ともしび

11.火喰い


翌日、敬のクラス。

いつものように『委員長』が一番乗りして来た。

鞄を開け、中身を出していると、これまたいつもの通りに『ガリ』が入ってきた。

「お早う…」挨拶しかけた委員長の目が丸くなる。 げっそりとやつれた顔はまともな状態に見えない。

「ちょっと、ひどい顔色じゃないの」言いながら『ガリ』の額に手を当てる「熱は無いみたいだけど。保健室に行った方が

良いわよ、絶対に」

「保健室…」『ガリ』は『委員長』の言葉を繰り返した「うん…」

彼は鞄をドスンとその場に落とし、そのままフラフラと教室を出て行く。

『委員長』は付き添おうかと思ったが、『ガリ』の鞄を拾って彼の机に載せている間に彼はいなくなってしまった。

廊下に出てみたが『ガリ』はもういない。 少し迷ってから彼女は教室に戻った。


(保健室よ…)

頭の中で誰かが呟く。 女の子の声、しかし委員長ではない。

『ガリ』は夢遊病者か何かのように廊下を歩いて行った。

すぐに目的の場所に着いた。 引き戸に手を掛けて中に入る。

暗い。 廊下には爽やかな朝の光が溢れているのに、カーテンの締め切られた保健室の中に満ちているのは闇、そ

れもひどく澱んでいる。

『ガリ』は気にする様子もなく室内に踏み込み、後ろ手で扉を閉めた。


ホウッ

闇の中に淡い光が灯った。 スリガラスを透して見るロウソクのような光だ。 

「いらっしゃい」光がしゃべった。 『ガリ』に聞こえていたのと同じ声で。「ボクは準備できているよ」 

『ガリ』は空ろな表情で服を脱いで下着姿となる。 そのまま彼は、壁に体を預けるようにして座り込んだ。

と、彼の下着が…意やそれは下着ではなかった。 ガリの胴体を覆っていた白い何かは、火に炙られたロウソクのよ

うに溶けて床に流れ落ちて行く。

後には、肋骨の浮き出した全裸の『ガリ』だけが残っている。

ひどく粘っこいその白い液体は、やがて床の上で一つの塊になった。

つややかな表面を持った卵形の塊。 その表面にさらにこぶがが出来複雑な形を成していく。

壊れた人形のような『ガリ』の前で、白い『何か』は蠢き、形を変えていく。


「…う?」『ガリ』の目の焦点があって来た。「ここは…僕は…」額に手を当てて、自分がどこにいるのか思い出そうと

する。

「気がついたね」すぐそばで声がして、顔を上げる『ガリ』。 目の前に一人の…10歳ぐらいの少女が立っている。「君

は…昨日の夢の?」

少女は『ガリ』の言葉に首を傾げ、頷いた。「ひどいな。ボクとの事は夢だと思ってたんだ」

『ガリ』はっきりしない頭に苛立つ。「ひどい?夢じゃない?どういう事なんだ」

少女は微かに笑った。 「すぐに判るよ…すぐに」 そう言って少女は背を向けた。

彼女が裸であることに『ガリ』はようやく気がついた。


あ…はぁ… 甘いうめき声が『ガリ』の鼓膜を叩いた。

彼ははっとして顔を上げる。 淡い光…そこから声がしている。

『ガリ』は光を凝視した。 あいまいだった闇と光の境界が次第にはっきりしていく。 

「せ、先生…」ゴクリと音を立てて喉を鳴らす『ガリ』。

そこに淫靡な光景が展開されていた。

女教師『薫』。 彼女がベッドの上で大きく足を広げ、そこに一人の少女が顔を埋めている。

ピチャ…ピチャ… 濡れた音は少女が舌を使っている為か。

あぁ…あぁ… 薫の声はそれ自体がじっとりと濡れているかのようだ。

『ガリ』はその光景に目が離せない。


二人の痴態を凝視していた『ガリ』の視界に、さっきの少女が入ってきた。

彼女は薫を責めている少女に背後から重なる。 一瞬ぼやける二人の体。

(!?)『ガリ』が再び驚愕する。 さっきまで二人いた少女が一人になっている。 いや、さっきまでの少女達がいなく

なり、薫を責めているのはもっと年上の…15ぐらいの女の子だ。

