ともしび

19.炎の女


ふぅ… 
敬はため息をつきながらベッドに腰を下ろす。

『ジョーカー』と別れた後、いろいろと蛍の事を考えながら歩いていたが、考えがまとまらないうちに帰り着いてしまった。

「蛍…」呟いてベッドに倒れ込む敬。

「?」 背中に何か当った。不自然に手を曲げて背の下からそれを引っ張り出す。

「『美少女ゲームの作り方 学園編』…なんだい?これは」買った覚えのない本だ。

(蛍のかな…)ぼんやりと表紙を眺めながら考えた(蛍の…持ち物…あ…) 

敬は飛び起きると、慌てて机の引き出しを開ける。 そこにはあの蛍のロウソクがあった。

「すっかり忘れてた…」 ロウソクをじっと眺める敬。『それに火を付ければボクと話せる』蛍はそう言っていた。

(どうする?) 迷ったのは一瞬だった。 今彼に出来ることはこれしかない。

一緒に入れていたマッチを取り出し、敬はロウソクに火をつけた。


弱々しい炎に向かって敬は話しかけた「蛍。蛍?」

”…敬?…” 炎が揺れて蛍の声が敬に聞こえた。

「蛍?聞こえるんだね!教えてくれ、君はどうなってしまったんだ!?」マイクのようにロウソクを握り締め、詰問する敬。

”…助けて…敬…止まらないんだ…”焦っているような口調で蛍が答える。

「止まらない?なにが!?」

”…先生と『委員長』…二人の魂の炎が僕を照らして…今度はボクが…欲しい…欲しくて止められない…”蛍の声に

焦りが混じる。

「蛍!?」

”…敬…助けて…こんなの…ボクじゃない…”

「蛍…蛍!」敬は蛍を呼び続ける。


「ボクは『蛍』…そして…ふ…ふふ…」

『薫』と『委員長』と薪之森の痴態に唖然としている男に笑いかけた。

「『蛍』?…お、お前は、いやお前達はなんなんだ!」我に返った枯草が浴槽の縁に佇む『蛍』に指を突きつける。

『蛍』にたりと笑い、踵を返して浴槽の中に足を踏み入れ、そのままゆっくりと体を沈めていく。

「貴様、シカトする…え?」枯草が目を見開いた。 『蛍』は肩までどころか頭まで真っ白い『湯』に沈めてしまう。あっけ

に取られる4人。

と、白い湯面から何かが。円筒形のようなものがせりあがって来た。

高さは人の背丈程、太さは大人が二人がかりで手を回してやっと抱え込めるほどもあった。

その天辺に、ロープのような物が出ていて、ついそれを見る4人。

突然、そのロープに火が付いた。 大きな炎が吹き上がり、それが巨大な『ロウソク』であることに気が付く4人

その炎の中に人の顔が、『蛍』『薫』そして『委員長』の顔が浮かび上がり、やがて女の形をした炎となった。 その顔は

『蛍』の面影を残しているが、『委員長』と『薫』にも似ている。 

そうなると、ロウソクと言うより、白い柱の上に『炎の女』が立っているように見える。

驚きのあまり、声も出ない4人。


「先生と委員長が!?」敬が声を上げた「蛍と同じになった!?」

”正確には…ボクみたいになりかけている…”何かに耐えているような口調の蛍”まだボクほどじゃないけど…二人の

炎に照らされていると…ボクも変になって…”

「…ガリは?ガリはどうなった?」

”…彼の魂はおとなしくして…そうか…女だからなんだ…”何か納得したような蛍。

「蛍?」

”…きっと女の人だから…女の人の魂を取り込んだのは初めてだったから…”

「何を言ってるんだ?良く判らないよ」途方に暮れた様子の敬「判るように言って」

”…ごめん『ボク』が『先生』と『委員長』の魂を抜き取って…そうしたら二人とも…『ボク』と同じ…欲望をむき出しにする

炎の妖し変わりかけているみたい…”

「なっ!」絶句する敬。

”『ボク』が『先生』と『委員長』を、『先生』と『委員長』が『ボク』の欲望を剥き出しにしている…止まらない…”

「蛍!どうすればいい!どうすれば君たちを助けられる!?」

”『ボク』を…ボクを引き離して…二人から…まだ二人はそれほどの力はない…今のうちなら…”

「引き離す…」敬の脳裏に蛍に絡みつく二つの灯心の光景が浮かぶ。

「蛍…引き離すって、『灯心』を解き解せと言う事なのかい?」恐る恐る聞く敬。

”そう…その通り…判っているじゃないか…”心なしかほっとしたような蛍。

「でも…さっき僕は君に…君達に…虜になりかけたんだ」敬の声がずんと暗くなる。それは彼が『ジョーカー』に提案し、

実行の困難さから否定された思いつきなのだ。「無理だよ…」

”…敬…”

「うん?」

”…気合で頑張って…” おねだりをするような口調で蛍が言った

机に突っ伏す敬。 『ジョーカー』が居なくて幸いだった。 彼女がこれを聞いたら蛍たちの救助をあきらめ、すぐ警察を

呼んだに違いない。

(ジョーカーさんから連絡があるまでになにかいい手を考えないと)


ずるっ… 粘った音がして薪之森が二人から解放され、その場に倒れ込む三人。

荒い息を吐いている薪之森はともかく、『薫』と『委員長』は目を見開いたままその場に倒れていて、どう見てもまとも

ではない。

『薫』と『委員長』が小さく痙攣すると、二人の股間から白いドロリとした液体が流れ出し、浴槽に流れて行った。

(あれ?二人とも?アレにしては量が多いような?)油山は疑問に思ったが、差し迫った問題が他にあった。

『炎の女』が、倒れた3人と立っている4人をじっと見詰めている。


3人が枯草の顔をちらちらと見て”どうする?”と目で聞いてくる。

枯草は三人と『炎の女』に交互に目をやった。

大きく息を吸って動揺をむりやり押さえ込む。(逃げ出したいが…薪之森が…)

枯草は『炎の女』を睨みつけて言った「俺達をどうするつもりだ…何が望みだ」

『炎の女』はおかしそうに笑った ”それはボクが聞きたいよ…”

彼女は『ロウソク』に腰をかけ、足を開き、赤と黄色い光のコントラストで作られた秘所を見せ付けながら腰をくねらせる。

”さあ…望みは?”白い『湯』面がドロリとうねる。

秘所の輝きは、複雑な陰影を4人…いや薪之森を加えた5人の顔に作り出し、心に潜む欲望を浮き彫りにしていく。

”叶えてあげるよ…そして…”

嬉しそうに『炎の女』が喉を鳴らす。

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