ミルク

16.顎


女はスラッシュより小柄だった。 彼にしなだれるようにしながら、首に回した腕で首筋をくすぐる。
「おい…」スラッシュは戸惑う…しかし、女の息を吸い込むたびに、体が甘くだるくなっていくようだ。 徐々に体も頭も働かなくなっていく。
シュル…シュル…首筋の後ろで、細い指が動いている。 ズル…リ…スラッシュの皮胴衣がずり落ち、汚れた肌着が露になった。
女は豊かな胸を肌着に押し付けて、体をくねらした。 しかし、粗末な麻の繊維が、柔らかな乳房の感触を邪魔している。
女はそれが気に入らないのか、顔をスラッシュの喉元に押し付け、せがむ様に擦り付ける。 
フワリ…甘い香りが立ち上り、スラッシュと女を包む。
二人の腕は、同じ目的でゆっくりと蠢いた…やがて二人は互いを邪魔するものを全て取り払い、互いを優しく抱き閉める。
(ああ…)スラッシユはため息を吐いた。 女の胸は深く優しくスラッシュを受け止める…女の乳首はスラッシュの厚い胸板に吸い付き、肋骨をなぞる様にくすぐる。 スラッシュは女の抱擁に酔いしれた。

スラッシュの足が、女の足の間を求めて一歩出て…ズキッ…皮履を外した足に尖った石が食い込んだ。
「いてっ…な…なんだお前は!」痛みがスラッシュの意識を引き戻した。 彼は自分が抱いていた『女』を突き飛ばす。
女は後ろ向きによろけ、粗末な寝台に倒れこむ。 しかし、怒る様子もなければ、襲い掛かってくる様子もない。 そのままの姿勢で上目遣いにスラッシュを見つめる。
「ネ…抱イテ…」そう言って、白く細い手を差し伸べてきた。
「何言ってやがる」そう言って一歩引くスラッシュ。 からかわれているようで、腹が立ってきたようだ。
「貴様らいったい…何なんだ?」忌々しげに呟く。
「ウフフ…ドウダッテイイジャナイ…ホラ…」女はそういうと、両手を胸に宛がった。指の間からピンク色の乳首が覗いている。 そのままゆっくりと乳をこね回す。
「ココ…柔ラカイヨ…触ッテ…吸ッテ…サア…来テ…」
スラッシュの体に女の生々しい感触が蘇る。 ゾクリ…男根に甘い痺れが生まれ、己の使命を果たそうと硬くなる。
しかし、スラッシュは自分の欲望を無視して、冷ややかな目で女を見返す。
「あまり馬鹿にするな」そう言って剣を構えようとし…自分が裸になっている事に気がついた。

ちっ…忌々しげに舌打ちする。 女に注意を向けたまま床を足で探ると、散らばった自分の衣服の中に鞘に収まったままの剣が見つかった。
用心しながらしゃがみ、剣を拾って女に突きつけた。 女は気にした様子もなく寝台に座っている。
(我ながら間抜けな格好だ。 しかし、これで『人質』は手に入ったな。) 
「おい、おとなしくしろ」「ウン…ジャアアナタカラシテクレルノ?」 女は剣を恐れる様子もない。
スラッシュは薄気味悪くなってきた。
(うーむ、この連中死ぬのが怖くないのか? だとすると『人質』の意味があるかどうか…。 まあ仕方がない。 ここで持ちこたえていれば、そのうち皆集まってくるだろう。 後はそれからだ。)
スラッシュは、鞘を口元に持ってきて、吊帯を歯で解いた。 そして、すばやく女を後ろ手に縛り上げる。

ジュルリ…どこかで濡れた物が擦れ合うような音がした。
「?…おっと、いかん。 カシス! そっちは大丈夫か?」「…あ…ああ…大丈夫…」少し遅れてカシスの返事がした。 しかし、返事と裏腹に声の調子がおかしい。
「む…いいか、逃げるなよ」スラッシュは女に剣を示す。
服を着ようかと思ったが、カシスの様子が気になる。
仕方がないので腰に布を巻きつけ、入り口で頑張っているはずのカシスの所に戻る事にした。
灯明を棚から取り上げて、スラッシュは間仕切りの向こうに戻った。 僅かな明かりも届かなくなり、寝台のある辺りが闇にに包まれる。
「フフ…」女は闇の中で軽く笑った。 ジュルジュル…何かが寝台に向けて這いずって来る。
ズルズルと濡れた音がし、すぐに女は自由になる。
「ウフ…アリガト。 ネェ…手伝ッテ…」闇の中で女が蠢く気配がする。 そして…ズッ…ズズッ…何が擦れ合うような音がし始めた。

