ともしび

13.火踊り


ふっ… 『蛍』が口元だけで小さく笑った。

それを見た『委員長』は馬鹿にされたような気になり、拳を握り締め気合を入れて『蛍』を睨みつけた。

「あ、貴方達!」其処まで言ったが後の言葉が出て来ず、口をパクパクさせ指を『蛍』に突きつけるのみ。

裸の『蛍』は余裕たっぷりにベッドに腰掛れ、胸元を見せ付けるようにする。

淡い光が息づくように明滅し、『委員長』は蛍の姿が霞んだように見えた。

そして、その姿勢のまま凍りつく『委員長』…


「なっ!なにを…あら?」ようやく言葉を搾り出した『委員長』は『蛍』が制服姿なのを見て呆然とする。 胸元も光って

いない。 さらに、

「どうしたの?」

「『委員長』?」

横から声をかけられ、驚いてそちらを見る。 さっきまで裸で絡み合っていたはずの『ガリ』と薫が服を着て立っている。

「え?え?」 呆気にとられる委員長。 はっとして辺りを見回してみると、保健室の中には先程までの狂宴の痕跡す

らも残っていない。

「あ…あれ?先生と『ガリ』君が裸で…『蛍』さんが『ガリ』君を…」段々声が小さくなる『委員長』の額に薫が手を当て

る。

「大丈夫?熱は無いようだけど。 少し休んで行く?」

薫に言われ『委員長』は途方に暮れたような顔になった「…いえ。私は『ガリ』君の様子を見に来ただけですから」

首をかしげながら、『委員長』は薫に一礼して保健室を出て行った。


『委員長』がいなくなると、『ガリ』と薫の様子が変わった。

魂が抜けたようなうつろな表情になり、ぺたんと床に座り込む。 そして蛍の胸元に揺らめく炎が現われる。

あぁぁ… いいの?… あの子をいかせて… 『蛍』の中で薫が声を上げる。

「ふ… あれでいいんだよ、あの子は」独り言のように呟く『蛍』「内から燃やしてあげないと…それより」

『蛍』は言葉を切って、床に座り込んだ『ガリ』と薫を見つめた。 二人はギクシャクとした動きで立ち上がり、保健室か

ら出て行った。


『委員長』は首をひねりながら教室に戻ってきた。

「敬君、『ガリ』君はまだ保健室に…あら?」目を丸くする委員長。 敬の前に座っているのは…蛍だった「蛍さん?貴

方いつの間に?」

蛍は『委員長』を振り向いて言った「何?どういう意味?」

「貴方さっき保健室に居たでしょう?」少し尖った声で尋ねる『委員長』。

蛍はくびをブンブンと横に振る「ボクは敬のそばを離れていないよ。ね?敬」

敬は蛍の物言いに首を縦に振る。

そんなはずは無い… 『委員長』はそういい掛けて言葉を呑み込んだ。

「そう…」力なく応じて自分の席に戻って額に手を当てた。

どうもさっきから頭の中がもやもやしているし、なんだか体が熱っぽいような気もする。 薫の言ったとおり休んでくれ

ばよかったかも知れないと思った。


敬は『委員長』が席に戻るのを目で追っていた。

グキッ 「あいてっ!」 敬の首に鈍い痛みが走った。 蛍が敬の頭を両手で挟み、自分のほうを向かせたのだ。

「蛍!」

「ボクの方を見てなきゃ駄目!」文句を言う敬にふくれっ面の蛍が応じる。 そこに2人の男子生徒がなにやら話しな

がら戻ってきた。

「いやー凄かったな、あれ」 「保健室の先生だろ?『ガリ』といたのは」

「何だ?何があったって?」好奇心いっぱいで誰かが聞くと、良くぞ聞いてくれたと言わんばかりの調子で「いやそれ

がな、『ガリ』の奴と保健室の先生が、学食で差し向かいで飯を食ってるんだ。それも丼から定食まで5人前ぐらいず

つだぞおい」

「はぁ?なんだそりは?」「『ガリ』の奴、単に腹が減ってただけか?」「ばーか、それらな保健室の先生まで一緒にな

って飯を食うか」

周りでわいわい騒ぐ声を『委員長』はひどく遠くに聞いていた。


ただいま… 元気の無い声で帰宅を告げ、『委員長』は自室に戻った。

放課後にもう一度保健室に言ってみたが『ガリ』も『蛍』も、それどころか薫すらもいなかった。 帰ったのだろうか?