彼女は彼に尻を…そしてアソコを向けている。 ゆっくりと『ガリ』に向かって尻を振りながら、彼女は薫の秘所を丹念

に舐めあげている。

ホウッ… 彼女のお尻、そしてアソコは暗い保健室の中でも奇妙なほどくっきりと『ガリ』に見える。

(光っている…) そう、淡い光を放っているのは女の子の体だ。 『ガリ』を誘うように光る尻が揺れる、右に、左に…

ヒクリ…ヒクリ… 『ガリ』の股間がそれにあわせて震え、彼の心に女の子に対する不自然な欲望が沸き起こる。

「き、君は?何者なんだ?」 搾り出すように『ガリ』が言った。

女の子は顔を上げて『ガリ』を見る。

「蛍ちゃん!」『ガリ』は驚いた。「…いや、違う?君は誰!?」

蛍にそっくりなその女の子は、『ガリ』の問いには答えず喉を鳴らして笑った。


「…あふ…ねぇ…早く」薫が『蛍』に声を掛ける「あたしを…奪って」

『蛍』は手で薫を慰めながら『ガリ』に言った「待ってて。すぐ君の番だから」

『ガリ』がその意味を聞尋ねる間もなく、『蛍』は再び薫の秘所に顔を埋めた。

あん…ああん… たちまち薫の呼吸が荒くなる。 腰を震わせ、両手で『蛍』の頭を押さえる。

濡れたものが這いずる音にあわせ、薫の体が震える。 その光景はひどく淫らだった。


(…?) 『ガリ』はおかしなことに気がついた。 薫の体、正確にはそのお腹の辺りが微かに光っている。 蛍と同じよ

うに。

あん…ああっ…ああっ!… 薫の声が高くなって来るにつれて、その光も強くなって行く。 しかし、『ガリ』にその意味

が判るはずもなかった。

ヒクッ…ビクッ…ビクリ! 薫が体を激しくくねらせ絶頂が近い事をアピールしだすと、『蛍』は薫を舐めながら手で下腹

…丁度光っている辺りを撫で始めた。

いくっ…いくっ…いいっ!…あ…あぁぁぁぁぁぁぁ!! 熱い声を上げて薫が絶頂を迎え、女教師は無愛想な保健室の

ベッドの上で体を仰け反らせる。

ヒクヒクヒクッ… 長い痙攣の後、アーチを描いていた女体は力を失って崩れ落ちた。


『蛍』は体を起こし、愛しげに薫の下腹を撫でていた。 と、その手が止まる。 「ほら…出てきた」

『ガリ』の視線が薫の股間に向けられる。 その秘所から白いトロリとしたモノが流れ出してくる。

「なんだ…?」 男性との交渉の後なら当然それは… しかし今は『蛍』が相手だったはずだ。

『ガリ』首を傾げていると、さらに奇怪なものが出て来た。 『炎』…薫のから流れ出たモノの上で炎が燃えている。 『

蛍』が火をつけた訳ではない。 白いモノに火がついたまま、薫の中から流れ出してきたのだ。

あっけにとられる『ガリ』。 『蛍』はその白いモノごと『炎』を掬い上げ、『ガリ』に示す。「ほら…綺麗だろう」

「それは…何なんだ?」

「これは…この人の魂だよ」そう言って『蛍』は『炎』をそっと舐めた。

ひぃぃぃ… 紛れも無い歓喜の声を『炎』が、薫の声で上げた。

「な、何だって」かすれた声で聞き返す『ガリ』。 そんな話、普段ならば笑い飛ばしていたろう。 しかし今は…

二度三度と『炎』を舌先で愛撫する『蛍』。 その度に『炎』は歓声を上げ、その中に薫の顔が浮かぶ、歓喜の表情で。

「!」『ガリ』の目が見開かれ、『蛍』と『炎』の間を往復する。


『蛍』は『ガリ』を見てにっと笑った。 そして手に持った白いモノを口に入れ一気に呑み込む。

「あっ!」『ガリ』が叫んだ時にはもう『蛍』の喉がゴクリと動いた後だった。「な、なんて事を!」

くくっ… 蛍が喉を鳴らして笑う。「なんて声を出すの、君は?」

「き、君は自分のした事が判って…」後は声にならない。 金魚のように只口をぱくぱくさせる『ガリ』

「ふふ…」『蛍』は笑い、一歩『ガリ』に近寄る。

『ガリ』ははっとした。 彼女は言った「次は君の番だ」と。

【<<】【>>】


【ともしび:目次】

【小説の部屋:トップ】