「おいカシス」スラッシュは灯明を掲げた。 カシスは、扉に背を預けた格好のままで目を閉じている。 外の物音に耳を済ませているのだろうか。
「カシス。返事しろぃ」スラッシュがもう一度呼びかけた。
「あん?…スラッシュ?…」陶然とした声でカシスがようやく応えた。
「何してる。 奴はどうした?」
「いるよ…ふ…」笑みを含んだ声に、スラッシュは嫌な感じがした。
「笑い事じゃないだろうが。まぁ入って来れないなら…?」スラッシュの耳に妙な音が聞こえた。
ブチッ…ブチッ…糸が一本ずつ切れていくような音だ。
「カシス?何か聞こえねぇか?」「ん?」「ほら、ブチッ、ブチッて音だ」「…ああこれ…大した事じゃないわ…」カシスはそう言って身じろぎをする。
さらにカシスに問い掛けようとして、スラッシュは異変に気がついた。 カシスの皮胴衣、その胸の辺りが少しずつ膨らんでいる。
(!?)…驚くスラッシュの目の前で、なめされた皮の黒褐色の表面に無数のひび割れが走る。
ビチッ…ビチビチビチッ…激しく糸の切れる音がして、カシスの皮胴衣の胸あてが、前に倒れるように勢いよく破れ、続いて肌着が弾ける様に破れる。
ブルン…カシスの胸が露になり、双丘が喜ぶように大きく震えた。 (あいつの胸あんなに大きかったか?) スラッシュは、ついそんな事を考えた。
「カシス…!?」
ユラユラ揺れる灯明の明かりの加減か、カシスの胸が白っぽく見え…いや、間違いない。 褐色の丘が、麓から次第に白く変わっていく…
「は…あん…あゥ…」カシスが喘ぎ、熱い息を吐き出す。 その息が甘い…さっきの女のように。

(いったい何が起こっているんだ?…あ!)スラッシュはようやく気がついた、扉の下の隙間から白い蛇のようなものが小屋の内に入り込んでいた。 それが、カシスの足に巻きつき、皮のズボンの内に潜り込み、ヒクリ…ヒクリ…と蠢いている。
「カシス!」スラッシュは剣を土間につき立てて、カシスの残った皮胴衣を剥ぎ取り、皮ズボンを力任せに引き破る。
「むぅ!」 そこには予想通りの光景があった。 白い蛇のようなムチが、カシスの股間に潜り込んで、ヒクヒクと震えている。
「ああ…熱い…熱イ…みるく…オイシイ…モット…モットチョウダイ…」カシスの下半身はミルク色に染まり、下腹がビクビクと蠢く。 股間から、溢れた『ミルク』が滴り落ちていく。
スラッシュは『ムチ』を掴み、引き抜こうとする。 しかし、『ミルク』で濡れたムチは手が滑って抜く事が出来ない。
「アン…すらっしゅ…乱暴ニシナイデェ…」カシスは甘えるように言って、ゆっくりと目を開く…白く濁って瞳が見えなくなった目を。
「!」スラッシュは愕然として手を止めた。 灯明が手から滑り落ち、土間に落ちて消えた。
小屋の中は再び闇に包まれた。

トクン…「?」…不意に胸が高鳴る。 スラッシュは気づいた、濃厚な『ミルク』の甘い香りが立ち込めている、二人を包み込むように。
「すらっしゅ…」闇の中からカシスが呼ぶ。 「来テ…」
スラッシュは剣を拾って後ず去ろうとする。 しかし足がガクガク震えるだけで思うように動かない。
「くそっ」 自分の足を左手で殴った。 ジンとした痛みがあり、足が少し動くようになる。 そのまま必死で泥沼の中を動くように後ずさる。 隣にはさっきの女がいる筈だが、スラッシュの頭からそんなことは消えていた。
「すらっしゅ…」カシスが再び呼ぶ。 さっきより声に熱がこもっている。
「許せ」スラッシュはカシスに背を向け、隣の部屋に飛び込み…そこで何かにぶつかった。 
ポム…異様に柔らかい何かにぶつかった。 
「な、なんだ?こりゃ?」 スラッシュ開いている左手でそれを押し離そうとした。
ズッ…押した分だけそれがへこみ、スラッシュの左手が手首まで潜り込んだ。 驚いて抜こうとする…が、柔らかな何かが左手に纏わりつき抜けない。
(くそ、いったいなんなんだ?…しまった!さっきの女…にしては妙だ?…うおっ!) ぐいっと左手が引っ張られズルリと足が滑る。 スラッシュは慌てて踏ん張る。
バリバリッ…右手、壁際で何かが壊れる音がして、窓を塞いでいた鎧戸が剥ぎ取られた。 光が流れ込んできて、小屋を闇から開放する。 スラッシュは眩しさに、思わず右手で目を覆った。
「う…おおっ!?」目が光に慣れて、ようやくスラッシュは左手を捕まえている物の正体を見定める事が出来た。 いや…形が見えただけで正体は判らなかった。

「これは?…」白く丸くフニャフニャと動くそれは、表で見た『おっぱい』を小さくしたような生き物に見えた…人の背丈より少し小さいそれが、二つ並んで狭い部屋を埋め、二匹の隙間に自分の左手がはまり込んでいる。
「クスッ…」女は、スラッシュから見て二匹の向こう側で笑っている。
(こんな奴ら、どこから入ってきたんだ?…い!?)
女が両手で、二匹の抱えるようにした。 そこでスラッシュははようやく気がついた。 女とこのニ匹がつながっている。 これは女の『おっぱい』…それがグロテスクなほどに膨らんでいたのだ。
「フフ…今度ハ逃ガサナイ…タップリ揉ミ解シテアゲル…」そう言って、女はにっと笑った。
フニフニフニ…女が巨乳…いや巨大乳をもみ始めると、スラッシュは左手からじりじりと『谷間』に引きずり込まれ始めた。

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