチモツが…とうに役目を終えたはずのソレが…力を取り戻し始めた。
老人の目が驚きに見開かれる。
『…なんとした事だ。 悪魔の技か、とうに枯れてしまったはずの…枯れ木が…息吹を…』
再び文字が無意味な線と化す。
彼の体は老人のままだ。 しかしイチモツは脈打ちながら若者のそれの様にそそり立ち…そして色が変わっていく…白く…
少女は笑う…優しく…
小さな唇が精一杯開き、グロテスクな男の証、その先端を包み込んだ。

村長の体が震える…そして、震える手で必死に文字を書き連ねる。
『信じられん…若返ったようだ。 昔そのまま…いや…こんな…初めて…悪魔の技…なのか? ああ…』
柔らかな舌が執拗に先端を舐め、刺すように動く。
何十年ぶりだろうか…ビクリ、ピクリ、と股間が動く感触。
村長は椅子に体を預けたまま、孫娘の舌技に身を委ねた。 ビクビク動く男根の下にぶら下がっていたものが、力強く縮こまり中に熱い痺れを蓄え始めた。
ビクッ、ビクッ、枯れ木のような体が震え、『回春』と言う言葉の意味を満喫していた。

不意に股間が寂しくなった。
慌てて視線を戻す。
「…」
孫娘は向こう向きになり、白い尻をこちらに向けている。
その中心にピンク色の花が彼を誘っていた。
ああ…
ため息が漏れる。 淫らだと表現した事が恥ずかしくなった。 それは神々しく光り輝いてさえ見えた。

骨と筋だけになった手が、振るえながら白い丘に触れる。
”オイデ…”
頭の中で声がした。 彼は何の疑問も持たずに腰を…其処だけが若々しく蘇った物を近づけた。
白く染まった亀の頭が、頭を垂れ、女神の唇に接吻するように、少女の花弁に触れる。
「はぅ…」「アン…」
ピンクの花びらが亀頭を優しく包む。 トロトロと泉のように『ミルク』を滴らせながら村長の男根を抱きしめて、奥へ奥へと誘う。
ニュル…ニュル…
村長の陰茎が、それを忘れて久しい感触に包まれ、優しく甘い肉の感触に打ち震えた…
「おお…おお…」
彼の喉から歓喜のうめきが漏れる…そして、彼の右手が再びペンを取った。

『これが悪魔なのか?…信じられん…わしには…孫が…女神になったように…ああ…呼んでいる…』
”…来て…ここは素敵よ…肉の衣を脱ぎ捨てて…魂だけになって…私と一つになりましょう…”
「おお…はい…」
村長は頭の中に聞こえてくる声に…優しい女神の声に頷く。
孫娘に捕えられた彼の男根、それが伝える悦楽に従い、全てを委ねた。
「おぅ…」
睾丸の中の痺れが、腰に…足に…背筋に絡みつく…
手からペンが滑り落ちる。
村長は椅子に寄りかかりぐったりとする。
妖しく甘い快感が全身を支配し…そして蕩け始めた。
ビュク…ビュク…ビュク…
孫娘の中に『ミルク』と化した村長が吸い込まれていく。
ヒクヒク震える老人の体は、中身を吸い取られて空の皮袋の様になり椅子に引っかかる…やがてそれすらも孫娘の中に呑み込まれた。
後には、ミルクで濡れた村長のガウンだけが残った。

「フゥ…」
孫娘が机の下から這い出して来た。 一回り大きくなった胸が重たげに揺れる。
彼女は、何を思ったのか床に落ちたペンを拾い、そして机に向う。
彼女の手が、羊皮紙に文字を書き連ねる…村長の筆跡で…
『わしは考え違いをしていた…女達は男をただ喰うのではない。 男の体は溶けてしまうが…その魂は失われずに女達の中に呑み込まれるのじゃ。
 そして…女達の記憶?…ああ…取りこまれていく…なんという安らかな…天国じゃ…
 こ、これは?…女神…狂った女神?…苦しむ人々に安らぎを…苦しみを取り除く?…
 違う…それは間違い…た…たまらん…何というよい心地じゃ…もう逆らえん…男でも女でも…この女神様には…その眷属となった者には勝てん…
 い…いや…わかる…わかるぞ…寒さじゃ!!…女神の眷属となった者の体は…氷が張り詰めるほどの凍てつく寒さにには耐えられん!!…
 はて?なぜ判るのじゃ…ああ…もうわしは女神様の魂に…溶け込んで…いく…と…』 
少女はペンを置いた。 
自分の書いた文章を読み返す。
「ウフ…」
笑って羊皮紙に白い手を伸ばし…その手が止まる。
視線を上げて、瞳の無い目で窓から外をみる。
「呼ンデル…かるーあ様…」
窓から身を乗り出し、軽々と宙に踊り出た。
誰も居なくなった部屋…そこに一陣の風が舞い込んできて、羊皮紙を机から吹き飛ばした。
羊皮紙は風に乗って窓から外に出て、村長宅の前に落ちた。

「…と記されておりました」
玉座に座った国王マンゴヤン三世の前で、頭を垂れた学者風の男が結んだ。
ここは王都のスートリア城の謁見の間。
国王は玉座の側に控えた従者に何か囁いた。
従者が学者風の男に声を掛ける。
「『学院長、大儀であった』と王は仰せである」
「はっ、ありがたき幸せ」
「して、真偽の程はどう思うか」
「はっ、この手記が真実村長の手によるものかどうか…」
「簡潔に述べよ」
「…はっ、狂った女神などというのは戯言かと。しかし、寒さに弱いというのは一考の価値があり、これから研究を…」
「もう良い」
なおも続きそうな王立学院長の口上を従者が遮り、学院長は謁見の間から退場させられた。
学院長がいなくなると、王は従者に再び囁く。 従者は頷いて、側に控えていた小者に何かを囁く。
小者は急ぎ足で謁見の間を出て行った。

それからまもなく、王都守備の役目を担う国王直営の騎士団の一つが遠征の準備を始めた。
ガフ、アマレット、ドグが脱出に成功してから14日が過ぎていた。

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