ともしび

26.枯草


残った二人は目をしっかり閉じ、手で顔を覆って『炎の女』を見ないようにしていた。

しかし、『炎の女』の照り返しが彼らの肌を愛撫するように暖め、耳には石炭の喘ぎが届く。 他の連中は声すらも

聞こえない。

このままでは自分たちが仲間入りするのも時間の問題だ。 さりとて彼らを助ける術も思いつかない。

「油山、仕方ない…逃げよう」 枯草が言った。

「は、はい!?」 裏返った声で油山が応えた。「も、もちろんOK!」

「いいか…」枯草がいったん言葉を切る「あいつは一度に一人しか襲えないらしい。だから今度どっちかが捕まっても、
残った一人が逃げ出して助けを呼ぶ」

油山は一瞬黙り込み、そして同意した「…判りました。で、どうやって逃げます?」

彼らはここの間取りを知らないので出口の場所がわからない。 そして目を閉じているので辺りが見えない。

枯草は、返事の代わりに肘で油山をつつき、浴槽から離れるように後ずさる。 気配を察した油山が続く。

すぐに背中が壁に突き当たり、枯草は体を反転させて壁に張り付き、手で油山に同じ格好をさせた。

「シャワー室は右手だった。 このまま壁伝いに左に行って最初のドアから出るんだ」

油山が頷く気配を感じながら、枯草は(サウナ室だったりしなけりゃ良いが)と心の中で思った。


ペタペタと緊張感をそぐ音を立てながら、二人は壁伝いに進るだした。 しかし蛇口を向うずねで蹴飛ばしたり、タオル

掛けで横腹を痛打したりと思った程簡単でない。

”あはは…ねぇ何処行くのぉ…” 『炎の女』が笑っている。 しかし、まだ襲ってくる様子はない。

「はぁ…あはぁ…」 ビチャビチャと濡れた音と石炭の喘ぎ声が聞こえている。 まだ石炭が『頑張っている』らしい。

(がんばってくれ石炭…まだ『いく』なよ…)

「ふぁ…あ…」 ふっと石炭の声が途切れ、思わず二人は立ち止まった。

「枯草さん」「…」

”ふぅ…ふふ…さて…ねぇ…遊ばないの?” 『炎の女』がこちらを伺っているらしい。


「急げ!」「はい!」 二人は全力で壁を伝う。

ベタベタベタ… ガツッ! 「イテテッ!」 「タオルが取れた!?」 「ばか、かまうな!」

当人達は必死でも、客観的に見ると間抜けな格好である。

しかも『炎の女』は部屋の中心の浴槽に陣取っているので、ちっとも離れたことにならない。

スボリ…ドボリ… その浴槽の中で、何か大きなものが動くような音がする。

(何だ!?) 枯草は焦る。 と背後から何か水のようなものが掛けられた。

「うわっ!?」 枯草は足を滑らせ床に転がる。

「枯草さん!?」油山は枯草を振り返り、そして目を開けた。「げっ!」

さっき石炭が寝かされていた巨大な女体、それが横たわったまま向きを変えて、こちらにその女性自身を向けている。

大きな手がその真珠を弄り、潮吹きのように白い液体を其処から彼らに向けて浴びせかけていた。

「くっ、品の無い真似を…あいつ、あそこから動けんのか?」白い『愛液』もどきにまみれながら、枯草は立ち上がろう

ともがく。 しかし。

ずるり… 「くっ?」 

ずるっ… 「ぬっ?」

『白い愛液』は異様に滑り、床に手を突くと床が動くような感触で手が滑ってしまう。

ビュル… ビュルル… 再び降り注ぐ『白い愛液』に、枯草の体は床を滑って少しずつ浴槽に引き寄せられていく。

「枯草さん!」壁際から油山が手を差し伸べ、枯草がその手をつかもうと手を伸ばす。 しかしわずかに届かない。

もがけばもがくほど、枯草の体は浴槽に引き寄せられていく。

ニュル… ニュル… 「うっく!?」 枯草は、『白い愛液』が体に纏わり付くような妙な動きをしているのに気が付いた。

(まてよ…あの浴槽の中身は全て『炎の女』の一部。 じゃあこれも!)

「枯草さん!」油山の叫びに枯草が応える。

「出口へ!出口を捜せ!」そう言いながら『白い愛液』に包まれた枯草は、浴槽に引きずり込まれた。


ドッポリ… 粘った音を立てて浴槽に背中から落ちた枯草は、一度潜ってから慌てて立ち上がる。

「な…にっ…?」 辺りを見回して驚く枯草。

辺りは一面に『白い湯』だけ… あの大ロウソクとその上の『炎の女』、そして白い女体はすぐ其処にある。 しかし、

其処は『浴場』ではなくなっていた。 どこまでも『白い湯』の水面が広がっている。

背後を振り返っても、浴場の壁もすぐ其処にいたはずの油山も見えない。

「こ…ここは一体…」

”ふ…ふふ…” 『炎の女』が笑った。

枯草は『炎の女』を睨みつけた。「貴様…ここは何処だ!」

”うふ…” 『炎の女』ロウソクの上で頬杖をついて枯草を見下ろす。”な・い・し・ょ…それより”


ニチャ… 物音に振り返ると、あの白い女体の秘所が目の前にあった。

皺だらけのそれは、『白い愛液』で濡れてひかり、互いを舐めあうように密かに蠢いている。

「ひっ!」 思わず後ずさる枯草。 それを押し離そうと、無意識に手が出る。

フワリッ… 手が手首まで柔らかなものに沈み込んだ。 淫らに濡れた襞が震えているのが判る。

”ふぁぁぁぁ…” 甘い喘ぎを漏らす『炎の女』。

慌てて手を引っ込め、大きく振り払う枯草。「手…手が…?」柔肉に触れた部分が疼いている。 

手を激しく擦り合わせ、その疼きを抑えようとし、注意が手に行ってしまった。

ベチャ… 秘所が開き、陰唇が枯草の胸から腹を舐めた。

「ひぃゃぁぁぁ…」 情けない声を上げる枯草。 胸や腹、触られた所に甘い疼きがべったりと残っている。

思わず胸を押さえ、乳首から走った深い快感に息が止まりそうになり、その場にしゃが込む。

”くふふ…慌てちゃ駄目よ…ゆっくり…ゆっくり…”

蹲った枯草の背後から肉襞が迫り、その淫らな谷間に枯草をそっと挟み込んだ。

「!」甘い痺れに枯草の全身が硬直した。 

肉襞は動きの止まった獲物を味わうように愛撫し、向き変えて枯草を女体と正対させる。

枯草は腰から下を肉襞に咥え込まれる格好となった。

「ぬ!…ぬ!…」 食いしばった歯の間から意味不明の呻きを漏らす枯草。

ヌラヌラ動く軟体動物のような肉襞の愛撫は、男根どころか下半身全体を固くさせていた。 そして。

「と…溶ける…蕩ける…」

体の芯がじんわりと蕩けていくような甘い快感が枯草の心を犯し始めた…

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