ともしび

10.陽炎


「…ただいま」 『ガリ』は陰気な声で帰宅を告げた。

もっとも、暗い部屋に応える者はいない。 ここは彼が一人で借りているアパートなのだ。

重いカバンを無造作に放り出し、上着を乱暴に脱ぎ捨てると、電気もつけずにベッドに倒れこんだ。

乱れた布団から埃が舞い上がり、『ガリ』は2,3度咳き込んで、ごろりと仰向けになり、眼鏡を額に乗せる。

(こんな時間まで…僕…何をしていたんだっけ?) ぼんやりとした天井を見上げて考える。

『蛍』…敬がそう呼んでいた美少女を捜して…それから何があったのか…どうにも思い出せない。

(…なんだか…疲れた…) 目を閉じてみる…しかし、眠いというのも違うようだ。 

『ガリ』は目を空け、体を横にした。


「?」 床の上の赤い光が目に入った。 どうも線香のような光だ。

「火!?」 眼鏡をかけ直しながら、慌ててそれを拾い上げる。 ロウソクだ。 上着のポケットから転がり落ちたのだろうか。

「…なんだ? こんなものをどこで… 危ないな。火がついたままだよ」

ぶつぶついいながらそれを検める。 確かにロウソクだ…芯が線香のようにくすぶっている。

『ガリ』は、それを吹き消そうと息をはきかけた。 すると小さな音を立て、ロウソクに火がついた。

目を丸くする『ガリ』… 揺れる炎に合わせて、彼の背後で影が踊っている。


彼は食い入るように炎を見つめる。 チッチッチッ…何かが時を刻む微かな音だけが部屋の中に響いている。

(…きれいなロウソク…まるで女の子の肌みたいに滑らか…)

”女の子の肌?”

(…そう…なめらかで…しっとりして…優しい…)

”…そう…”

