ミルク

30.男としてのけじめ


チャプ…耳元で水音がする…
体が重い…オルバンは重い瞼をこじ開けた。 闇…そして星…どうやら自分は仰向けに寝ているらしい。
「うむ…(あの世…にしては風景が変わらんな…)」
と視界の半分が、白い何かで締められた。 何かが自分の顔を覗き込んで来たようだ。 それに視線を合わせる。
「…む…」それは『女神の娘』の一人…しかも見覚えのある顔立ち。
「ココモ? お前、誰かに退治されたのか?」

ココモが小首を傾げ瞬きをする。 オルバンの言葉の意味が判らなかったようだ。 
「退治…ああ。 隊長は死んだつもりなんだ。 お生憎様」
そう言って、ココモはオルバンの胸に手を伸ばす。
オルバンの予想に反し、強い刺激が胸に走った。 ひどく不安になるような感触だ。
(?…ぬっ!…)
ココモが何かを握るようにし、手をゆっくりと持ち上げる。 ズッ…ズズズッ…悪寒と共にオルバンの胸から引き抜かれたのは…自分のショートソード…
「…」
ココモが剣を引き抜くとオルバンは上体を起こし、自分の胸を見た。
「…」ミルクで白く染まった自分の胸にはっきりとした刀傷が残されている。 しかし血が出ていない…それどころか傷が塞がろうとしている。
「こいつは…」オルバンの呟きに、ココモとは別の声が応えた。
「『女神の乳を飲んだ者は、病気も怪我もしなくなりました』…乳を浴びる前なら…残念だったねぇ」
オルバンは声のした方を見た。 カルーアの流したミルクで白く染まった水面、そこにカルーアの頭が覗いていた。
(やれやれ…)オルバンはため息をついた。

「カルーア…あれでまだ生きてるのか。 不死身になったのか?お前達は」オルバンは半ば本気で文句を言った。 
「不死身ね…さて、形がなくなるまで切り刻まれたら判らないけどねぇ」カルーアはゆっくりと湖から上がってくる。
「こんな芸当も身に着けたよ」
カルーアが全身を湖から現した。 オルバンが切り離したはずの下半身がちゃんとある…いや、切られる前のそれと形が違う。 それに、足の数が多い。
1、2、3…8本の足…いや、それはうねる触手だった。  しかも乳蛸の足と同じように、一本一本に大小の乳房…乳房状の吸盤が着いている。
オルバンは驚くよりも呆れたような顔になった。 苦笑して拍手する。
「はっはっ…確かに『芸』だ。 おい、元に戻るんだろうな?」
「多分ね…」カルーアも苦笑している。
カルーアは触手を動かし、オルバンに近寄ってきた。
オルバンは動こうとしない。 カルーアが何をしようとしているか判っているのに。
「逃げないのかい」
「腰が抜けた」そう言って笑う。
「うそつき」カルーアも笑う。
カルーアの触手がするするとオルバンに絡みつく。 触手の乳房がオルバンの体のそこかしこでつぶれ、大小の乳首がプニプニと吸い付く。
「おほっ…これはなかなかいいな」
カルーアはオルバンの体を引き寄せ、自分の本当の胸に抱き締める。
オルバンもカルーアの体に腕を回す。
「…何もしないんだね…」
「…」
「その短剣であたしを刺すのかと思ったよ」
カルーアの言うとおり、背中に回ったオルバンの右手には、どこに隠していたのか短剣が握られていた。
オルバンは無言でカルーアに口付けし、短剣を投げ捨てた。
オルバンは激しくカルーアを愛撫する。
「あ…ああ…」カルーアが仰け反り、両胸がヒクヒクと震える。
チュ…チュチュ…カルーアが興奮してきたのか、ピンク色の乳首からあの恐ろしい『ミルク』が漏れオルバンの胸を濡らす。
オルバンは貪るようにカルーアの唇を求め、喉を舐め…そして胸に顔を埋める。 そしてカルーアが…知らなかったとはいえ…大きな代償を払って取り戻した豊かさな胸を優しく吸った。
「!」カルーアの胸に暖かなものが溢れ…そして…
ビュク…ビュク…激しく吹き上がる『ミルク』…オルバンは恐れることなくそれを飲み干していく。
「う…」オルバンの口から呻きが漏れた…痺れていた体に暖かなものが満ちていく。
それを知っているかのように、カルーアの触手がオルバンの足に巻きつき、股間に滑り込んで、優しく摩りあげる。
カルーアの触手と競うかのように、オルバンのモノが硬く膨れる。
触手の乳房がオルバンの男の形を写し取り、鈴口に乳首が吸い付いて吸い舐る。
「あ…」喘ぐオルバン…少年に戻ったかのような快感に男が震えた。
暖かく滑る触手と乳房に、下半身を絡め取られた格好でオルバンは命を『ミルク』に変えて吐き出し始めた。
ヒュクヒュク…カルーアの下半身はオルバンにしっかりと巻きつき離そうとしない。
それは獲物を捕らえた怪物の姿そのもの…愛した男の命を吸い尽くす魔性の女の様であった。
それでもオルバンはカルーアの上半身への愛撫をやめない。
カルーアの上半身はオルバンの愛撫に酔いしれ、下半身は激しく興奮してオルバンを引きずり込もうとする…
ついにオルバンのイチモツが、触手の付け根に隠れたカルーアの秘所に触れた。
「う…」「は…」二人の口から同時にうめき声が漏れた。
そして、互いに覚えのある形が一つになるのを感じた。