机に向かい、鞄から教科書を取り出しながらそんな事を考えた。

コロリ… 何かが鞄から落ちた。 視線を向けると一本のロウソクが転がっている。

首をかしげながらそれを拾い上げる(変ね?覚えは無いけど) 何の気なしに机に立てる。 愛想のデスクの真ん中で

ロウソクは白いオブジェの様に見えた。


チリ… 微かな音がして、ロウソクの灯心が赤く光る。 『委員長』はそれを見て訝しげな顔になる(ひとりでに火がつ

いたの?)

チリチリ… 音は次第に大きくなり、とうとう小さな炎が灯る。 ユラユラゆれる炎を凝視する『委員長』

はぁ…    (?)

はぁ…はぁ… (え?)

はぁ…いい… (なに?)

何か聞こえた気がする。 何かが見えたような気がする。

『委員長』の視線が炎に釘付けになる。 

ホウッ… 淡い光が広がり、白い人影が目に映る。             (『蛍』さん?)

ポウッ… 輝きがまし、それがはっきり見える… 足を開いている『蛍』が。 (やだ…)

微かに顔をしかめながらも、『委員長』は炎から目を離さない。

炎に映る『蛍』は足を開いて、自分の胸をまさぐっている。

うふぅ… あん… 軽く目を年閉じ、恍惚の表情で甘い声を上げている。

はぁ…はぁ… 『委員長』の息が次第に荒くなっていく。

あん… 『蛍』は右手人差し指の第一間接を咥え、左手でしきりに胸を弄る。 そしてしきりに腰を揺すっている。

右に、左に、上に、下に、円を描いて『蛍』の女が優雅に舞う。 舞いながら何かを誘う。 何を?

しかし、何かは来ない。 いくら待ってもやって来ない。 ならば…

『蛍』の右手が口から胸に、胸から鳩尾に、自分の体を弄りながら降りていく。 

白い指がつややかなお腹を撫でると、早く早くと腰が動く。 もっと下よと誘い続ける。

下に、そうもっと下… 大事な所、輝く真珠、其処に指が…触れた。

あっ…! 『委員長』の体を甘い痺れが貫いた。 自分の指がショーツに潜り込んでアソコに触れていた。

(そんな…) 驚き、そして炎に目が行く。 

『蛍』が動きを止め『委員長』をじっと見ていた。 二人の視線が交錯する。

ふ… 『蛍』が再び動き始めた。 指を真珠にあてがったまま、リズムをつけて腰のほうを細かく振る。

ヒクン! ヒククン! ヒククン! 

あっ!  ああっ!  ああっ!

淫猥な声を上げて炎の中で踊る『蛍』から『委員長』は目を離せない。 いつしか『委員長』の腰も『蛍』に合わせて震

えていく。

ピクッ  ヒクッ!  ヒククッ!

は…   はぅ    はぅぅっ!

次第に大きくなる腰の動き。 それに合わせて熱く、強くなっていく甘い痺れ。 『委員長』は椅子の上で腰を震わせ、

踊り悶える。

体の奥から溢れてくる喜びが『委員長』の欲望に火をつけ、少女を女に変えていく。

ふっ! ふっ! はぁぁぁぁぁ!

くっ  くっ  くぅぅぅぅっ
 
小さく声を上げて、『蛍』と『委員長』の踊りはクライマックスを終えた。

はぁはぁはぁ…椅子に体を預けながら息を整える『委員長』。

ユラリ… 机の上でロウソクの炎が揺れた。

『委員長』は体を起こし炎を見つめる。 その瞳はどんよりと曇り、奥に灯った欲望の明かりをゆがんで映している。

「あは…」だらしの無い笑みを浮かべ、『委員長』はロウソクに手を伸ばす。

(ふふ…)どこかで『蛍』の笑い声が聞こえた。

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