炎が揺れてロウがたれ、『ガリ』の手を汚す。 しかし、彼はそれを気にする様子もなく炎に見せられたように、ロウソクを凝視し続けた。


チリ… 炎が一際大きくなった…と思った途端、ロウソクが一気に溶ける。

「!?」ロウソクを離す間も無く、溶けたロウが『ガリ』の右手を包み込み、炎が手に移る。

「ひっ…い?」

炎が消えた…と思ったが、なぜか光が残った。 彼の右手を包み込んだロウが淡い光を放っている。

『ガリ』は自分の手をまじまじと見つめる。

溶けたロウは、手袋の様に『ガリ』の右手を覆っている。 しかも…

「まるで…女の人の手だ…」

細く長い指、優美なカーブを描く爪。 その下に自分の手が隠されているとは思えないような形になっている。 それが淡い光を放ってい

る。

『ガリ』はロウを剥がすことも忘れ、手のひらと甲を、交互に見つめた。 何度も、何度も…


ロウが覆っている為か、手の感覚が鈍い。 

手を開き、閉じるてみる。 不思議な事に、ロウの表面にはひび一つ入らない。

(これで…したら…) いかがわしい発想が浮かぶ…もっとも健康な男の子ならば当然かもしれないが。

手が瞬くように光る。 それを見ても不思議とは思えない。 ただ、この手のがどんな感触を与えてくれるのか、それだけが頭の中を閉め

ていく。

ガリはベッドに座って壁に背を預け、いそいそとチャックを開くと、あれを取り出そうと右手を差し入れる。

「…ふわぁ…」

縮こまったものに、冷たく細い指が絡みつく感触に思わず声が出た。

「本当に…誰か女の人にされて…あ…」

手が陰嚢うを包み込み、細い指がもみしだく感触。 クニクニと動く指の動きに、彼のイチモツが反応していく。

くっ… たまらずアレを握り締めた…つもりだったが、右手は意思あるものの様に勝手に動いて、亀頭を優しく握り締めて、敏感な部分を

摩り始めた。

!?…ん…ん… 股間をなぶる右手の動きは絶妙で、アソコが次第に熱く…そして背筋をせりあがって来る熱い快感。

くっ…くっ…くっ…くうっ…! 初めて自分を慰めるし少年のように、『右手』の感触に夢中になる『ガリ』。 

熱い快感は、たちまち脳天へ突き抜け、『ガリ』を支配する。

ビュク、ビュクビュクビュクビュク…ヒクッ…ヒクッ… 服が汚れるのもかまわず、『ガリ』は手に弄ばれるようにして絶頂を迎えた。

うっ… 一声ため息を漏らし、彼は壁に体を預けたまま余韻に浸った。


「しまった…な…」

少しの間が空き、『ガリ』はのろのろと体を起こした。 

汚れを確かめようとシャツをさぐる…濡れていない。

「?」 股間のものを左手で…こちらも『アレ』で汚れている感じてはない。

首を捻り、次に右手を見る。 と…

「!」 右手を覆ったロウが脈打って…膨らんでいく。 

硬直する『ガリ』を尻目に、右手を覆っていたロウが溶けて流れ落ち、太ももの脇で塊となった。

それは膨らんだり縮んだりを繰り返し、やがて何かの形となった。

「…人形(にんぎょう)?」

『ガリ』の言ったとおり、それは大き目のフィギュアのような形…それも女の形になっていた。 それが光る…あの淡い光を宿している。

「…」

それが光っていると認識した途端、『ガリ』の体が動かせなくなった。 


人形が『ガリ』の方を見た。 『ガリ』は『彼女』が笑ったような気がした。

『彼女』器用にガリの太ももによじ登ると、力を失ったままのイチモツを抱きかかえた。

(…) 抵抗できない『ガリ』が見守るうちに、『彼女』は小さな口で鈴口を頬張った。

うっ… 小さく鋭い刺激が鈴口を襲う。 ツボを心得ているのかむくむくと力を取り戻していく『ガリ』自身。

『彼女』は両手をカリの下に回し、かりかりと引っかきながら亀頭を甘噛みしている。 

こりこりした刺激が縫い目に当たっているのは乳首なのだろうか。

小さな足が、陰嚢のしわにくい込み、広げ、中身を踏みつける。

あっ…あっ…あっ… 『彼女』の動き一つ一つが『ガリ』を熱くしていく。

ビクンビクンビクン… 不気味に震えだす『ガリ』自身。

『彼女』は『ガリ』の亀頭に顔を埋め、そして吸った。

キュゥッと尿道に痛みが走り、次に甘くヌラリとした感触が迸る。

ヒクヒクヒクヒク… 

再び熱い迸りの快感が『ガリ』酔わせる。 そして『彼女』も…


「うっ…はぁ…」 何度目、いや何十回目かの絶頂に『ガリ』が震える。

もともと細面だった『ガリ』は骸骨のような容貌となり、体は骨格標本のようになっていた。

その上で『彼女』が妖しく蠢いていた。

『ガリ』の腰に跨っている『彼女』は、わずかの間に5歳児ぐらいの大きさに『成長』していた。

いたいけで幼いソレが、そこだけ黒々と逞しい『ガリ』のイチモツを咥え込み、小さな腰が激しく上下している。

ズルル…ズルル… 頭の中で淫猥な音がガリ』を支配し、底なし沼のような快楽に引きずり込んでいる。

ひぃぃ…ひぃぃ… 戦慄きながら、悦楽の呻きを漏らす『ガリ』…

『彼女』が大きくなるにつれて、その『ともしび』は輝きを増し、それにつれて『ガリ』の欲望も強くなる。

次第に成熟していく体が与える快楽は、この世のものとは思えなかった。

ひぃぃ…ひっ… 小さな声を上げて『ガリ』がいき、同時に激しくよがっていた『彼女』も動きを止める。

二人はそのままの姿勢でしばし固まった。


少しして、『彼女』は『ガリ』から降りた。 『ガリ』が小さく震えているからまだ生きてはいるようだが…

「ふぅ…」 『彼女』は『ガリ』を見て薄く笑う。 「まだだよ…まだ逝っちゃ駄目…ボクをもっと育てて…」

ひぃ… 『ガリ』が漏らしたのは悲鳴か肯定の頷きか… 『ガリ』自身にも判らなかった。


同じ頃の蛍と敬。

「あの…蛍さん…」

「何?…」 ニコニコ笑って答える蛍。

「その…気になるんですけど…」

蛍はまたも敬の部屋に来ていた。 ただ今夜はなぜか敬を誘おうとせず、ベッドに座ったままじっと敬を見つめて微笑んでいるだけだった。

「気にしないで♪」

「でも…」

「ボクはこうして敬を見ていられたらいいの♪」

「…」言葉に詰まる敬。 蛍の発想と行動を敬が理解できるようになるのはいつの事であろうか。

【<<】【>>】


【ともしび:目次】

【小説の部屋:トップ】