オルバンの愛撫が止まる…
背筋を走る生暖かい感触…オルバンの体の隅々にまで染み込んだ『ミルク』が命じている。
”さぁ…貴方を受け入れる準備が出来た…蕩けていいの…楽になりましょう…”
そして、抗うことの出来ない快感が襲ってくる…
「こ…これが…と…蕩けちまう…」
体から力が抜け…内側から柔らかくなっていく…そして…カルーアの胎内に吸い込まれていく…
(それとも…俺が望んでいるのか…)
ニュク…ニュク…ニュク…妖しい戦慄が体を緩やかに走り…オルバンをカルーアの中へ中へと導いていく。
「オルバン…感じる…来るわ…やっと貴方が…」カルーアが歓喜の声を上げる。
「カルーア…ああ…」オルバンも歓喜の声を上げる。
そして…、月光の中で、人の道を外れた性の舞踏がクライマックスを迎える。

ニュク…ニュク…ジュル…
オルバンは、全てカルーアのものになろうとしていた。 その体は中身の無くなった皮袋のようであり、それすらもカルーアの触手の間に引き込まれつつある。
「カ…カルーア…」
「オルバン…凄いねあんたは。 並の男ならば、まともに口を利く事も出来ないのに…」
「あ…ありがとよ。 それより…どうする気だ。 領地を魔人に荒らされて…王が黙っているわけが無い。 娘の一人を奪われたビスコタ伯も…」
ズリュ…ズリュ…オルバンはカルーアの中に呑まれながら、懸念を口にした。
「騎士団が…大勢で攻め寄せてくるだろう…俺達みたいなわけにはいかないぞ…」
カルーアの表情が曇る。
「…そうだね…だけどあたし達は逃げることも…反対に王都に攻め寄せることも出来ない…」
「?」
「…まあ…いくつか『芸』も覚えたし…やるだけやるさ…」
「はぁ?…う…」
ズリリュ…
カルーアが意味不明の事を呟いた直後、オルバンは全て呑み込まれた。
カルーアの触手がウネウネ動いて一つにまとまる。 そして二つに分かれたかと思うと、彼女は二本の足で立っていた。
「ほんと…『芸』だねぇ。 王都の舞台でやったらうけるかしら」
呟くと、彼女は僅かに動く下腹をいとおしそうに撫でた。

カルーアが顔を上げる。 いつの間にか何十人もの『女神の娘』達が集まってきていた。
「さて、王の軍勢が動くまで…どのくらいかかるかしら」

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